日本地震学会2022年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] PM-1

2022年10月26日(水) 13:45 〜 15:00 A会場 (1階(かでるホール))

座長:大久保 蔵馬(防災科学技術研究所 地震津波防災研究部門)、大谷 真紀子(東京大学 地震研究所)

14:15 〜 14:30

[S08-30] 粘性境界条件を用いて沈み込み帯の3次元構造を考慮した準動的地震シーケンスシミュレーション

*松嶋 亮弥1、小澤 創2、安藤 亮輔1 (1. 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2. スタンフォード大学地球物理学科)

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震やその余効変動より、日本列島の地殻の広い範囲で変形が観測された。特徴的なのは,例えば新潟神戸歪集中帯において、GNSSで求めた歪速度の長波長成分が地震前の収縮から地震後には伸長に変化した一方、短波長成分は収縮を続けた(Meneses-Gutierrez and Sagiya, 2016)ことである。この長波長の変形にはアセノスフェアの粘弾性緩和も寄与していると考えられ、Fukahata et al. 2020は地震後の新潟神戸歪集中帯における体積歪速度の長波長成分を74 nanostrain/yearと推定している。このように、巨大地震後の地殻の変形を再現するには、粘弾性の効果を含めたシミュレーションを行う必要がある。しかしながら、既存の粘弾性グリーン関数を用いる手法(Hashima et al. 2008)では水平成層構造しか考慮できず、海洋スラブやウェッジマントルなどの沈み込み帯の3次元構造を十分に再現できない。そこで本研究では、弾性媒質中に力学境界として震源断層を表す面とリソスフェア-アセノスフェア境界(LAB)を表す面を用意し、それぞれ速度と状態変数に依存する摩擦(RSF)則と粘性抵抗を境界条件として与え、境界積分方程式法で準動的に解く手法を提案する。本手法は,バルク粘弾性を弾性体内部境界面上での粘性緩和として扱ういくつかの手法(例えばDuan and Oglesby, 2005や,Miyake and Noda, 2019)に類似したものである.
手法・モデル
本研究では,まず最も単純な場合として傾斜角が30°であり一片の長さが100kmである平行な2つの面を用意し、上面には正規化されたRSF則(Rice et al. 2001)を、下面には粘性抵抗τ=ηv/w(e.g. Ando et al. 2012)を境界条件として与えた。後者の境界条件は,アセノスフェアの粘性が生じる応力をリソスフェア側の境界面が受ける抵抗力として考慮したものとみなせる.上面はプレート境界の震源断層を、下面は海洋プレートとアセノスフェアの境界を表したものである。また,沈み込み運動による応力載荷を与えるため,下面にのみプレート相対運動に対応するバックスリップを考慮した.これを慣性効果が放射減衰項による近似として加味された平衡方程式(Rice, 1993)と連立し、Ozawa et al. (2022,投稿中)のコード(hbi)を改良し粘性抵抗を扱えるようにしたコードを用いて解いた。また、行列ベクトル積の計算には格子H行列法(Ida, 2018)を用い、計算時間や使用メモリの削減を図った。
結果
粘性抵抗を与えた下面にのみバックスリップ25cm/年を与えたところ、上面ではM8の地震が150年周期で発生し,また地震滑り後にはLABでの粘弾性応力緩和に伴う余効変動が発生し,粘性係数が大きいほど緩和時間が長くなることが確認された。
沈み込み帯の3次元構造を再現するには、プレート境界の震源断層・海洋リソスフェア(スラブ)-アセノスフェア境界だけでなく、マントルウェッジ構造を含めた大陸LAB,および断層面上での速度弱化・速度強化領域の分布も考慮すべきである。当日はそのような沈み込み帯構造を再現したモデルの計算結果を報告する予定である。