9:30 AM - 12:00 PM
[S15P-13] Estimation of surface seismograms at MeSO-net seismic stations
1. 研究の目的
本研究では、MeSO-netの地中設置型地震計のデータから地表の揺れの様子を高精度に予測するために、各観測点での微動観測や地表における臨時観測を行うことにより、地盤増幅特性の評価や地盤のS波速度構造の推定を行っている。MeSO-netは、センサを地下20mに設置することで周波数により3倍から30倍程度のノイズ低減が期待できることから1)、震源決定や速度構造の推定には優れたデータである。一方、大地震時の地震動や即時被害推定を行うには地表における地震動をリアルタイムで得ることが必要である。このため、MeSO-net各観測点の地表において臨時地震観測や微動アレイ観測を行ない、地中の地震動データに対する地表地震動への伝達関数を明らかにし、連続収集している地中のMeSO-netの地震動データから逐次的に地表における地震動を予測することを可能とした。ただし本手法は一次元の線形応答を仮定したものであり、大地震時の大振幅による非線形応答や地盤の液状化などが発生した際には正しく地表地震動を推定できない。本研究では、各観測点で実施した地表における臨時地震観測及び微動アレイ観測と地盤増幅特性や地盤のS波速度構造の推定結果について述べる。
2. MeSO-net観測点における地表地震記録の取得と増幅特性の推定
各MeSO-net観測点の地表において2~3ヶ月の臨時地震観測を行い、地中におけるMeSO-netの観測データに対する地表スペクトル増幅率の推定を行った。臨時観測はMeSO-netの地中地震計と同じセンサーを持つ地震計(白山工業社製JU410等)を観測井近傍に設置して行った。観測結果に対し、増幅特性は各観測地点における地中および地表で得られた地震波形に0.1~30Hzのバンドパスフィルターをかけ、フーリエスペクトルを成分ごとに計算し、バンド幅0.05HzのParzenウィンドウで平滑化した上で、地中記録に対する地表記録の比をとった。その結果、比較的固いローム台地と軟弱な後背湿地や自然堤防の増幅特性の特徴の違いが明瞭となっている。ローム台地の観測点については5~10Hzの短周期で増幅度が大きくなっており、MeSO-net地震計の深さ20mよりも浅い場所で地盤構造に変化があるものと考えられる。一方、後背湿地・自然堤防の地形では、1~2Hz付近で顕著な増幅を示す。
3. 微動アレイ観測とS波速度構造などの地盤物性値の推定
地下50m程度までのS波速度構造を推定し、MeSO-netによる地中地震動記録に対する地表地震動の増幅特性を高度化するために、微動アレイ観測をMeSO-netの293観測点で実施した。観測にはJU410を使用し、各MeSO-net観測点の地中地震計直上において、アレイ半径60cmの4点極小アレイと1辺5~15m程度の3点不規則アレイを展開し、サンプリング周波数は200Hzで、全点同時に15分間程度の観測を行った。微動アレイ観測結果に対しSPAC法等を用いて位相速度解析を実施し、AVS30などの増幅特性の抽出、分散曲線の直接深度変換法、逆解析などの逆解析手法を用いてS波速度構造などの地盤物性値を推定した。地表地震観測による増幅特性の推定結果と同様に、比較的固いローム台地と軟弱な後背湿地の特徴の違いが明確になっている。
4. 地震記録による地表~地中の増幅特性とS波速度構造モデルによる増幅特性の比較
本研究では、地震計設置位置における地中~地表の増幅特性の検討として、震度増分(図1)を求めた。図1に示した震度増分では、ローム台の方が他の微地形区分よりも震度増分が大きい。全体としては、台地系で比較的大きくなっており、低地系で比較的小さい値を示していることがわかる。このことより、比較的固いローム台地等の台地系微地形区分では、そのほとんどが、工学的基盤層が深さ20m以内に現れており、一方で軟弱な埋立地や三角州などの低地系では、工学的基盤層が深さ40mを超える層まで現れていない事と相関があるものと考える。
5. まとめ
本研究ではMeSO-net観測点の地表において、評価した観測地点における震度増分の特徴としてローム台地では震度増分が1.0~1.5程度、周波数3~10Hzにおける増幅率が大きく、低地系微地形区分(後背湿地・自然堤防等)では震度増分は0.5程度、周波数2~5Hzで増幅率が大きくなる傾向にあった。また、微動観測のS波速度による伝達関数と地震観測記録の大半は調和的な結果となっているが、一部の観測地点については結果に乖離があるため、S波速度構造モデルの見直しや、観測地点の地形・地質情報等による確認・修正を行い、地震観測記録と調和的になるように調整した。今後、得られたS波速度構造モデルと震度増分については、マルチインテグレーションシステムに搭載し、連続収集している地中のMeSO-netの地震動データから逐次的に地表における地震動を予測することが可能となる。
(謝辞) 本研究は、首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト サブテーマ(b)「官民連携による超高密度地震観測データの収集・整備」(2017年度~2021年度)において行われた。 また、若井淳博士にはデータのとりまとめ等ご協力いただいた。
本研究では、MeSO-netの地中設置型地震計のデータから地表の揺れの様子を高精度に予測するために、各観測点での微動観測や地表における臨時観測を行うことにより、地盤増幅特性の評価や地盤のS波速度構造の推定を行っている。MeSO-netは、センサを地下20mに設置することで周波数により3倍から30倍程度のノイズ低減が期待できることから1)、震源決定や速度構造の推定には優れたデータである。一方、大地震時の地震動や即時被害推定を行うには地表における地震動をリアルタイムで得ることが必要である。このため、MeSO-net各観測点の地表において臨時地震観測や微動アレイ観測を行ない、地中の地震動データに対する地表地震動への伝達関数を明らかにし、連続収集している地中のMeSO-netの地震動データから逐次的に地表における地震動を予測することを可能とした。ただし本手法は一次元の線形応答を仮定したものであり、大地震時の大振幅による非線形応答や地盤の液状化などが発生した際には正しく地表地震動を推定できない。本研究では、各観測点で実施した地表における臨時地震観測及び微動アレイ観測と地盤増幅特性や地盤のS波速度構造の推定結果について述べる。
2. MeSO-net観測点における地表地震記録の取得と増幅特性の推定
各MeSO-net観測点の地表において2~3ヶ月の臨時地震観測を行い、地中におけるMeSO-netの観測データに対する地表スペクトル増幅率の推定を行った。臨時観測はMeSO-netの地中地震計と同じセンサーを持つ地震計(白山工業社製JU410等)を観測井近傍に設置して行った。観測結果に対し、増幅特性は各観測地点における地中および地表で得られた地震波形に0.1~30Hzのバンドパスフィルターをかけ、フーリエスペクトルを成分ごとに計算し、バンド幅0.05HzのParzenウィンドウで平滑化した上で、地中記録に対する地表記録の比をとった。その結果、比較的固いローム台地と軟弱な後背湿地や自然堤防の増幅特性の特徴の違いが明瞭となっている。ローム台地の観測点については5~10Hzの短周期で増幅度が大きくなっており、MeSO-net地震計の深さ20mよりも浅い場所で地盤構造に変化があるものと考えられる。一方、後背湿地・自然堤防の地形では、1~2Hz付近で顕著な増幅を示す。
3. 微動アレイ観測とS波速度構造などの地盤物性値の推定
地下50m程度までのS波速度構造を推定し、MeSO-netによる地中地震動記録に対する地表地震動の増幅特性を高度化するために、微動アレイ観測をMeSO-netの293観測点で実施した。観測にはJU410を使用し、各MeSO-net観測点の地中地震計直上において、アレイ半径60cmの4点極小アレイと1辺5~15m程度の3点不規則アレイを展開し、サンプリング周波数は200Hzで、全点同時に15分間程度の観測を行った。微動アレイ観測結果に対しSPAC法等を用いて位相速度解析を実施し、AVS30などの増幅特性の抽出、分散曲線の直接深度変換法、逆解析などの逆解析手法を用いてS波速度構造などの地盤物性値を推定した。地表地震観測による増幅特性の推定結果と同様に、比較的固いローム台地と軟弱な後背湿地の特徴の違いが明確になっている。
4. 地震記録による地表~地中の増幅特性とS波速度構造モデルによる増幅特性の比較
本研究では、地震計設置位置における地中~地表の増幅特性の検討として、震度増分(図1)を求めた。図1に示した震度増分では、ローム台の方が他の微地形区分よりも震度増分が大きい。全体としては、台地系で比較的大きくなっており、低地系で比較的小さい値を示していることがわかる。このことより、比較的固いローム台地等の台地系微地形区分では、そのほとんどが、工学的基盤層が深さ20m以内に現れており、一方で軟弱な埋立地や三角州などの低地系では、工学的基盤層が深さ40mを超える層まで現れていない事と相関があるものと考える。
5. まとめ
本研究ではMeSO-net観測点の地表において、評価した観測地点における震度増分の特徴としてローム台地では震度増分が1.0~1.5程度、周波数3~10Hzにおける増幅率が大きく、低地系微地形区分(後背湿地・自然堤防等)では震度増分は0.5程度、周波数2~5Hzで増幅率が大きくなる傾向にあった。また、微動観測のS波速度による伝達関数と地震観測記録の大半は調和的な結果となっているが、一部の観測地点については結果に乖離があるため、S波速度構造モデルの見直しや、観測地点の地形・地質情報等による確認・修正を行い、地震観測記録と調和的になるように調整した。今後、得られたS波速度構造モデルと震度増分については、マルチインテグレーションシステムに搭載し、連続収集している地中のMeSO-netの地震動データから逐次的に地表における地震動を予測することが可能となる。
(謝辞) 本研究は、首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト サブテーマ(b)「官民連携による超高密度地震観測データの収集・整備」(2017年度~2021年度)において行われた。 また、若井淳博士にはデータのとりまとめ等ご協力いただいた。