09:30 〜 12:00
[S09P-03] 長期的スロースリップイベント時に上昇する豊後水道の深部微動の潮汐相関
1. はじめに
豊後水道では,巨大地震発生層の深部縁において継続時間半年~1年程度,Mw 6–7程度の長期的スロースリップイベント(LSSE)が数年間隔で繰り返し,それに同期して数Hzの卓越周波数を持つ深部微動が活発化している.微動は潮汐せん断応力(または摩擦係数が非常に小さなクーロン応力)との高い相関関係を示し[例えば,Thomas et al., 2009, Nature; Houston, 2015, NatureGeo],位相(特に半日周)[例えば,Ide, 2010, Nature, 2012, JGR; Katakami et al., 2017, GRL]や振幅[例えば,Lambert et al., 2009, JGR; Houston, 2015; Ide et al., 2015, GRL]との関連が指摘されている.数日間のゆっくりすべり現象中の微動の潮汐応答についての調査は多いが,年オーダーの時間変化に着目した研究は知らない.そこで本研究では,豊後水道における深部微動と潮汐との相関の長期的な時間変化を調査した.
2. データ
本研究では,エンベロープ相関法で検出された深部微動の防災科研カタログ[Maeda and Obara, 2009, JGR; Obara et al., 2010, GRL]を用いた.解析に用いたデータは,2001年1月1日~2021年4月30日に豊後水道LSSEに近接する領域Ba(Obara et al. [2010]による領域分けに準拠)内で発生した深部微動1903個である.
微動に対する理論潮汐応答を計算する際には,位置・発生時刻・断層パラメータの情報が必要となる.微動の位置については,震央はカタログ情報をそのまま用い,深さはプレート境界[Hirose et al., 2008, JGR]で発生していると仮定して設定した.発生時刻については,カタログ値をそのまま用いたが,時間分解能は1時間であるため,正時に発生したと仮定した.このことは,本質的にデクラスタされたデータセットを用いていることになる.断層パラメータについては,プレート形状とプレート収束方向[DeMets et al., 2010, GJI]を考慮してイベント毎に設定した.
解析期間中に豊後水道のLSSEは複数回発生している.本研究では,LSSEの開始及び終了の時期を,LSSEの中心(フィリピン海プレート上面の深さ25 kmコンターと東経132.4度線の交点)においてKobayashi [2017, EPS]による客観解析で相関係数0.8以上となる期間と定義した.その結果,LSSEは解析期間中に全部で4回発生している.
3. 解析手法
理論潮汐応力は,TidalStrain.2[Hirose et al., 2019, JGR; https://mri-2.mri-jma.go.jp/owncloud/s/tjqx7HfK8bD3KQf]を用いて計算した.微動の各震源において仮定した断層面上における潮汐せん断応力(Δτ)と潮汐法線応力(Δσ)について調査した.せん断応力については断層すべりを促進する方向を正,抑制する方向を負,法線応力については拡張を正,圧縮を負とした.
微動の潮汐感度は,Houston [2015]に倣って,以下の式のα値で評価した.
N_obs / N_exp = e^α(ΔS)
ここで,ΔSは応力binの中間の値,N_obsは潮汐力が応力bin内の値を取る期間に観測された微動数,N_expは同期間に潮汐と無相関に期待される微動数である.αが大きいほど潮汐感度が大きい.
4. 結果
先行研究と同様に,潮汐せん断応力(Δτ)による潮汐感度が高く,潮汐応力値が大きいほど微動が発生する傾向を示した.潮汐法線応力(Δσ)は微動のトリガーにはほとんど効いていなかった.LSSE期間の微動の潮汐感度は,LSSE期間以外の期間(背景(BG)期間)のそれよりも概ね高かった(例外としてBGの4期目はやや高め).
ただし,BG期間の潮汐感度は低いとは言え,帰無仮説「微動が潮汐とは無関係に発生」はKS検定により有意水準1%で棄却される.つまり生来潮汐せん断応力は微動のトリガー作用に関与しているということである.そして本解析により,LSSE期間にはそのトリガー効果が増幅されていることがわかった.
潮汐は広域に同時に数時間にわたって影響を及ぼすため,微動域は勿論のこと,すべり速度が増加したLSSEによって隣接した微動域に与えるせん断応力が増加し,微動の潮汐感度も高くなった可能性がある.
豊後水道では,巨大地震発生層の深部縁において継続時間半年~1年程度,Mw 6–7程度の長期的スロースリップイベント(LSSE)が数年間隔で繰り返し,それに同期して数Hzの卓越周波数を持つ深部微動が活発化している.微動は潮汐せん断応力(または摩擦係数が非常に小さなクーロン応力)との高い相関関係を示し[例えば,Thomas et al., 2009, Nature; Houston, 2015, NatureGeo],位相(特に半日周)[例えば,Ide, 2010, Nature, 2012, JGR; Katakami et al., 2017, GRL]や振幅[例えば,Lambert et al., 2009, JGR; Houston, 2015; Ide et al., 2015, GRL]との関連が指摘されている.数日間のゆっくりすべり現象中の微動の潮汐応答についての調査は多いが,年オーダーの時間変化に着目した研究は知らない.そこで本研究では,豊後水道における深部微動と潮汐との相関の長期的な時間変化を調査した.
2. データ
本研究では,エンベロープ相関法で検出された深部微動の防災科研カタログ[Maeda and Obara, 2009, JGR; Obara et al., 2010, GRL]を用いた.解析に用いたデータは,2001年1月1日~2021年4月30日に豊後水道LSSEに近接する領域Ba(Obara et al. [2010]による領域分けに準拠)内で発生した深部微動1903個である.
微動に対する理論潮汐応答を計算する際には,位置・発生時刻・断層パラメータの情報が必要となる.微動の位置については,震央はカタログ情報をそのまま用い,深さはプレート境界[Hirose et al., 2008, JGR]で発生していると仮定して設定した.発生時刻については,カタログ値をそのまま用いたが,時間分解能は1時間であるため,正時に発生したと仮定した.このことは,本質的にデクラスタされたデータセットを用いていることになる.断層パラメータについては,プレート形状とプレート収束方向[DeMets et al., 2010, GJI]を考慮してイベント毎に設定した.
解析期間中に豊後水道のLSSEは複数回発生している.本研究では,LSSEの開始及び終了の時期を,LSSEの中心(フィリピン海プレート上面の深さ25 kmコンターと東経132.4度線の交点)においてKobayashi [2017, EPS]による客観解析で相関係数0.8以上となる期間と定義した.その結果,LSSEは解析期間中に全部で4回発生している.
3. 解析手法
理論潮汐応力は,TidalStrain.2[Hirose et al., 2019, JGR; https://mri-2.mri-jma.go.jp/owncloud/s/tjqx7HfK8bD3KQf]を用いて計算した.微動の各震源において仮定した断層面上における潮汐せん断応力(Δτ)と潮汐法線応力(Δσ)について調査した.せん断応力については断層すべりを促進する方向を正,抑制する方向を負,法線応力については拡張を正,圧縮を負とした.
微動の潮汐感度は,Houston [2015]に倣って,以下の式のα値で評価した.
N_obs / N_exp = e^α(ΔS)
ここで,ΔSは応力binの中間の値,N_obsは潮汐力が応力bin内の値を取る期間に観測された微動数,N_expは同期間に潮汐と無相関に期待される微動数である.αが大きいほど潮汐感度が大きい.
4. 結果
先行研究と同様に,潮汐せん断応力(Δτ)による潮汐感度が高く,潮汐応力値が大きいほど微動が発生する傾向を示した.潮汐法線応力(Δσ)は微動のトリガーにはほとんど効いていなかった.LSSE期間の微動の潮汐感度は,LSSE期間以外の期間(背景(BG)期間)のそれよりも概ね高かった(例外としてBGの4期目はやや高め).
ただし,BG期間の潮汐感度は低いとは言え,帰無仮説「微動が潮汐とは無関係に発生」はKS検定により有意水準1%で棄却される.つまり生来潮汐せん断応力は微動のトリガー作用に関与しているということである.そして本解析により,LSSE期間にはそのトリガー効果が増幅されていることがわかった.
潮汐は広域に同時に数時間にわたって影響を及ぼすため,微動域は勿論のこと,すべり速度が増加したLSSEによって隣接した微動域に与えるせん断応力が増加し,微動の潮汐感度も高くなった可能性がある.