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[S03-09] SGO-Aにおける統一的な新しい音響信号読み取り方法の検討
GNSSと音響測距を組み合わせることで海底地殻変動をセンチメートルレベルでとらえる手法を,GNSS-音響測距結合方式(GNSS-A)と呼ぶ.海上保安庁では,この手法を用いた海底地殻変動観測網SGO-Aを展開しており,これまで,2011年の東北地方太平洋沖地震による地殻変動やその後の粘弾性緩和,プレート間固着や浅部スロースリップ(SSE)などの固体地球科学における重要な結果を示した.現在は,GARPOS(Watanabe et al., 2020, FES)と呼ばれる解析ソフトウェアによりSGO-Aの測位解が公表されている. SGO-Aでの測距には,海上局と海底局の間を10kHzの正弦波を搬送波とする音響信号が用いられる.海上局が受信した波形と送信波形との相関処理を行い,信号の送受時刻を精密に決定することで,往復走時を算出している(冨山, 2003, 海洋情報部技報).ここで,往復走時の分解能は,搬送波の1波長である0.1 msec(往復距離に換算すると約7.5 cm)である.しかし,GARPOSによるこれまでの測位解析では,往復走時残差の標準偏差σが0.1 msec以上である結果が多くの観測エポックで得られている.さらに,多くの観測エポックで水平方向の測位解のばらつきよりも上下方向のばらつきの方が明らかに大きく,GNSS-A観測での上下方向の位置の不確実性が指摘されてきている. このような上下方向の解のばらつきは,SGO-A観測網が整備され始めて20年以上が経過し,海上局や海底局を更新する機会が増えたことによる機器の変化が原因の一つとして挙げられる(横田ほか,2022,地震学会).このような機器依存により受信信号に変化(図1)が生じ,読み取り位置に誤りが生じたと考えられる.なお,この図1に示した2エポック間では使用した海底局が異なっている.従来の受信波形の読み取りは,まず,図1の中段に示した相関波形の最大値を見つけ,その値の0.4倍を初めて超す極大値を読み取り値として採用している.図より,2012年と2021年では,中段の相関波形の形状が大きく異なり,特に2021年の波形は後ろへ伸びて波形の最大値が不明瞭であり,結果的に読み取りの精度が悪化したと考えられる. そこで本発表では,SGO-Aにおける全期間にわたって統一的利用可能な新しい受信信号の読み取り方法を検討する.新しい手法では,まず下段の相関波形に対して立ち上がり位置を決定する.なおこの立ち上がり位置は,エポックごとに決定される閾値sを初めて上回った極大値と定義する.次に,立ち上がり位置からN個目の極大値を読み取り位置とする.ここで,閾値sやNは,GARPOSにより得られる走時残差が小さくなるように決定する. この手法を用いることで波形の重畳の影響を抑えることができ,往復走時残差のσを2 - 2.5 cm程度の精度が可能となる見通しであるが,将来的には,さらに高度で正しい読み取りが実現することが期待される.