第52回日本理学療法学術大会

講演情報

日本神経理学療法学会 » ポスター発表

[P-NV-09] ポスター(神経)P09

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-09-3] 重心動揺リアルタイムフィードバックを活用したパーキンソン病患者の姿勢制御戦略の特徴分析の試み

藤井 慎太郎1, 岡本 昌幸1, 中村 潤二1, 久我 宜正1, 田口 尚寛1, 山根 悠加1, 西岡 由花梨1, 後藤 悠太1, 山﨑 聖也1, 河島 則天2 (1.西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部神経筋機能障害研究室)

キーワード:パーキンソン病, 姿勢制御, 重心動揺

【はじめに,目的】

パーキンソン病(PD)患者は,疾患重症度が高くなるほど重心動揺が増加するとされる。しかしPD徴候の多様性を勘案すると,単に増加の一途を辿るとは考えにくく,重症度や症候分類を反映する有効な評価手段を考案することは臨床評価上意義深い。PD患者の姿勢調節戦略を特徴づける上では,症候の多様性や個人差を加味した工夫などが求められるため,今日では有効な評価方法が確立されているとは言い難い。本研究では,立位姿勢時の重心動揺をリアルタイムに検知し,当人の知覚にのぼらないレベルでその動揺量を「増幅/減衰」させることが可能な装置を用いてPD患者の立位姿勢を双方向に操作的に変調させ,各条件間の重心動揺変数の反応特性の違いから姿勢制御戦略についての検討を行う新たな試みを行った。


【方法】

対象は当院にて入院または外来リハビリテーションを受けたPD患者23名(年齢:70.5±5.9歳,Hoehn & Yahr分類(stage1:3名,stage2:1名,stage3:13名,stage4:6名)とした。評価は,重心動揺リアルタイムフィードバック装置(BASYS,テック技販社製)を用い,重心動揺を変調させない静止立位条件(Non条件)に加え,立位姿勢時の足圧中心(COP)の前後動揺の大きさに対して10%床面を逆方向(増幅:Anti条件)/同方向(減衰:In条件)に移動させる3条件を実施した。各条件の計測時間は30秒とし,その間のCOPの95%楕円信頼面積(面積),動揺速度(速度)を算出した。また,PD徴候との関連の検討のためThe unified Parkinson's disease rating scale PartIII(UPDRS-III)を用いた。統計処理には,3条件間の比較に一元配置分散分析を用い,Bonferroni法にて多重比較を行った。またAnti/In条件での反応特性の評価のため,Non条件を基準としたAnti/In条件での変化率を算出し,対応のあるt検定にて比較した。有意水準は5%とした。


【結果】

面積,速度はNon,In条件と比較しAnti条件にて有意な増加を認めた(p<0.05)が,Non条件とIn条件間には有意差を認めなかった。面積,速度の変化率では,Anti条件は増加,In条件は減少を示し,条件間に有意差を認めた(p<0.01)。一方でAnti/In条件での面積,速度の変化率の関係性は症例により異なる結果を示し,(1)Anti条件にて増加,In条件にて減少する10例,(2)Anti/In条件ともに増加する6例,(3)Anti/In条件ともに減少する7例といった3つのタイプに分類された。しかし,タイプ間におけるUPDRS-IIIの小項目および合計点に有意差は認めなかった。


【結論】

重心動揺の増幅/減衰を与えた際の反応特性は,症例毎に異なる結果を示し,3タイプに特徴づけられることが示された。疾患重症度との関連を認めなかったのは,PDの姿勢制御戦略が経過とともに一様に変化しないことを示していると考えられる。静止立位時の重心動揺だけでなく自身の重心動揺の変調に対する反応特性を評価することで,個々の姿勢制御戦略の分析の一助となる可能性が考えられた。