16:00 〜 16:15
[S24-10] 2019年6月18日山形県沖の地震(MJ6.7)の震源断層の破壊過程の推定-経験的グリーン関数による波形インバージョン
経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2019年6月18日山形県沖の地震(MJ6.7)の破壊過程を推定した.対象周波数は0.2-2Hzとした.グリーン関数としては,本震波形と余震波形の位相特性の類似性をあらかじめ検討しておき,2019年6月19日0:57の余震1(MJ4.2,深さ12km)と2019年6月21日5:33の余震2(MJ4.0,深さ13km)の記録を併用した.余震2はF-netによるモーメントテンソル解が得られており,本震と圧縮応力軸はやや異なるが逆断層型の地震(走向49°,傾斜63°,すべり角83°)である.一方,余震1のモーメントテンソル解は得られていない.しかし位相特性は余震2よりも余震1の方が全体に本震と良く合っている.
本震の震源断層をできるだけ取り囲むように,K-NETおよびKiK-netの7地点(図)を対象地点として選定した.沖合で発生した地震であるため内陸の地震ほどcoverageは良くないが,幸い上記の2つの余震の記録が佐渡島のNIG003で得られていたためこの地点を対象地点に含めた.KiK-netの観測点に関しては表層地盤の非線形挙動の影響が相対的に小さいと考えられる地中での記録を使用した.EW成分とNS成分の速度波形(0.2-2Hzの帯域通過フィルタを適用した波形),計14成分をターゲットとした.インバージョンに使用したのはS波を含む10秒間(図の横棒)である.
仮定した断層面の位置を図に示す.断層面は,気象庁による本震の震源(北緯38.607°,東経139.478°,深さ14km)を含むように設定し,走向と傾斜は,F-netによる本震のモーメントテンソル解の二つの節面のうち,余震分布とより整合する東南東傾斜の面を選んだ(走向23°,傾斜36°).長さと幅については余震分布を参考に長さ20km,幅15kmとした.余震1と余震2のそれぞれの発生位置を考慮し南側の長さ8kmの区間には余震1を,北側の長さ12kmの区間には余震1を割り当てた.
インバージョンの手法としてはHartzell and Heaton(1983)によるマルチタイムウインドウ法を経験的グリーン関数に適用できるように改良した手法(野津,2007;Nozu and Irikura,2008)を用いた.この方法では,各々の小断層でのモーメントレート関数は小地震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表される.そのときのインパルス列の高さがインバージョンの未知数となる.破壊フロント(first-time-window triggering front)は,気象庁の破壊開始点から同心円状に拡大するものとした.その拡大速度については,最も残差の小さかった2.7km/sを採用した.その他,非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用い,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
インバージョンに用いた観測点における観測波(黒)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図に示す.全体に観測波と合成波は良く一致している.新潟県側の村上付近の観測(NIGH02とNIG007)や佐渡島の観測点(NIG003)では複雑な地下構造に起因すると考えられる後続位相の発達が著しいが,この部分はインバージョンに用いていないにも関わらず観測波と合成波は良く一致している.これは経験的グリーン関数の中に地下構造の影響が含まれているためと考えられる.
図にはインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示している.この結果を得るために余震1と余震2のモーメントが必要であるが,余震1については前述の通りモーメントテンソル解が得られていないため,余震1と余震2の観測フーリエスペクトルの低周波側での比に基づき,余震1のモーメントは余震2の1.46倍と推定した.図に示すように,破壊開始点(★)より北側では相対的に深部のすべりが大きく,南側では相対的に浅部のすべりが大きいとの結果が得られた.
謝辞:本研究では国立研究開発法人防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-NETのMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.
本震の震源断層をできるだけ取り囲むように,K-NETおよびKiK-netの7地点(図)を対象地点として選定した.沖合で発生した地震であるため内陸の地震ほどcoverageは良くないが,幸い上記の2つの余震の記録が佐渡島のNIG003で得られていたためこの地点を対象地点に含めた.KiK-netの観測点に関しては表層地盤の非線形挙動の影響が相対的に小さいと考えられる地中での記録を使用した.EW成分とNS成分の速度波形(0.2-2Hzの帯域通過フィルタを適用した波形),計14成分をターゲットとした.インバージョンに使用したのはS波を含む10秒間(図の横棒)である.
仮定した断層面の位置を図に示す.断層面は,気象庁による本震の震源(北緯38.607°,東経139.478°,深さ14km)を含むように設定し,走向と傾斜は,F-netによる本震のモーメントテンソル解の二つの節面のうち,余震分布とより整合する東南東傾斜の面を選んだ(走向23°,傾斜36°).長さと幅については余震分布を参考に長さ20km,幅15kmとした.余震1と余震2のそれぞれの発生位置を考慮し南側の長さ8kmの区間には余震1を,北側の長さ12kmの区間には余震1を割り当てた.
インバージョンの手法としてはHartzell and Heaton(1983)によるマルチタイムウインドウ法を経験的グリーン関数に適用できるように改良した手法(野津,2007;Nozu and Irikura,2008)を用いた.この方法では,各々の小断層でのモーメントレート関数は小地震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表される.そのときのインパルス列の高さがインバージョンの未知数となる.破壊フロント(first-time-window triggering front)は,気象庁の破壊開始点から同心円状に拡大するものとした.その拡大速度については,最も残差の小さかった2.7km/sを採用した.その他,非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用い,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
インバージョンに用いた観測点における観測波(黒)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図に示す.全体に観測波と合成波は良く一致している.新潟県側の村上付近の観測(NIGH02とNIG007)や佐渡島の観測点(NIG003)では複雑な地下構造に起因すると考えられる後続位相の発達が著しいが,この部分はインバージョンに用いていないにも関わらず観測波と合成波は良く一致している.これは経験的グリーン関数の中に地下構造の影響が含まれているためと考えられる.
図にはインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示している.この結果を得るために余震1と余震2のモーメントが必要であるが,余震1については前述の通りモーメントテンソル解が得られていないため,余震1と余震2の観測フーリエスペクトルの低周波側での比に基づき,余震1のモーメントは余震2の1.46倍と推定した.図に示すように,破壊開始点(★)より北側では相対的に深部のすべりが大きく,南側では相対的に浅部のすべりが大きいとの結果が得られた.
謝辞:本研究では国立研究開発法人防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-NETのMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.