第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本小児理学療法学会 一般演題ポスター
小児P01

2016年5月27日(金) 11:50 〜 12:50 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-SN-01-4] ダウン症児にみられる特異的な起き上がり動作が独歩獲得へ及ぼす影響

鈴木涼平1, 石原美智子1, 加藤純1, 中尾龍哉1, 河合恵2 (1.愛知県心身障害者コロニー中央病院, 2.愛知県心身障害者コロニーこばと学園)

キーワード:ダウン症, 運動発達, 起き上がり

【はじめに,目的】

ダウン症児は運動発達の中で腹臥位から両脚を開脚して座位に移行する特異的な動作(以下,バレリーナ様の起き上がり)が生じやすい。この動作は運動発達遅延や股関節の緩みを助長するなどの報告はあるが,独歩獲得への影響を明らかにした研究は少ない。今回,当院で理学療法を実施したダウン症児でバレリーナ様の起き上がりを経験した児に独歩獲得時期が遅延する傾向がみられたため,考察を交えて報告する。

【方法】

当院で作成した評価表及び,カルテ記載を基に運動発達の経過を後方視的に調査した。対象は平成23年度から平成27年度に当院で理学療法を実施し,独歩を獲得したダウン症児17名。理学療法開始月齢は平均10.6±5.3ヶ月であった。理学療法は月に1回,40分間実施した。バレリーナ様の起き上がりを経験した児をA群(6名),しなかった児をB群(11名)に分類し,独歩獲得月齢の平均値を比較した。統計解析には対応のないt検定を利用した。

【結果】

独歩獲得月齢平均はA群:30.2±3.7ヶ月,B群:23.1±3.0ヶ月であり,有意差がみられた。(p<0.01)

【結論】

正常発達の中で腹臥位から座位への起き上がり動作は,四つ這い位を介す必要がある。四つ這い位を経由せずバレリーナ様の起き上がりをする要因として筋の低緊張が挙げられる。腹臥位姿勢で腹筋群,股関節筋群の活動は体幹や骨盤の安定性をもたらすが,これらの筋が正常に発達しないと下肢は肢位的な安定性を得るために広い外転位に保たれる(Lois Bly 1998)。ダウン症児は筋の低緊張により前述した筋活動が十分に得られず下肢を開脚した腹臥位姿勢を取りやすくなり,側方への重心移動や体幹の回旋運動が不足するため,より対称的な運動となるバレリーナ様の起き上がりが生じやすくなっていると考える。これに加えて肩甲胸郭関節,肩甲上腕関節等の肩甲帯の安定性,股関節屈筋群による下肢の引き込み,脊柱起立筋等の体幹筋群の弱さも四つ這い位への移行の困難を助長していると考える。

四つ這い位の未経験は四肢や体幹で体重を支持する機会を減らし,立位,歩行時に必要な脊柱起立筋,腹筋群,股関節周囲筋群等の筋活動を不足させるだけでなく,膝関節を屈曲させる機会を減らし立位姿勢での反張膝を誘発することが考えられる。また,筋活動の弱さに加えて乳児期初期から習慣的に下肢を開脚させた姿勢を多く取ることが立位姿勢での股関節の外転,外旋位を招き支持基底面を広くした姿勢を助長すると考えられる。これらの要因が立位で左右下肢への重心移動を困難にさせ,独歩獲得を遅延させていると考える。