[KS1023-1] 急性期症例
急性期からの呼吸機能障害に対する呼吸理学療法としては,集中治療室(ICU)等での人工呼吸管理症例への介入がまず想起される。従来,ICUでの呼吸理学療法は先駆的な施設にて実施されてきたものの,重要性はそれほど広く認識されたとは言いがたい。2000年当時のICUにおける呼吸理学療法のシステマティック・レビュー(Stiller, 2000)によれば,科学的根拠があるとして認められたものは体位ドレナージ及び急性無気肺に対する取り組みのみであり,その他に関しては根拠が乏しいと結論づけられていた。しかし,その後10数年の間に積み重ねられた様々な知見により,集中治療における呼吸理学療法の早期からの実施には,入院及びICU在室期間の短縮,非人工呼吸器日数の増加,せん妄発症の軽減など様々な効果が示唆されるようになった(Needham, 2010. Stiller, 2013)。その背景には,必要以上の薬剤投与や不動により生じると考えられる神経筋障害の概念提唱や,鎮静薬と鎮痛剤選択の変遷,そしてせん妄管理の厳密化など,集中治療における症状に対する治療から予防的対処へのパラダイムシフトがあり,いまや呼吸理学療法は必須の非薬物療法として集中治療戦略の一部を占める。しかし,経験年数が少ない,あるいはこれから急性期呼吸理学療法に携わるという会員にとって,人工呼吸管理を必要とするような重度の呼吸不全症例に対して安全かつ適切な理学療法評価と介入に対するハードルは確かに低くはない。その理由は一般的な理学療法評価項目のみならず,人工呼吸器設定や,呼吸循環動態ならびに鎮静鎮痛レベル,せん妄も含めた意識状態の確認等,症例に付随する評価項目が多々あることも一因である。そこでこの症例検討会では,ICUにおいて人工呼吸管理を要した急性呼吸不全患者を提示症例として,理学療法士の立場から病態とその管理状態をどのように評価し,何を目標として実際の介入を行うのか,詳説を行いたい。