第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本地域理学療法学会 一般演題ポスター
地域P09

2016年5月28日(土) 14:50 〜 15:50 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-TK-09-3] 蜂窩織炎及び菌血症を発症した高齢患者への理学療法介入

伊藤拓海, 田沼昭次 (安房地域医療センター)

キーワード:高齢者, 皮膚, 炎症

【はじめに,目的】高齢者は基礎疾患を有していることが多い。さらに,加齢により様々な全身状態の低下が認められるようになると,各種の感染症を発症することが知られている。感染症の中でも,蜂窩織炎や菌血症では合併症が多く重篤化する場合があるが,理学療法に関する報告は少ない。今回,虚血性心疾患や脳卒中の既往歴のあるG群連鎖球菌菌血症(以下,GGS菌血症)と蜂窩織炎,運動器不安定症と診断された症例に介入する機会を得た。リスク管理と運動負荷量に配慮した理学療法介入を行い,改善がみられたので報告する。

【方法】本症例は,蜂窩織炎,GGS菌血症,運動器不安定症の治療目的で入院となった80歳代女性。入院前は自宅に息子夫婦と孫との5人暮らし。日中はほぼ独居であり週4回デイサービス利用。自宅ではポータブルトイレ自立,デイサービスではシルバーカー介助歩行可能。第3病日より理学療法開始。初期評価時,右下腿遠位に熱感及び発赤,腫脹を認めた。運動時痛は右大腿後外側面でNRS7/10。右下腿遠位でNRS2/10。循環動態では,安静背臥位BP135/69mmHg,PR65bpm。基本動作は,起居移乗動作は要軽介助。歩行は前腕支持型歩行器を使用し軽介助にて連続30m可能。FIM合計60点。介入目標は,2週間でポータブルトイレ動作獲得とシルバーカー介助歩行を獲得しての自宅復帰と設定した。治療プログラムは,麻痺側の関節可動域練習,起居移乗動作練習,歩行練習,日常生活動作練習を中心に実施した。介入中のリスク管理としては,蜂窩織炎の症状増悪に留意した。さらに,虚血性心疾患や脳卒中の既往があるため,バイタルサイン管理や合併症予防に努め,運動強度は低負荷から介入した。

【結果】最終評価時,右下腿遠位の熱感及び発赤は消失。右大腿後外側面でNRS0/10。右下腿遠位でNRS0/10へと疼痛は軽減。起居移乗動作は自立。歩行は,見守りにて四点杖使用し連続20m,シルバーカー使用し80m可能となった。介入目標を達成し,FIM合計は84点へ向上し,第26病日に自宅退院となった。また,蜂窩織炎の再発防止のための生活指導,デイサービスでの運動指導を紙面上に記載し本人及び家族への指導を実施した。

【結論】本症例は,菌血症,蜂窩織炎に加え,虚血性心疾患や脳卒中,糖尿病既往などの重複障害を罹患していた。そこで,菌血症及び重複障害のリスク管理を念頭に置き,運動負荷量に配慮しながら理学療法介入を行った。結果,症状増悪や合併症に至ることなく目標を達成した。蜂窩織炎は,重篤な合併症を生じる場合があり,GGS菌血症も重症化した場合死亡例も報告されている。60歳以上の部検例第一の死因は感染症であり,全体の40%を占めるとの報告がある。感染症は高齢者にとって死亡リスクの高い疾患の一つであり,理学療法士は高齢者に好発する感染症の種類や特徴を詳細に理解し,バイタルサインの変化や全身症状の観察が必要であることが示唆される。