日本地震学会2022年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] PM-2

2022年10月25日(火) 15:15 〜 16:30 A会場 (1階(かでるホール))

座長:麻生 尚文(東京工業大学)、北 佐枝子(建築研究所)

16:00 〜 16:15

[S08-11] Short-duration tremorが示唆する、スロー地震断層帯の異常構造

*藤 亜希子1、戚 正務2、Capdeville Yann3、井出 哲1 (1. 東京大学 地球惑星科学専攻、2. 中央研究院 地球科学研究所 台湾、3. ナント大学 フランス)

プレート沈み込み帯の浅部では、普通地震とTremorの二種類の地震が発生することが知られており、それらは波形の特徴により分類される。Tremorは普通地震と比べて、シグナル継続時間が長く、10Hz以上の地震波エネルギーに枯渇し、シグナルの立ち上がりが不明瞭である(Obana & Kodaira, 2009)。これまで、Tremorと普通地震の違いは震源過程の違いにあると考えられてきた。それ故、Tremorの長いシグナル継続時間は、長い震源時間過程を反映すると考えられてきた(e.g. Shelly et al., 2007)。

本研究では、DONET1海底観測網により震源の直近で得られた地震計記録の中から、遠方では典型的な長いシグナル(> 10 s)を呈する一方で、直上では継続時間の短いシグナル(< 3 s)を呈するTremorを発見したことを報告する。これらを”short-duration tremor”と呼ぶ。これらの特徴は、従来考えられてきた長い震源時間過程では説明できず、短いシグナルが示唆する短い震源時間過程から、継続時間の長いシグナルが作り出されるメカニズムを新たに考える必要がある。

ここでは、震源周辺に水平方向に広がり、地震波散乱によりシグナル継続時間を伸ばすような異常構造を考える。このような構造があれば、震源直上と遠方で継続時間の短いシグナルと長いシグナルがそれぞれ見られるはずである。候補となりうる構造は無数にあるが、ここでは、その内側で超低速S波速度を持つ多数の小さな介在物が震源周辺に局在する構造を考えた。構造内に震源をおき弾性波シミュレーションを実施した結果、観測されるshort-durationの特徴を捉えた結果を得ることができた。

他方、近年海底掘削により、Tremor震源域には幅数100メートルの高間隙水圧帯がパッチ状に点在することが示された(Hirose et al., 2021)。本研究で示した地震波構造モデル中の介在物は、地質学的に観察された高間隙水圧帯に相当する可能性がある。更に、Tremorはスロー地震の一種であり、広帯域で観測される他のスロー地震(VLFEやSSE)と断層を共有すると考えられている(Sugioka et al., 2012; Araki et al., 2017)。そうであれば、本研究で示したTremor震源周辺の構造は、スロー地震断層の構造そのものである筈で、この構造はスロー地震の支配要因である可能性がある。

謝辞 解析には防災科学研究所のDONETデータを使用させていただきました。