日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S07. 地球及び惑星の内部構造と物性

[S07] AM-1

2022年10月26日(水) 09:45 〜 11:00 D会場 (5階(520研修室))

座長:古屋 正人(北海道大学)、久家 慶子(京都大学)

10:45 〜 11:00

[S07-05] 最近のチャンドラーウォブルの消失が示唆するQ値と周波数依存性

*古屋 正人1、山口 竜史2 (1. 北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門 地球惑星ダイナミクス分野、2. 北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)

チャンドラーウォブル(CW)はS. C. Chandlerによる1891年の発見以来,100年以上に亘り観測され続けていたが,山口・古屋(2021, 日本測地学会第136回講演会)はCWが2015年以降に励起されていないことを報告した.Malkin & Miller (2010, EPS)は2005年頃からのCWの振幅減少と位相変化,Wang et al (2016, Surv. Geophys.)も2015年までの極運動データからCWの振幅減少を報告していたが,CWの振幅が小さくなることは1920年台にも発生していた. Yamaguchi & Furuyaは,19世紀末からカバーするIERSのEOP C01 IAU 1980データも用いて,最近のCWが1920年台の極小振幅よりも遥かに小さく,観測史上初めて「消失」したことを示した.また,2022年7月の時点でも従来通りの振幅を示すような再励起は始まっていない.
CWは地球の固有(自由)振動モードの一つとして,一定の周期Pと減衰Qの時定数を持つ(Smith & Dahlen, 1981):複素周波数2pi/P(1+i 1/2Q)が用いられる.周期Pについては,極運動データそのものから14ヶ月程度であることは明らかで430-435日程度で多くの見解は一致している.一方Qについては,常に励起され続けていたために従来はデータそのものから読み取ることは困難だった.Smith & Dahlen (1981)ではQ~100が好まれたが,Furuya & Chao (1996)以降は励起源データと併せて推定されるようになり,Q<100とする研究が多い.
 しかし2005年以降に励起されていないとすれば「励起源データ」を使う必要もなく,減衰の時定数のみから単純かつ直接的に推定することができる.その時定数は,2005年以降に励起されていないとすれば10年以下であり,P=1.2年としてQ<26.2となる.2000年以降だとしてもQ<39.3であり,従来のQの推定値に比べ明らかに低い.つまり励起源のパワーは従来考えられていた以上に大きい(強い)ことが示唆される.言い換えると2015年以降のCWの消失は,ランダムな励起源の一時的停滞というよりは,共鳴励起作用の急速な停止である可能性を示唆している.
 CWの減衰がどこで起きるかについてはSmith & Dahlen (1981)以降,下部マントルが有力視されてきた.しかし地震学の標準的な全球モデルPREMによると,下部マントルではQ~300とされ,また実体波から自由振動0S2の周波数範囲まで,Qは周波数に依存しないとされている.しかしながら測地学的なデータまで含めた場合にはQ~ωaの依存性が仮定されることが多い.Benjamin, Wahr et al (2006, GJI)はM2分潮から長周期潮,CW,18.6年章動データまで含めて,Qが周波数に依存することを明示し,0.2<a<0.3程度が多くのデータと整合的としている.Q<30となると,さらに大きなaが示唆される.