9:30 AM - 12:00 PM
[S04P-01] Relationship between 3-D distributions of thermal structure and dehydration and megathrust earthquakes, regular earthquakes and volcanic chain in the southern Chile subduction zone
1. はじめに
チリ沈み込み帯南部では、南米プレートの下にナスカプレートが沈み込んでいる。同地域では、1960年バルディビア地震(Mw9.5)や2010年マウレ地震(Mw8.8)に代表される海溝型巨大地震が繰り返し発生し、また、33°S~46°Sの範囲には南北方向に連なるSouthern Volcanic Zoneと呼ばれる火山列が存在する。本講演では、数値シミュレーションにより、ナスカプレートの沈み込みに伴うチリ沈み込み帯南部の3次元温度構造を求め、バルディビア地震やマウレ地震の地震時すべりの温度範囲を定量的に決定する。さらに、得られた温度構造とスラブを構成する含水鉱物の相図を用いて、スラブ内の含水量分布を求め、同地域で発生する通常地震の震源分布や火山分布と比較し、その関連性について議論する。
2. モデル設定
本数値シミュレーションでは、3次元箱型モデルを考える。水平面内において、沈み込み方向にx軸を、海溝軸に沿って北方向にy軸を、鉛直下向きにz軸をとり、モデルサイズはそれぞれ、450 km、1200 km、200 km 、格子点間隔は10 km、10 km、3.3 kmとした(図1)。モデル領域内にスラブ形状を模したガイドを設定し、その中に海洋プレートの物質を徐々に流し込むことにより過去数千万年前から現在までの海洋プレートの沈み込みを実現した。ガイド上面の形状にはSlab 2モデル(Hayes et al., 2018)を使用し、ガイドの厚さは海溝での海洋プレートの年齢の関数として与えた。ガイドの位置、ナスカプレートの沈み込み速度とその方向は、 過去のプレート運動モデル に基づいて時空間的に変化させて与えた。初期条件はYoshioka and Sanshadokoro (2002)に従って、半無限冷却モデルを仮定して与えた。境界条件に関しては、モデルの上面(-z面)では流れはないものとし、0℃で一定とした。海洋プレートが沈み込む海溝側の鉛直面(-x面)では、透過条件を与え、温度はプレート冷却モデルを用いて深さと海洋プレートの年齢の関数で与えた。他の4つの面については透過条件を与え、断熱とした。このような設定のもと、過去数千万年前から現在までの温度場・流れ場の時間発展問題を差分法を用いて解いた。得られた現在(0Ma)の温度場は、地殻熱流量のデータと比較し、観測値と計算値の残差が小さくなるようなモデルを構築した。含水量分布の計算には、海洋堆積物はvan Keken et al. (2011) のタービダイトの相図を、海洋地殻とスラブマントルは、それぞれTatsumi et al. (2020) のMORBと超苦鉄質岩の相図を用いた。本研究では、スラブ上面(0 km)から厚さ2 kmを海洋堆積層、その下の厚さ5 kmを海洋地殻、その下からスラブ下面までをスラブマントルとした。
3. 結果と考察
最終的に得られた0Maでの数値シミュレーション結果から、モデル領域南部では、南米プレート下に沈み込んでいるチリ海嶺に近く、その結果、若い海洋プレートが沈み込むため、相対的に古い海洋プレートが沈み込む北部に比べてスラブ上面での温度分布は高くなる傾向がみられた。そのため、マウレ地震とバルディビア地震の地震時すべりの下限での温度を比較すると、バルディビア地震の温度の方が高くなった。 また、本数値シミュレーションで得られた温度-深さの関係と、前述の含水鉱物の相図を用いてスラブ上面付近の含水量分布を求めた。そして、得られた含水量分布を2012年1月1日~2022年1月1日までの10年間に観測されたMw 2.5以上の通常地震の震源分布(USGS)と比較した。現時点で得られている暫定的な結果によると、プレート境界付近における通常地震の震源分布は、スラブ内の最大含水量がゼロになる深さよりも浅部側に震源が分布していた。このことから、流体の存在によって有効法線応力が下げられ通常地震が発生していると考えられる。 さらに、沈み込み方向に沿った単位長さ当たりの最大含水量の変化量(脱水勾配)を求めた。その結果、海洋地殻とスラブマントルでは顕著な脱水がみられた。海洋地殻の脱水分解反応はMORBがlawsonite blueschist相からlawsonite eclogite相へと相転移したことに対応している。一方、スラブマントルの脱水分解反応は、超苦鉄質岩がbrucite相からantigorite相、chrolite相、amphibole相へと順に相転移にしていくことに対応している。これらの脱水分解反応は、おおよそSouthern Volcanic Zoneの直下で発生していた。このことから、スラブに含まれる含水鉱物が脱水分解反応によって水を放出し、プレート境界やマントルウェッジでの融点を引き下げることによってマグマが生成され、その直上に火山が形成されたと考えられる。
チリ沈み込み帯南部では、南米プレートの下にナスカプレートが沈み込んでいる。同地域では、1960年バルディビア地震(Mw9.5)や2010年マウレ地震(Mw8.8)に代表される海溝型巨大地震が繰り返し発生し、また、33°S~46°Sの範囲には南北方向に連なるSouthern Volcanic Zoneと呼ばれる火山列が存在する。本講演では、数値シミュレーションにより、ナスカプレートの沈み込みに伴うチリ沈み込み帯南部の3次元温度構造を求め、バルディビア地震やマウレ地震の地震時すべりの温度範囲を定量的に決定する。さらに、得られた温度構造とスラブを構成する含水鉱物の相図を用いて、スラブ内の含水量分布を求め、同地域で発生する通常地震の震源分布や火山分布と比較し、その関連性について議論する。
2. モデル設定
本数値シミュレーションでは、3次元箱型モデルを考える。水平面内において、沈み込み方向にx軸を、海溝軸に沿って北方向にy軸を、鉛直下向きにz軸をとり、モデルサイズはそれぞれ、450 km、1200 km、200 km 、格子点間隔は10 km、10 km、3.3 kmとした(図1)。モデル領域内にスラブ形状を模したガイドを設定し、その中に海洋プレートの物質を徐々に流し込むことにより過去数千万年前から現在までの海洋プレートの沈み込みを実現した。ガイド上面の形状にはSlab 2モデル(Hayes et al., 2018)を使用し、ガイドの厚さは海溝での海洋プレートの年齢の関数として与えた。ガイドの位置、ナスカプレートの沈み込み速度とその方向は、 過去のプレート運動モデル に基づいて時空間的に変化させて与えた。初期条件はYoshioka and Sanshadokoro (2002)に従って、半無限冷却モデルを仮定して与えた。境界条件に関しては、モデルの上面(-z面)では流れはないものとし、0℃で一定とした。海洋プレートが沈み込む海溝側の鉛直面(-x面)では、透過条件を与え、温度はプレート冷却モデルを用いて深さと海洋プレートの年齢の関数で与えた。他の4つの面については透過条件を与え、断熱とした。このような設定のもと、過去数千万年前から現在までの温度場・流れ場の時間発展問題を差分法を用いて解いた。得られた現在(0Ma)の温度場は、地殻熱流量のデータと比較し、観測値と計算値の残差が小さくなるようなモデルを構築した。含水量分布の計算には、海洋堆積物はvan Keken et al. (2011) のタービダイトの相図を、海洋地殻とスラブマントルは、それぞれTatsumi et al. (2020) のMORBと超苦鉄質岩の相図を用いた。本研究では、スラブ上面(0 km)から厚さ2 kmを海洋堆積層、その下の厚さ5 kmを海洋地殻、その下からスラブ下面までをスラブマントルとした。
3. 結果と考察
最終的に得られた0Maでの数値シミュレーション結果から、モデル領域南部では、南米プレート下に沈み込んでいるチリ海嶺に近く、その結果、若い海洋プレートが沈み込むため、相対的に古い海洋プレートが沈み込む北部に比べてスラブ上面での温度分布は高くなる傾向がみられた。そのため、マウレ地震とバルディビア地震の地震時すべりの下限での温度を比較すると、バルディビア地震の温度の方が高くなった。 また、本数値シミュレーションで得られた温度-深さの関係と、前述の含水鉱物の相図を用いてスラブ上面付近の含水量分布を求めた。そして、得られた含水量分布を2012年1月1日~2022年1月1日までの10年間に観測されたMw 2.5以上の通常地震の震源分布(USGS)と比較した。現時点で得られている暫定的な結果によると、プレート境界付近における通常地震の震源分布は、スラブ内の最大含水量がゼロになる深さよりも浅部側に震源が分布していた。このことから、流体の存在によって有効法線応力が下げられ通常地震が発生していると考えられる。 さらに、沈み込み方向に沿った単位長さ当たりの最大含水量の変化量(脱水勾配)を求めた。その結果、海洋地殻とスラブマントルでは顕著な脱水がみられた。海洋地殻の脱水分解反応はMORBがlawsonite blueschist相からlawsonite eclogite相へと相転移したことに対応している。一方、スラブマントルの脱水分解反応は、超苦鉄質岩がbrucite相からantigorite相、chrolite相、amphibole相へと順に相転移にしていくことに対応している。これらの脱水分解反応は、おおよそSouthern Volcanic Zoneの直下で発生していた。このことから、スラブに含まれる含水鉱物が脱水分解反応によって水を放出し、プレート境界やマントルウェッジでの融点を引き下げることによってマグマが生成され、その直上に火山が形成されたと考えられる。