日本地震学会2022年度秋季大会

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一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] AM-1

2022年10月26日(水) 09:30 〜 10:45 A会場 (1階(かでるホール))

座長:三反畑 修(防災科学技術研究所)、山下 太(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

10:30 〜 10:45

[S08-22] ICDP DSeis: M5.5オークニー地震余震域から採取した断層試料の物質科学的特徴

*宮本 英1、廣野 哲朗2、横山 友暉3、金木 俊也4、山本 裕二5、石川 剛志6、𡈽山 明7、片山 郁夫8、矢部 康男9、ZIEGLER Martin10、DURRHEIM Raymond11、小笠原 宏12 (1. 京都大学 理学研究科、2. 大阪公立大学、3. 大阪大学、4. 京都大学 防災研究所、5. 高知大学 海洋コア総合研究センター、6. 海洋研究開発機構 高知コア研究所、7. 立命館大学 総合科学技術研究機構、8. 広島大学、9. 東北大学、10. Swiss Federal Institute of Technology in Zürich、11. University of the Witwatersrand、12. 立命館大学 理工学部)

2014年に南アフリカ Orkney 近郊の Moab Khotsong 金鉱山の深部にて M5.5 の地震が発生した(以下,Orkney 地震).この地震の震源は深度 4.7 ± 1.2 km に位置し (Midzi et al., 2015),余震発生域は主に 3.5–7 km に分布していた (Ogasawara et al., 2019).国際科学陸上掘削計画 (ICDP) の “Drilling into Seismogenic zones of M2.0 to M5.5 earthquakes in deep South African Gold Mines (DSeis)” プロジェクトにより,Moab Khotsong 金鉱山の地表深度2.9 km の坑道から掘削調査が実施され,3つの掘削孔からコア試料が回収された.中でも,長さ約 700 m に渡って掘削された Hole Bの地表深度約 3.3 kmでは,2014年の余震発生域と交差し,現地オンサイトチームによって,断層角礫岩を主としたコア試料の回収に成功した (Ogasawara et al., 2019).
本研究では,Hole B コアの 50 試料において,粉末 X 線回折 (XRD) 分析による構成鉱物の同定,密度・間隙率および帯磁率の測定を実施した.また,各岩相から計13試料を選定し,蛍光X線分析による主要元素の濃度分析と室内摩擦実験装置による摩擦係数の計測および滑り安定性 (a−b) の評価を実施した.
鉱物学的・化学的分析の結果,断層帯とその周囲の貫入岩では,周囲の岩相と比較して,角閃石,黒雲母,方解石,および滑石の含有率が高い.また,鉄 (Fe2O3),マグネシウム (MgO),およびカルシウム (CaO) の濃度が高く,ケイ素 (SiO2),アルミニウム (Al2O3),およびナトリウム (Na2O) の濃度は相対的に低い.室内摩擦実験の結果,それらの摩擦係数は相対的に低く,a−b 値は正であった.また,一部の試料では高い帯磁率を示した. 断層帯を内包する貫入岩の鉱物・元素組成より,貫入岩はランプロファイアと推測される.また,その鉱物学的・化学的特徴より,著しい変質を受けていると考えられる.また,断層試料の低い摩擦係数は,30 wt.%に達する高い滑石の含有量に起因するかもしれない.しかし, a−b 値 は正であり,安定滑りの特徴に相当する.これは観測事実である余震発生と矛盾する.但し,断層の他の主要構成鉱物である角閃石のa−b 値は正負両方の値を示し (Fagereng and Ikari., 2020),黒雲母は負(Scruggs and Tullis, 1998),方解石は正を示す (Carpenter et al., 2016) .すなわち,これら4種の各鉱物が有する摩擦滑り安定性が複雑に作用した結果,断層全体として複雑な摩擦挙動の傾向を示しているかもしれまい.同時に,断層帯とその周囲の貫入岩における鉱物の量比のばらつきは大きいため,断層強度や滑り安定性における空間的な不均一性が存在するかもしれない.以上のような複雑な断層帯の物質科学的特徴が,Orkney 地震やそれに引き続く余震の発生およびそれらの震源分布に強く影響を与えているだろう(Miyamoto et al., 2022, GRL).

【引用文献】
Carpenter et al., 2016, Geophys. J. Int.
Fagereng and Ikari, 2020, J. Geophys. Res., Solid Earth.
Midzi et al., 2015, J. Seismol.
Miyamoto et al., 2022, Geophys. Res. Lett., 49, doi: 10.1029/2022GL098745.
Ogasawara et al., 2019, Proc, of the ninth international conference on deep and high stress mining.
Scruggs and Tullis, 1998, Tectonophysics.