第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本地域理学療法学会 一般演題ポスター
地域P07

2016年5月28日(土) 11:40 〜 12:40 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-TK-07-1] 転倒により整形外科疾患を呈した高齢者の実行機能と生活機能について

田中俊輔, 鈴木伸一, 濱崎綾子, 太田陽平, 山下まなと, 藤本絢, 野村侑加, 石谷比奈子, 向島亜由美, 川合弘基, 横山和彦 (菊川市立総合病院)

キーワード:実行機能, 生活活動量, Digit Symbol Substitution Test(DSST)

【はじめに】日常生活動作能力の低下や転倒リスクの増加を招く認知症は,深刻な問題であり,早期の予防が重要視されている。認知症の原因の一つとして,実行機能の低下が挙げられる。実行機能とは,目標達成のために適切に構えを維持する機能,つまり日常生活を送る上で必要な情報を整理し,計画し,処理していく一連の作業を円滑に行うために必要な機能である。この実行機能の低下は,身体活動量の低下や転倒の原因となることが示唆されている。一方,高齢者の生活空間の広さや活動頻度といった生活活動量においても身体機能と関連が強いことや,転倒発生率と関連があることが示唆されている。さらには身体機能だけでなく,認知機能の代表的な評価であるMini-Mental State Examination(MMSE)や実行機能とも関連があることが示唆されている。しかし,転倒により整形外科疾患を呈した症例での検証を行った研究報告は見当たらない。本研究では,転倒により整形外科疾患を呈した症例で,日常生活をおくる上で必要不可欠な実行機能と生活活動量との関係を明らかにすることを目的とする。

【方法】対象は転倒により整形外科疾患を呈した症例33名(男性8名女性25名 平均年齢80.7±5.5歳)とした。測定は,実行機能の評価としてDigit Symbol Substitution Test(DSST),Trial Making TestのpartA(TMT-A),生活活動量の評価としてLife Space Assessment(LSA)を用い,入院時に行った。解析について,DSSTの得点とLSAの得点,TMT-Aの成績とLSAの得点の関係性はSpearmanの順位相関係数を用い検討した。さらに,DSSTの得点が26点以上を良好群,26点未満を低下群とし,対応のないT検定を用い,LSAの得点の差の比較を行った。統計処理は解析ソフトRを用い,有意水準を5%未満とした。

【結果】DSSTの得点とLSAの得点との間に有意な正の相関関係が認められた(r=0.71)。TMT-Aの成績とLSAの得点の間には有意な負の相関関係が認められた(r=-0.59)。さらにDSSTの得点が良好群と低下群間のLSAの得点について,低下群は58.3±19.1,良好群は95.7±22.2であり,低下群で有意に得点が低いことが認められた。

【結論】本研究の結果から,転倒により整形外科疾患を呈した症例において,実行機能が低下しているほど,生活空間の狭小化や活動頻度が低下していることが示唆された。さらにDSSTの得点が26点未満の症例で生活活動量の低下が示唆された。DSSTについて,実行機能とともに脳の情報処理スピードを表す評価とされており,低得点であると転倒のリスクが高まることや身体の障害発生率,死亡率が高くなるという報告がある。このことより早期に実行機能や生活活動量を把握し,認知機能に対するアプローチや生活習慣指導を行うことは転倒予防,さらには健康寿命をのばすことにつながると考えられる。本研究は転倒における簡易評価や生活指導など予防介入の参考となる有効な知見となりうる。