日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S02. 地震計測・処理システム

S02P

2019年9月16日(月) 17:15 〜 18:45 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

17:15 〜 18:45

[S02P-08] RaspberryPiを用いた強震計ソフトウェアの開発

*伊藤 貴盛1 (1. 株式会社aLab)

IT強震計(鷹野他 2004)では、自助共助を目的とした「草の根型地震防災情報システム」を実現することを目指していた。その目的のためには、システムの標準化とともに、装置・運用コストの低価格化が必要とされていた。運用コストの低廉化については、VPS(virtual private server)とVPN(virtual private network)を用いた運用試験を実施している(伊藤他 2019)。
このネットワークに接続する地震計の一部に、RaspberryPiにアナログデバイセズ社のMEMS加速度センサのADXL355を接続して使用している。微動観測には能力不足だが強震観測には充分な精度を持ち(赤澤他 2019)、部品代15000円程度でIT強震計試作機(約60万円)以上の機能を実現できるので、現時点で製作可能で能力的に実用的な強震計では最も安価なものといえる。材料は一般に入手可能なもののみのため、誰でも部品を集めて組み立てることができる。ソフトウェアも、RaspberryPiがLinuxマシンなので必要な処理を自作すれば何でもできるが、ハードウェアの組み立てに比べて難易度が高い。RaspberryPiは起動ドライブが(micro)SDカードとなっており、このイメージをコピーすればシステムを簡単に複製できる。そこで、必要な機能を全てインストールしたSDイメージを作成し、関係者で共有するとともに、一般配布することとした。
テレメータ機能に関する部分はWINシステムをそのままインストールしている。そのため、WINシステムの知識があれば、データ転送や保存の設定は容易に追加できる。表示機能は、旧来のIT強震計のもの(伊藤他 2006)をベースに、JavaScriptを用いたWeb経由の表示(伊藤 2018)を実装している。RTCやGPSモジュールを接続すれば機能するように設定してあり、ネットワーク非接続の運用にも対応している。OpenVPNもインストールしてあり、サーバで作成した証明書と鍵ファイルをインストールすればすぐに低コストでVPN接続できる。ADXL355を接続しなくても(自身はセンサにならない)、既存のwinロガーの出力を受けてVPNでトンネルした経路を用いてサーバに送るという運用に用いることもできる。
イメージの初期状態は、有線LANはDHCP設定で波形記録はSD上、GUIモードで起動する。この状態では、家庭のテレビにHDMI接続してブラウザを起動することで波形等表示ができる。また、WiFiをアクセスポイントとして設定しているので、スマートホン等接続して操作することも可能になっている。この状態から必要に応じて、記録メディアの変更(SDの劣化防止)、CUIモードへの変更(負荷低減)、IPアドレスの固定化、VPN設定、WiFi接続設定などを行い、利用環境に合わせて運用できる。
小型低価格といえども、RaspberryPiはLinuxマシンであり、サーバと同じソフトウェアを実行できる。負荷の大きい表示も、Web利用のためRaspberryPiそのものの負担は大きくない。今後、サーバと共通の演算・表示機能の開発を進めていく。それらは、他の環境にも容易に移植可能であり、IT強震計の当初の目的に沿った自助・共助のためのアプリケーションの研究・開発に利用できる。
このRPi-ITKのSDイメージファイルは、
http://itk.seism.jp/dowmload/
で配布している。
(参考)
鷹野・伊藤・原(2004), IT強震計-その概念と試作-,地震学会,2004.10
伊藤・鷹野・林(2006), IT強震計用に開発したWeb利用の動的表示技術,地震学会,2006.10
伊藤(2018), JavaScriptによる地震波形表示の試み, 連合大会, 2018.5
伊藤(2018),WINシステムで利用可能なWeb利用のリアルタイム波形表示,地震学会,2018.10
伊藤 他(2019),廉価・容易に構築できる地震計ネットワークの提案,連合大会,2019.5
赤澤・伊藤(2019),廉価な高密度強震観測ネットワークの実現に向けた試験観測,連合大会,2019.5
ITK Wave Viewer (winPrint.js), (http://seism.jp)