日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

医科歯科連携シンポジウム

医科歯科連携シンポジウム2 リウマチ/早産・低体重児出産

2017年12月16日(土) 14:20 〜 15:50 A会場 (メインホール)

座長:吉江 弘正(新潟大学大学院医歯学総合研究科 摂食環境制御学講座 歯周診断・再建学分野)

[CS2-2] 歯周病と関節リウマチ-コホート研究からの知見と課題-

橋本 求 (京都大学医学部附属病院リウマチセンター)

研修コード:2504

略歴
2000年  京都大学医学部 卒業
2000年  京都大学医学部附属病院 内科研修医
2001年  国立病院機構京都医療センター 総合内科医員
2004年  京都大学大学院医学研究科・臨床免疫学講座
2008年  大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任研究員
2011年~現在 京都大学医学部附属病院リウマチセンター 特定助教
   京都大学大学院医学研究科・リウマチ性疾患先進医療学講座 特定助教

資格
日本内科学会 総合内科専門医
日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医
歯周病は,30歳以上の成人の約80%が罹患している慢性疾患で,口腔内のみならず,虚血性心疾患や脳卒中など全身の様々な疾患に影響を与えていることが知られている。その中でも最近特に,歯周病と関節リウマチ(RA)との関係が注目されている。RA患者の約8割の血液中には,シトルリン化された蛋白質に対する自己抗体(抗シトルリン化蛋白抗体;ACPA)が検出されるが,この抗体はしばしばRAの発症に先立って検出される。一方,近年,代表的な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisが,現在知られている中で唯一のシトルリン化酵素を産生する細菌であることが報告された。そのため,歯周病の罹患が,P.gingivalis由来のシトルリン化酵素による過剰なシトルリン化蛋白の産生を介して,ACPAの産生やRAの発症の契機となるのではないか,との仮説が提唱されたためである。しかし,歯周病とRAとの間には双方向的な因果関係が示唆されており(RA患者では手指の機能障害による口腔衛生不良や免疫抑制剤の使用による易感染性などにより歯周病を併発しやすくなる),歯周病とRA発症との間の因果関係をしめすためには,未だRAを発症していない患者を対象とし,厳密にデザインされたコホート研究が必要である。
京大病院リウマチセンターと歯科口腔外科(別所和久教授)の共同研究グループは,約1万人の健常人を対象とした疫学調査(ながはまコホート)のデータを解析し,RAを発症していない健常人の1.7%にACPAが検出されるが,この抗体の有無や力価と歯周病の臨床評価との間に有意な相関が認められることを示した。また,京大病院リウマチセンターを未治療,未診断で受診した72名の関節痛患者の歯周病状態を評価し,それらの患者の追跡調査を行った結果,初診時に歯周病をもつ関節痛患者は,歯周病をもたない関節痛患者に比較して,その後RAと診断され抗リウマチ治療を開始されるリスクが約2.7倍高くなることを見出した。なお,歯周プラークにおけるP.gingivalisの有無との相関もみてみたが, P.gingivalisとの相関はみられず,臨床的に歯周病に罹患していることが重要と考えられた。
これらの研究結果は,歯周病の罹患がACPAの産生やRA発症の誘因となる可能性を示唆している。一方,本研究では P.gingivalisとの相関は示されなかったが,他の報告でもP.gingivalisとACPAやRAとの相関についての評価は定まっていない。近年,P.gingivalis以外にも,Prevotella copriが早期RA患者の細菌叢で増加しており,Th17細胞の誘導を介してRAの発症に寄与するとの説や,Aggregatibacter actinomycetemcomitansが,ヒト好中球の内在性のシトルリン化酵素の活性化を介してACPAの産生に寄与するなどの興味深い報告もなされている。
本講演では,近年のコホート研究から得られた歯周病とRAに関する最新の知見を紹介するともに,今後の研究課題についても考察したい。