13:30 〜 16:00
[S21P-08] 深層学習を用いた地震波形からの波動伝播方向推定の試み
巨大地震や連発地震発生時においても安定して地震動即時予測を行うため,近年では震源推定をせずに揺れから揺れを直接推定する手法が提案されている(例えば,Hoshiba and Aoki, 2015; Kodera et al., 2018).これらの手法では,各観測点におけるリアルタイム震度(功刀・他,2013)の観測値を入力として波動伝播の計算を行っているが,波の振幅だけでなく,伝播方向などの他の物理量の観測値も合わせて用いることができれば.より予測の迅速性や精度の向上につながると期待される.本研究では,波動伝播モデルに取り込める観測情報を増やすことを目的として,観測点の地震波形から波動伝播方向を深層学習によって推定する方法を開発する.波の到来方向はP波初動の震動軌跡を見ることでも推定することは可能ではあるが,この方法はP波初動を正確に検測できることを前提にしており,P波初動が不明瞭となる連発地震などではうまく推定ができない恐れがある.本研究では,初動部分だけではなく波形全体の形状から情報抽出を試みることで,よりロバストな伝播方向の推定を目指す.
対象観測点をKiK-netひたちなか(IBRH18)の地上点として手法の検証を行った.2010年1月から2022年7月までに観測された波形のうち,リアルタイム震度0.5以上かつ理論P波時刻の2秒前以前から収録されている波形を抽出した(約1500波形).入力は2秒間の3成分加速度波形とし,理論P波時刻の2秒前から10秒後までを0.2秒ごとにスライドさせて学習用のデータセットを生成した.教師データとなる波動伝播方向は,観測点から見た震央方位に等しいとした.深層学習モデルはGRU(Gated Recurrent Unit)と全結合層からなるネットワークを採用し,データセットをtrain:validation:test=6:2:2に分けて学習と評価を行った.学習済みモデルをテストデータに適用したところ,以下の傾向が見られた:(1)理論P波到達後2秒までの波形を入力した時点では,約4割の事例が±30°以内の精度で,約6割が±45°の精度で伝播方向を求められた.(2)さらに後続の波を入力していくと,伝播方向の推定精度が徐々に悪化していくが,理論P波到達後10秒時点では,±30°以内の精度で求まる事例が約1割,±45°の精度の事例が約3割あった.これらの結果は,後続波には到来方向が様々な多重反射や多重散乱の波が多く含まれているため伝播方向の推定は難しいものの,波形全体の形状を学習させることで,P波初動を陽に検測することなく伝播方向をある程度推定することが可能であることを示している.今後はモデルの改良を進めるとともに,連発地震などに対する評価も行う予定である.
対象観測点をKiK-netひたちなか(IBRH18)の地上点として手法の検証を行った.2010年1月から2022年7月までに観測された波形のうち,リアルタイム震度0.5以上かつ理論P波時刻の2秒前以前から収録されている波形を抽出した(約1500波形).入力は2秒間の3成分加速度波形とし,理論P波時刻の2秒前から10秒後までを0.2秒ごとにスライドさせて学習用のデータセットを生成した.教師データとなる波動伝播方向は,観測点から見た震央方位に等しいとした.深層学習モデルはGRU(Gated Recurrent Unit)と全結合層からなるネットワークを採用し,データセットをtrain:validation:test=6:2:2に分けて学習と評価を行った.学習済みモデルをテストデータに適用したところ,以下の傾向が見られた:(1)理論P波到達後2秒までの波形を入力した時点では,約4割の事例が±30°以内の精度で,約6割が±45°の精度で伝播方向を求められた.(2)さらに後続の波を入力していくと,伝播方向の推定精度が徐々に悪化していくが,理論P波到達後10秒時点では,±30°以内の精度で求まる事例が約1割,±45°の精度の事例が約3割あった.これらの結果は,後続波には到来方向が様々な多重反射や多重散乱の波が多く含まれているため伝播方向の推定は難しいものの,波形全体の形状を学習させることで,P波初動を陽に検測することなく伝播方向をある程度推定することが可能であることを示している.今後はモデルの改良を進めるとともに,連発地震などに対する評価も行う予定である.