日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01] AM-2

2022年10月25日(火) 11:15 〜 12:30 C会場 (8階(820研修室))

座長:中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、佐藤 大祐(京都大学防災研究所)

12:00 〜 12:15

[S01-09] 変位記録とDASの軸歪記録との相互相関の定式化

*中原 恒1、Haney Matthew2 (1. 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、2. アラスカ火山観測所,アメリカ地質調査所)

はじめに   
分散型音響計測(DAS)は光ファイバーケーブルに沿った軸歪(速度)の時系列を長距離にわたって稠密に測定できることから,地震学分野でもその利用が広がっている.DASで測定される軸歪は,通常の地震計により観測される並進成分(変位など)とは異なるため,地震学でこれまでに使用されてきた手法を歪みに拡張する必要がある.我々は,DASで測定される軸歪に対して地震波干渉法を適用するための理論構築を行ってきている(Nakahara et al., 2021; Nakahara and Haney, 2022).最近,DASの歪記録と通常の地震計記録とを併用した地震波干渉法解析が提案され,数値計算と実際のデータ解析が行われた(Nayak et al., 2021).本研究では,SPAC法に基づいて,DAS記録と変位記録とのクロススペクトル(周波数領域での相互相関)を解析的に表現することに成功したので,その結果について報告する.

定式化と結果
問題設定は次のとおりである.原点にDASのチャンネルがあり,そこで軸歪 err (方向は任意に設定可)を測定するものとする.また,原点からx軸方向に距離 r だけ離れた点に通常の地震計を置き,そこで変位3成分 ur, ut, uzを測定するものとする.これらの観測点に,さまざまな方向からレイリー波,ラブ波の平面波が入射するものとする.このような問題設定に対して,先行研究(Nakahara et al., 2021)の手法にほぼ従った定式化を行う. その結果,軸歪と変位3成分とのクロススペクトルを解析的に導出することができた.

その結果,変位の上下動成分と軸歪との相関は,レイリー波のみが寄与することが分かった.そのため,上下動成分を用いると,ラブ波の影響を受けずにレイリー波の分散曲線の推定を高精度に行えるものと考えられる.また,等方成分の項は偶数次のベッセル関数で表現される. 一方,変位の水平動2成分を用いた場合,軸歪との相関には,レイリー波とラブ波の双方が寄与することが分かった.ただし,観測点間距離が波長に比べて長いFar-fieldでは,特にDASの光ファイバーの軸方向に対して45°の角度をなす方向にある観測点でのトランスバース成分を用いると,ラブ波をうまく抜き出せることが分かった.このことはNayak et al. (2021)により数値計算に基づきすでに指摘されていたが,本研究でも理論的に確認することができた.一方,観測点間距離が波長に比べて短いNear-fieldの場合は,レイリー波,ラブ波ともに卓越することがわかった.これは本研究が初めて指摘する結果である.また等方成分の項は,奇数次のベッセル関数を含み,上下動成分の場合とは異なる.

相互相関の物理的意味(等方的波動場の場合)
地震波干渉法の理論に基づくと,等方的波動場に対しては,相互相関(クロススペクトル)とグリーン関数との間に明確な対応関係があり,相互相関の物理的な意味を理解することができる.Nakahara and Haney(2022)と同様の解析に基づき,本研究でも解釈を行うと,軸歪と変位とのクロススペクトルは,原点での軸方向のダイポール震源に対する観測点での変位のグリーン関数であることが示された.これにより,クロススペクトルの物理的意味が明らかになり,実際に解析において得られたクロススペクトルの解釈を行う上で有用である.

結論  
最近,DAS記録と通常の地震計記録とを併用した地震波干渉法解析が提案されており,本研究では,SPAC法に基づいてDAS記録と変位記録との相互相関について解析表現を得ることに成功した.また等方的波動場に対して,クロススペクトルの物理的意味を明らかにすることができた.