第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P09

2016年5月27日(金) 16:30 〜 17:30 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-09-3] 狭い間口通過時に生じるすくみ足の発現機序の検討

歩行中のEEG計測を用いて

奥埜博之1, 兒玉隆之2, 河島則天3 (1.摂南総合病院リハビリテーション科, 2.京都橘大学健康科学部理学療法学科, 3.国立障害者リハビリテーションセンター研究所)

キーワード:進行性核上性麻痺, すくみ足, EEG

【はじめに,目的】

すくみ足(以下,FOG)は,パーキンソン病や進行性核上性麻痺(以下,PSP)などに発現する歩行障害であり,歩行の開始時や方向転換時,狭い場所の通過時などさまざまな状況下で発現する。しかし,FOGの発現機序は未だ不明な点が多く,整理・体系化されていないのが現状である。我々は前回大会において,パーキンソン病患者のFOGが,歩行開始前の運動成就に関するオフラインでの予測・計画によって回避出来ることを示唆する結果を報告した(第50回日本理学療法学術大会)。本研究では,狭い間口通過時に著明なFOGを生じるPSP症例を対象として,FOGの発現に至る時間変化に沿って脳波活動を観察し,オフライン予測によるFOGの回避の発現機序について検討することを目的とした。

【方法】

対象は2年前にPSPの診断を受けた70歳代男性。狭い間口の通過時に著明なFOGを認めたが,間口までの歩数を事前に予測することで,FOGがほぼ消失することが特徴的であった。そこで,3m先の間口(幅70cm)を通り抜ける歩行課題を設定し,①座位安静(10秒),②立位安静(10秒),③準備期間:予測あり/なし(10秒),④歩行開始のシーケンスを9試行実施した。9試行のうち,4-6試行は運動成就に関する予測(間口通過に要する歩数の予測)を行う条件とした。gtec社製乾式アクティブ電極と無線式アンプの使用により,課題実施中の脳波活動を記録周波数1000Hz(High-Low cut:400Hz-0.1Hz)で記録した。各シーケンスにおける活動部位をLORETA解析によって同定し,予測の有無による変化を比較するとともに,microstate解析によって脳活動の時間的様相を検討した。

【結果】

間口通過時のFOGの発現は,予測の有無によって変化した。予測なしの条件では,安静座位,立位に続いて準備期間にも安静活動を呈し,歩行開始後に眼窩前頭皮質,前頭前野に活動増加を認めた。一方,予測ありの条件では,準備期間に運動成就の予測や計画由来と思われる左前頭前野の活動を認め,歩行開始後には両側性の後頭頂皮質の活動増加を認めた。

【結論】

本症例においては,歩行実施中に間口の通過という認知活動が加重されることで,前頭機能の動員を要する結果,FOGが出現した可能性が考えられる。事前に間口通過に要する歩数を予測することでFOGが消失したことは,間口通過時に要求される前頭機能の動員を予め回避できた結果であると推測される。脳波の解析結果は,予測ありの条件で歩行開始時の前頭前野の活動が抑えられ,視覚情報処理に関わる後頭頂皮質の活動が高くなることを示しており,上記仮説を支持する結果となった。したがって,同患者のFOGの改善に向けた介入においては,前頭前野の過活動と歩行運動への干渉をどのように調整するか,という視点が重要になる可能性がある。