第52回日本理学療法学術大会

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[P-NV-29] ポスター(神経)P29

2017年5月14日(日) 11:40 〜 12:40 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-29-4] 脳卒中片麻痺患者の尺骨神経に対してのエコー評価

篠田 光俊1, 安倍 基幸2 (1.国際医学技術専門学校理学療法学科, 2.星城大学リハビリテーション学部)

キーワード:尺骨神経, 超音波, 形態

【はじめに,目的】

上肢の過使用は,末梢神経障害の危険因子である。脊髄損傷者は,上肢の過使用による正中神経と尺骨神経の障害が高頻度に生じる。一方で麻痺側上肢が廃用手となった慢性期脳卒中片麻痺患者(以下,慢性期CVD)は,非麻痺側上肢が脊髄損傷者同様に過使用となるにも関わらず,圧倒的に正中神経障害の報告が多い。しかし,慢性期CVDは,非麻痺側の尺骨神経にも電気生理学的な異常を呈するとの報告もあり,尺骨神経にも形態学的な変化を生じている可能性がある。末梢神経の形態学的な評価では,超音波診断(以下,エコー)が有用である。本研究の目的は,慢性期CVDでの尺骨神経の形態学的な特徴を,エコーを用いて明らかにする事とした。




【方法】

対象は,発症から1年以上経過した慢性期CVD40名とした。対象の条件は,麻痺側廃用手,ADL自立,脳卒中初発,失語症・認知症はなし,糖尿病がある場合はコントロール良好者とした。対照は,上肢末梢神経障害を有しない,性・年齢・体格で慢性期CVDと差の無い健常者25名(両側50手)とした。

まず慢性期CVDに対して,尺骨神経障害に対する理学的検査を実施した。エコー評価は,短軸像で肘伸展位での肘部管部の尺骨神経断面積と,肘120度屈曲動作による脱臼の有無,そして,長軸像で肘伸展位から120度屈曲運動した際の尺骨神経の長軸移動距離とした。短軸はImageJにて計測し,長軸はDilleyらが開発した解析ソフトmotion2014v1を用いた。

検討は,健常,麻痺側,非麻痺側の3群に分け上記評価項目を比較した。統計処理は,t検定,χ2検定,Bonferroni法を用い,危険率は5%未満とした。




【結果】

理学所見で尺骨神経症状を有する者はいなかった。尺骨神経断面積の平均は,非麻痺側は7.29±2.54mm2であり,健常(6.51±2.25mm2),麻痺側(6.50±2.24mm2)と比較して増大傾向にあったが有意差を認めなかった。各群における脱臼の頻度は,多い順に麻痺側40.5%,健常30.0%,非麻痺側23.1%であり,その比率で有意差を認めなかった。長軸移動距離の平均は同程度であり,健常(6.28±2.39mm),麻痺側(平均5.73±2.33mm),非麻痺側(6.50±2.35mm)で有意差を認めなかった。




【結論】

先行研究では,健常者の肘部管部の尺骨神経断面積は,6.5mm2程度である。一方,肘部管症候群では神経が腫脹し,その断面積は明らかに大きくなる。今回の結果から非麻痺側の断面積が軽度増大傾向にあったが。臨床的に尺骨神経障害を有する例はいなかった。さらに非麻痺側上肢は,脱臼頻度が少ないうえに長軸移動距離も保たれている事が判明した。乃ち,動作時の尺骨神経に対するストレスは比較的少ないものと推測された。

以上より慢性期CVDでの尺骨神経は上肢過使用にも関わらず,エコーによる形態学評価で大きな差は無く,尺骨神経障害は生じにくいことが示唆された。