日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

特別セッション » S22. 地震学における機械学習の可能性

S22P

2019年9月18日(水) 13:00 〜 14:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

13:00 〜 14:30

[S22P-10] シナリオ検索および回帰法のための沖合津波観測点の最適配置の検討

*馬場 俊孝1、宮下 卓也2、森 信人2、中西 健太3、岡田 真人4 (1. 徳島大学大学院、2. 京都大学、3. ニタコンサルタント、4. 東京大学)

リアルタイム沖合津波観測は海岸に到達する前の津波を直接観測できるため津波警報に果たす役割は大きい.日本周辺海域においてはGPS波浪計観測網,S-net,DONETを代表として大規模稠密観測網の構築が進んでいる.我々は日本の先進的沖合津波観測技術を同じように津波災害に悩む環太平洋,インド洋などの沿岸各国に提供したいと考えている.しかし,日本のような高密度な沖合観測網の構築はコスト面から不可能であると常に反論される.このため,数少ない海域観測点でも高精度に津波を予測できる方法についての検討が必要である.
本研究では,日本と同様に津波災害の軽減を目指すメキシコを研究対象地域として,沖合観測網の最適配置を求める方法について検討した.解析手順は次のとおりである.メキシコ沖で発生しうる多数の震源断層モデルを構築し,それによる津波をシミュレートし,データベース化する.作られたデータベースに対して,適当な沖合津波観測網を仮定して,疑似観測データとする.疑似観測データを用いて海岸での津波高を予測し,データベース内の真値との残差と求めて予測性能を評価する.多数の震源断層モデルには,過去にメキシコ沖で発生した海溝型地震の幾何学的特徴とすべりの空間分布の波数特性を再現するように,自動ですべり分布をランダムで再構築する方法で作られた確率震源モデル(Goda et al., 2014; 2016; Mori et al., 2017)を利用した.M7.8からM8.6までM0.2刻みで500シナリオずつ,計2500シナリオを準備した.津波計算には非線形浅水波式を差分法で解いた.なお,沖合から海岸に向かってネスティング法により地形分解能を270mから90mへ向上させた.津波予測点は,集落や町が形成されているZihuatanejo,Puerto Vicente,Acapulcoの3地点とした.津波を予測する方法として,シナリオ検索型(Yamamoto et al., 2016)とべき乗則の回帰型(Yoshikawa et al., 2019)の2つを採用し,シナリオ検索型では焼きなまし法によって,回帰型ではL1型正則化項を用いて,設置できる沖合観測点数を制限した場合の最適な観測点配置を求めた.ここで言う最適配置とは予測残差が最小となる配置のことである.なお,海岸への津波到達時間が12分未満の近い観測点は避難猶予時間が短すぎるため観測点候補から除外した.
沖合観測点の設置数を3, 5, 10に制限した場合,予測値と真値の残差二乗和平方根(RMSE)は,シナリオ検索型では0.93m,0.88m,0.85m,回帰型では0.82m, 0.73m, 0.69mとなった.シナリオ型では比較的沖合の観測点が選ばれるのに対して,回帰型では海岸に近い観測点が選ばれた.選ばれた観測点分布の違いは,シナリオ検索型では波源全体を抑えられるように広域な観測点が必要とされ,回帰型では相関の強い海岸近くの観測点が好まれるためと考えられる.