日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S17. 津波

[S17]AM-1

2019年9月17日(火) 09:15 〜 10:30 C会場 (総合研究8号館NSホール)

座長:綿田 辰吾(東京大学地震研究所)、勝間田 明男(気象庁気象研究所)

09:15 〜 09:30

[S17-01] 2018スンダ海峡津波の発生メカニズム

*綿田 辰吾1、山田 真澄2、Mulia Iyan1、Karyono Karyono3、Aditiya Arif4、Sianipar Dimas5 (1. 東京大学地震研究所、2. 京都大学防災研究所、3. インドネシア気象庁気候地球物理庁、4. インドネシアチリ空間情報庁、5. 台湾国立中央大学)

2018年12月22日UT14時30分頃、インドネシアスンダ海峡周辺のジャワ島・スマトラ島を津波が襲い

400名余が犠牲となった。この津波の発生とほぼ同時期にAnak Krakatau火山が噴火し、火山の標高が噴火前

後で300mから100mへと低下したと報告されているため、津波は陸上または海中の山体崩壊が引き起こした

と考えられている。噴火直後のSAR画像から南西方向に山頂部を含め山体が崩落し海中に消失している。周辺

の検潮記録から、津波の発生は13時58分頃と推定される。インドネシア国内では火山噴火や津波発生時に強

い地震の発生の報告はないが、日本を含むインドネシア国内外の広帯域地震計には周期50-100秒の長周期の

地震波(S波・レイリー波)が明瞭に記録されている。S波は14時11分に日本の南西諸島へ、14時16分に北海

道へ到達している。表面波も14時27分に北海道を通過している。どの地震波も13時56分頃にAnak

Krakatau火山付近で長周期の地震波発生イベントがあったことを示している。遠地実体波から震源時間関数は

100秒以内(1分程度)であり、スンダ海峡周辺の4観測点の地震波形3成分は、最大5x1011 Nの力が、最初に

20秒間でほぼ北東方向わずかに上向き、さらに50秒で南西方向に方向でわずかに下向き向きに働いたことで

説明できる。力の方向と角度は、Krakatau海底カルデラ外縁部に成長していたAnak Krakatau山体の低角

(8度)南西方向へ水深250mのカルデラ底へ崩壊とそれに伴う津波の可能性を指摘していたGiachetti et al.

(2012, Geol. Soc. London) の山体崩壊モデルとほぼ一致する。山体崩壊の質量はEkstrom and Startk (2013,

Science) が経験的に求めた陸上地滑りの最大力と質量の比例式から3x1011 kgと推定され、山体の密度を

2gr/cm3 を仮定すると山体崩壊体積はおよそ0.15km3 となり、検潮記録から推定されている海底地滑りを引き

起こした体積0.2km3 とおよそ一致している。

 津波を引き起こすような地震が現地では検知されなかったため、津波警報は発令されなかった。一方、津波

の発生と共に発生したと考えられる長周期地震波は地震発生イベントの40秒後にはJakartaに到達した。もし

今回観測されたような長周期地震動が定常的にインドネシアでモニターされれていれば、Anak Krakatau山体

崩壊の早期検知とそれに伴う津波発生の可能性は津波被害発生前に把握できたかもしれない。