1:30 PM - 4:00 PM
[S21P-10] Experiment on Early Prediction of Long-Period Earthquake Motions Based on Deep Learning
1. はじめに
深層学習に基づき、大地震の震源域近傍での強震観測波形データに基づき、遠地の離平野で生成する長周期地震動(周期2〜20秒程度)の即時予測モデルを開発した。深層学習を強震動予測に適用した既往研究には、震源要素とサイト特性を入力とする最大加速度分布の予測(例えば、Kubo et al. 2020)や、震源近傍での地震波形データから遠地の地震動レベル(例えば、Jozinovic et al. 2020)及び応答スペクトルの予測(田屋・古村、2022−本大会)がある。本研究では、震源近傍での観測波形から、遠地の長周期地震動を予測する、“波形から波形の予測”を行った。これは、長周期地震動による構造物の影響評価において、速度応答スペクトル値に加え、揺れの包絡線形状や継続時間など、揺れ波形の特徴も重要な指標になると考えられるためである。
2.データ・手法
日本海溝沿いの大地震による長周期地震動予測をターゲットとし、F-net八溝観測点(YMZF;栃木県大田原市)の速度型強震計記録を入力データとして、南南西方向に141 km離れたHi-net 富岡観測点(YFTH;横浜市金沢区)の長周期地震動の予測を行った。この距離では、表面波の到着まで約50秒の猶予時間がある。予測モデルには、時系列データ処理に用いられるTemporal Convolutional Network (TCN)を採用し、Keras-TCNライブラリ(Remy 2020)を用いてpythonコードを作成した。TCNは、他の時系列処理モデル(RNNやLSTMなど)に比べて、長い入力データを少メモリ・計算量で処理可能である。ここでは、長時間の波形データを扱うために、畳み込み層のフイルタ項数を256、カーネルサイズを3, dilationsを2,4,…,128と大きく設定した。また、過学習を防ぐためにドロップアウト率を0.01に設定した。学習データには、東北地方太平洋沖地震の前(2004/4/1〜2011/3/10)に発生した、Mw6.0以上の33個の地震のF-net, Hi-net波形データを使用した(図1)。Hi-netデータは振り切れがないことを確認し、地震計特性補正フイルタ(Maeda et al. 2017)により広帯域化した。波形データには周期1〜40 sのバンドパスフイルタをかけた後に4 Hzにリサンプリングし、長さ600秒の学習データセットを用意した。学習は、東大情報基盤センターのWisteriaを用いて実行し、バッチサイズを10とする1000エポック数の繰り返し学習にはGPU計算で2分を要した。
3.結果
学習済みTCNモデルを用いて、東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)と以後(2011/3/11〜2018/1/24)に東北沖で発生した25個の地震(≧Mw6.3)を対象に長周期地震動の予測テストを行った。予測は、WisteriaのCPU計算により1地震あたり0.06秒で完了した。図2に、(a)東北地方太平洋沖地震、(b)2005/12/12岩手県沖の地震(Mw6.9)、(c)2008年12月14日の福島県沖の地震(Mw6.1)の長周期地震動の予測波形と実際の観測波形の比較、及び入力波形を示す。全ての地震の予測テスト結果と観測波形との一致度は、1)速度応答スペクトルの強度比、2)弾性震動エネルギーの総和比、3)波形エンベロープの相関係数、の3つの指標で定量化し、その分布の四分位数を箱ひげ図を用いて示す(図2d)。指標1)〜3)の平均値は、それぞれ0.7、0.52、0.5となり、全体的に過小評価ぎみではあるが、速度応答スペクトルと経時特性の形状が良く再現された。一方、予測の外れ値(過大評価)は、YMZF観測点に近い福島県浜通りの地震に対する予測結果である。この地域では、東北地方太平洋沖地震後に活動が活発化しており、予測モデルの汎用化に向けて新たな観測データを追加した学習の更新が必要である。
4.今後の課題
今回の予測実験では、関東平野での予測の入力地点として茨城県のYMZF観測点を使用したが、予測の猶予時間を確保するためには、より遠地の入力に基づく予測が望ましい。一方、猶予時間と予測精度にはトレードオフがあるため、複数観測点を用いた予測や、観測データの取得状況に合わせた予測の随時更新など、予測システムの拡張が必要である。
深層学習に基づき、大地震の震源域近傍での強震観測波形データに基づき、遠地の離平野で生成する長周期地震動(周期2〜20秒程度)の即時予測モデルを開発した。深層学習を強震動予測に適用した既往研究には、震源要素とサイト特性を入力とする最大加速度分布の予測(例えば、Kubo et al. 2020)や、震源近傍での地震波形データから遠地の地震動レベル(例えば、Jozinovic et al. 2020)及び応答スペクトルの予測(田屋・古村、2022−本大会)がある。本研究では、震源近傍での観測波形から、遠地の長周期地震動を予測する、“波形から波形の予測”を行った。これは、長周期地震動による構造物の影響評価において、速度応答スペクトル値に加え、揺れの包絡線形状や継続時間など、揺れ波形の特徴も重要な指標になると考えられるためである。
2.データ・手法
日本海溝沿いの大地震による長周期地震動予測をターゲットとし、F-net八溝観測点(YMZF;栃木県大田原市)の速度型強震計記録を入力データとして、南南西方向に141 km離れたHi-net 富岡観測点(YFTH;横浜市金沢区)の長周期地震動の予測を行った。この距離では、表面波の到着まで約50秒の猶予時間がある。予測モデルには、時系列データ処理に用いられるTemporal Convolutional Network (TCN)を採用し、Keras-TCNライブラリ(Remy 2020)を用いてpythonコードを作成した。TCNは、他の時系列処理モデル(RNNやLSTMなど)に比べて、長い入力データを少メモリ・計算量で処理可能である。ここでは、長時間の波形データを扱うために、畳み込み層のフイルタ項数を256、カーネルサイズを3, dilationsを2,4,…,128と大きく設定した。また、過学習を防ぐためにドロップアウト率を0.01に設定した。学習データには、東北地方太平洋沖地震の前(2004/4/1〜2011/3/10)に発生した、Mw6.0以上の33個の地震のF-net, Hi-net波形データを使用した(図1)。Hi-netデータは振り切れがないことを確認し、地震計特性補正フイルタ(Maeda et al. 2017)により広帯域化した。波形データには周期1〜40 sのバンドパスフイルタをかけた後に4 Hzにリサンプリングし、長さ600秒の学習データセットを用意した。学習は、東大情報基盤センターのWisteriaを用いて実行し、バッチサイズを10とする1000エポック数の繰り返し学習にはGPU計算で2分を要した。
3.結果
学習済みTCNモデルを用いて、東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)と以後(2011/3/11〜2018/1/24)に東北沖で発生した25個の地震(≧Mw6.3)を対象に長周期地震動の予測テストを行った。予測は、WisteriaのCPU計算により1地震あたり0.06秒で完了した。図2に、(a)東北地方太平洋沖地震、(b)2005/12/12岩手県沖の地震(Mw6.9)、(c)2008年12月14日の福島県沖の地震(Mw6.1)の長周期地震動の予測波形と実際の観測波形の比較、及び入力波形を示す。全ての地震の予測テスト結果と観測波形との一致度は、1)速度応答スペクトルの強度比、2)弾性震動エネルギーの総和比、3)波形エンベロープの相関係数、の3つの指標で定量化し、その分布の四分位数を箱ひげ図を用いて示す(図2d)。指標1)〜3)の平均値は、それぞれ0.7、0.52、0.5となり、全体的に過小評価ぎみではあるが、速度応答スペクトルと経時特性の形状が良く再現された。一方、予測の外れ値(過大評価)は、YMZF観測点に近い福島県浜通りの地震に対する予測結果である。この地域では、東北地方太平洋沖地震後に活動が活発化しており、予測モデルの汎用化に向けて新たな観測データを追加した学習の更新が必要である。
4.今後の課題
今回の予測実験では、関東平野での予測の入力地点として茨城県のYMZF観測点を使用したが、予測の猶予時間を確保するためには、より遠地の入力に基づく予測が望ましい。一方、猶予時間と予測精度にはトレードオフがあるため、複数観測点を用いた予測や、観測データの取得状況に合わせた予測の随時更新など、予測システムの拡張が必要である。