日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

特別セッション » S21. 長周期地震動 —その生成から構造物の応答、社会の対応まで—

S21P

2019年9月18日(水) 13:00 〜 14:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

13:00 〜 14:30

[S21P-01] 断層近傍の長周期地震動

*纐纈 一起1 (1. 東京大学地震研究所)

Koketsu and Miyake (2008)では通常の意味合いの長周期地震動だけでなく,断層近傍の長周期地震動 Near-Fault Long-Period Ground Motion があるべきことを指摘した.通常の意味合いの長周期地震動を区別して震源遠方の長周期地震動 Far-Source Long-Period Ground Motion と呼ぶとすれば,規模の大きな地震がパス効果やサイト効果により遠方の平野や盆地においてそれを生み出す.これに対して,断層近傍の長周期地震動は主に,ディレクティビティ効果と呼ばれる震源効果により生み出される.

断層近傍の長周期地震動の観測例としては1966年Parkfield地震(Aki, 1968),1971年San Fernando地震(Hanks, 1975),1992年Landers地震,1994年Northridge地震(Somerville et al., 1997),1995年兵庫県南部地震(纐纈, 1996),1999年Kocaeli地震,1999年Chi-Chi地震(Somerville, 2003)が挙げられる.2008年以降では2015年Gorkha地震と2016年熊本地震で観測された.こうした断層近傍の長周期地震動が高層建物や免震建物に及ぼす影響はHeaton et al. (1995)などにより研究された.

Somerville et al. (1997) によれば,ディレクティビティ効果は,横ずれ断層の破壊が走向方向に伝播したとき,あるいは逆断層の破壊が傾斜方向に伝播したときに現れるとされ,2008年以前の観測例ではすべてそうなっている.ところが,2015年Gorkha地震では逆断層の破壊が走向方向に伝播し,2016年熊本地震では横ずれ断層の破壊が主に傾斜方向に伝播した.そのため,これらの地震で発生した断層近傍の長周期地震動の原因はディレクティビティ効果ではないという議論がある.しかし,2015年Gorkha地震は低角な逆断層のメカニズムで,その放射パターンから走向方向の伝播でもディレクティビティ効果が現れることが示された(図,Koketsu et al., 2016).また,2016年熊本地震の断層近傍の長周期地震動分布は,横ずれ断層の傾斜方向破壊伝播によるディレクティビティ効果で生成されることを示した(Kobayashi et al., 2017).

これら2地震に加えて1999年Chi-Chi地震に対しては,フリング効果(Bolt and Abrahamson, 2003)によるという議論がある.しかし,Dreger et al. (2011)は地震動シミュレーションにより,大きなすべりが500 mより浅いところにあり,そこからのfault distanceが100 m以内の地点にフリング効果が現れることを示した.3地震の断層近傍の長周期地震動を観測した地点には,この条件を満たすものは存在しない.このほか,2016年熊本地震では,浅いすべりの時間関数が深いすべりに比べて長周期であったことが原因であるという議論がある.しかし,震源断層の近くで観測された強震動記録を含めた震源インバージョン結果では,そのような傾向は見えていない.