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[S22-02] 潜在的スパース性を活用した変化検知に基づく地震波自動検測
P波・S波の初動時刻の自動検測は、特に微小地震の地震波データ解析の第一歩として、地震学の重要な課題の一つに位置づけられる。最近、地震カタログデータを用いた深層学習が自動検測で良好な検測精度を達成することが報告されている(e.g. Ross et al., 2018)。しかしながら、深層学習等の教師付き学習手法は、大量の学習データならびにそれらに対する正確なラベル(教師)情報が必要になる等、システム構築における労力が大きい。一方、入力された地震波形データから直接自動検測を行うアプローチは、深層学習以前より多くの研究がなされており、例えば、地震波形の短時間/長時間パワー比に基づくSTA/LTA法(e.g. Bungum et al., 1971)、自己回帰モデルに基づく手法(e.g. Takanami and Kitagawa, 1988; Leonard and Kennett, 1999)、これらを組合せた手法(Akazawa, 2004)が提案されている。こうした教師付き学習を介さないアプローチは、大量データが存在しない、あるいは地震カタログが整備されていない環境(臨時観測点等)においてもシステムを適用できるといった利便性がある。しかしながら、一定の検測精度を得るためには入力波形データごとに多数のパラメータの調整が必要となる等、システム適用時の問題があった。
信号処理・機械学習分野においても、変化検知問題(または信号セグメンテーション問題)として、地震波自動検測と共通の構造を持つ問題が活発に研究されてきた。とくに近年、時系列信号の潜在的スパース性を変化検知問題に活用するアプローチが注目を集めている(e.g. Angelosante and Giannakis, 2012; Han et al., 2015; Kuroda et al., 2018)。これらの研究は、変化検知問題がスパースベクトル(大半の成分が0のベクトル)の推定問題に帰着できることを明らかにしている。スパースベクトルの推定問題に対してはL1ノルム正則化等の強力な解法が知られているため、これらの解法の応用による精密な変化検知の実現が期待できる。このアプローチの利点として、時系列信号全体から主要変化を検知するため、ノイズへの頑健性が期待できることが挙げられる。また、手法が有するチューニングパラメータは一つのみであり、しかも所望の変化検知数を基準に決定できる。ただし、信号中のスパース性を精度良く顕在化させることは一般的に容易ではない。Kuroda et al. (2018)は低次元表現空間でスパース性を顕在化させることに成功しており、このスパース性を活用する手法はAngelosante and Giannakis (2012)やHan et al. (2015)等の手法と比べて計算コストが低く、数値実験でより優れた検知精度を達成することが確認されている。
本研究では、潜在的スパース性の顕在化による変化検知アルゴリズム(Kuroda et al., 2018)を地震波形データに適用し、自動検測における有効性を検証する。この手法で仮定する信号モデルとしては、次数2の区分的自己回帰モデルを与えた。実験例として、気象庁一元化処理震源カタログから2018年5月3日19時59分に茨城県北部で発生したM 1.6の地震を選び、防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)の3観測点(足尾(N.ASOH)、伊南(N.INAH)、大子(N.DGOH))で測定された東西方向速度データに提案法を適用した。提案法が有するパラメータは、簡単のため、気象庁検測値付近の変化を含む条件の下で変化検知数が最小になるように決定した。足尾、伊南観測点については気象庁検測値がないため、気象庁一元化処理震源カタログの震源位置から理論的に計算した走時を使って、地震波到達時刻の目安とした。図1の結果から、提案法が気象庁検測値(または理論値)付近を含む少数の地震波変化を検知していることが確認できる。特に、足尾観測点と伊南観測点ではS/N比が悪いが、このような微小地震の波形データに対して、提案法はノイズ部分には変化を検出せず、地震に伴う変化のみを取り出すことができた。今後の課題として、情報量基準等の客観的指標を用いた変化検知数決定法の開発が挙げられる。また、多数の地震波形データに提案法を適用し、気象庁検測値との比較による性能評価を行う予定である。
謝辞 本研究では気象庁一元化処理検測値と防災科学技術研究所のHi-netの地震波形記録(doi:10.17598/NIED.0003)を使用しました。
参考文献
Kuroda, H., M. Yamagishi, and I. Yamada, Exploiting Sparsity in Tight-Dimensional Spaces for Piecewise Continuous Signal Recovery, IEEE Transactions on Signal Processing, 2018, doi:10.1109/TSP.2018.2876328.
信号処理・機械学習分野においても、変化検知問題(または信号セグメンテーション問題)として、地震波自動検測と共通の構造を持つ問題が活発に研究されてきた。とくに近年、時系列信号の潜在的スパース性を変化検知問題に活用するアプローチが注目を集めている(e.g. Angelosante and Giannakis, 2012; Han et al., 2015; Kuroda et al., 2018)。これらの研究は、変化検知問題がスパースベクトル(大半の成分が0のベクトル)の推定問題に帰着できることを明らかにしている。スパースベクトルの推定問題に対してはL1ノルム正則化等の強力な解法が知られているため、これらの解法の応用による精密な変化検知の実現が期待できる。このアプローチの利点として、時系列信号全体から主要変化を検知するため、ノイズへの頑健性が期待できることが挙げられる。また、手法が有するチューニングパラメータは一つのみであり、しかも所望の変化検知数を基準に決定できる。ただし、信号中のスパース性を精度良く顕在化させることは一般的に容易ではない。Kuroda et al. (2018)は低次元表現空間でスパース性を顕在化させることに成功しており、このスパース性を活用する手法はAngelosante and Giannakis (2012)やHan et al. (2015)等の手法と比べて計算コストが低く、数値実験でより優れた検知精度を達成することが確認されている。
本研究では、潜在的スパース性の顕在化による変化検知アルゴリズム(Kuroda et al., 2018)を地震波形データに適用し、自動検測における有効性を検証する。この手法で仮定する信号モデルとしては、次数2の区分的自己回帰モデルを与えた。実験例として、気象庁一元化処理震源カタログから2018年5月3日19時59分に茨城県北部で発生したM 1.6の地震を選び、防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)の3観測点(足尾(N.ASOH)、伊南(N.INAH)、大子(N.DGOH))で測定された東西方向速度データに提案法を適用した。提案法が有するパラメータは、簡単のため、気象庁検測値付近の変化を含む条件の下で変化検知数が最小になるように決定した。足尾、伊南観測点については気象庁検測値がないため、気象庁一元化処理震源カタログの震源位置から理論的に計算した走時を使って、地震波到達時刻の目安とした。図1の結果から、提案法が気象庁検測値(または理論値)付近を含む少数の地震波変化を検知していることが確認できる。特に、足尾観測点と伊南観測点ではS/N比が悪いが、このような微小地震の波形データに対して、提案法はノイズ部分には変化を検出せず、地震に伴う変化のみを取り出すことができた。今後の課題として、情報量基準等の客観的指標を用いた変化検知数決定法の開発が挙げられる。また、多数の地震波形データに提案法を適用し、気象庁検測値との比較による性能評価を行う予定である。
謝辞 本研究では気象庁一元化処理検測値と防災科学技術研究所のHi-netの地震波形記録(doi:10.17598/NIED.0003)を使用しました。
参考文献
Kuroda, H., M. Yamagishi, and I. Yamada, Exploiting Sparsity in Tight-Dimensional Spaces for Piecewise Continuous Signal Recovery, IEEE Transactions on Signal Processing, 2018, doi:10.1109/TSP.2018.2876328.