第34回大阪府理学療法学術大会

講演情報

口述 一般演題

事前公開

[O-03] 一般演題(基礎・スポーツ①)

2022年7月3日(日) 12:35 〜 13:35 会場6 (12階 特別会議場)

座長:西下 智(リハビリテーション科学総合研究所)

13:25 〜 13:35

[O-03-6] 円背姿勢の増強が歩行動作において右前方への不安定性を誘発した一症例  ~体幹伸展筋力トレーニング方法に着目して~

前田 翔梧1, 井尻 朋人1, 鈴木 俊明2 (1.医療法人寿山会法人リハビリテーション部, 2.関西医療大学大学院保健医療学研究科)

キーワード:円背姿勢、体幹伸展筋力トレーニング

【症例紹介】
 本症例は誤嚥性肺炎後の廃用症候群と診断された80歳代女性である。めまい発作で当院に入院され、食後に亜窒息状態となり、誤嚥性肺炎を併発した。主訴は「前に倒れそう」であった。退院後、屋内を独歩で移動する必要があったため、ニードを「歩行動作の安定性・耐久性向上」とした。

【評価とリーズニング】
 歩行距離増大に伴い、胸腰部屈曲・右側屈が増大し、左立脚期で右前方へのふらつきが著明に見られた。動作では、まず右立脚期に右下肢外側傾斜が過大に生じ、続く左立脚期では左下肢を内側に接地していた。その後の左立脚期は短縮し、右前方へのふらつきが生じていた。本症例の動作は一貫せず、左下肢を外側に接地した場合、その後の左立脚期は十分に確保できており右前方へのふらつきは見られなかった。この点から左下肢を内側に接地することが右前方へのふらつきを誘発していると考えた。その要因として胸腰部屈曲・右側屈の増強による体幹の右前方偏倚が右立脚期に過大な右下肢外側傾斜を生じさせていることであると考えた。これにより右前方への体重移動が過大に生じ、続く左立脚期に左下肢を内側に接地し、左下肢接地時からの左側方移動が乏しくなっていると考えた。検査の結果、体幹伸展MMTは1、体幹伸展筋力を徒手筋力計で計測したところ5.6kgfであった。胸腰部伸展可動域は-25°であり、静止時筋緊張検査では右外腹斜筋斜走線維、両腹直筋下部線維の筋緊張亢進を認めた。円背指数は32.7であり、胸腰椎移行部での後弯が著明であった。

【介入と結果】
 右外腹斜筋斜走線維、両腹直筋下部線維のストレッチを実施し、胸腰部の可動性を確保したうえでトレーニングを実施した。トレーニングの選定は、複数のトレーニングでの体幹伸展筋筋活動を表面筋電図で計測し、決定した。本症例の姿勢は胸腰椎移行部での屈曲が著明であったため、最長筋が最も活動し、股関節伸展での代償が少ない、前方の椅子を把持した状態での頸部・体幹伸展を選定した。治療は初期評価より25日間継続した。最終評価での歩行動作では、歩行距離増大に伴う胸腰部屈曲・右側屈の増大は軽減し、右立脚期の過大な右下肢外側傾斜は改善、左立脚期は十分に確保できていた。その結果、右前方へのふらつきは軽減した。体幹伸展筋力に関してMMTは2となり、徒手筋力計では14.8kgfとなった。胸腰部伸展可動域は-15°に改善、体幹前面筋の筋緊張は正常域となった。円背指数は24.7となり、胸腰椎移行部での後弯に改善が見られた。

【結論】
 脊柱アライメントに着目し個別性を考慮したトレーニングを実施したことで、体幹伸展筋力が向上し、歩行距離増大に伴う胸腰部屈曲・右側屈の増大は軽減したと考えた。これにより右立脚期での過大な右下肢外側傾斜が軽減し、続く左立脚期に左下肢が内側に接地することが無くなったことで、歩行動作の実用性が向上したと考えた。