日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

A会場

特別セッション » S22. 北海道周辺の沈み込み帯における地震・津波に関する諸現象

[S22] PM-2

2022年10月24日(月) 15:45 〜 16:45 A会場 (1階(かでるホール))

座長:大園 真子(北海道大学大学院理学研究院)

15:45 〜 16:00

[S22-09] 千島海溝沿い根室沖における海底測地観測

*富田 史章1、木戸 元之1、太田 雄策2、日野 亮太2、飯沼 卓史3、本荘 千枝2、大園 真子4、高橋 浩晃4 (1. 東北大学災害科学国際研究所、2. 東北大学大学院理学研究科、3. 海洋研究開発機構、4. 北海道大学大学院理学研究院)

2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)では,巨大な断層すべりがプレート境界浅部まで到達し,それに伴い巨大な津波が発生した.そのため,沈み込み帯でのプレート境界型超巨大地震の発生様式の理解および津波を含めた災害リスク評価には,こうしたプレート境界浅部での大すべりの挙動を理解することが極めて重要である.
千島海溝では,太平洋プレートの沈み込みに伴い(MOVELモデルによるオホーツクプレートに対する沈み込み速度:~9.1 cm/yr・N293°),過去にM7–8クラスの地震が十勝沖や根室沖でセグメントを分けて繰り返し発生している.一方で,近年の津波堆積物調査等から,17世紀に十勝・根室沖の両セグメントを破壊した巨大な地震が発生し,かつプレート境界浅部で大きなすべりが生じていた可能性が示された(Ioki & Tanioka, 2016).そのため,2011年東北地方太平洋沖地震と同じくプレート境界浅部での巨大な断層すべりが今後発生する可能性が懸念されている.しかし,プレート境界浅部域での歪みの蓄積の有無は,陸上の測地観測網から検出することが困難である.そこで,東北大学・北海道大学では,千島海溝根室沖における現在のプレート間固着状態を明らかにするため,2019年にGNSS音響結合方式による海底地殻変動観測(GNSS-A観測)点を3点設置し,船舶及び海洋研究開発機構の所有するウェーブグライダーを用いたGNSS-A観測の実施を開始した.
3点のGNSS-A観測点の内,2点(G21:海溝軸から約100 km, G22:同約35 km)は陸側斜面に設置し,1点(G23:同約35 km)は沈み込む太平洋プレート上に設置した.各観測点は,三角形状に配置した3つの海底局とその中心に設置した1つの海底局の計4つの海底局で構成されており,水平変位のみならず鉛直変位の検出にも有利になる(Tomita et al., 2019)ように配置した.これらの観測点において,これまでに4回のキャンペーン観測を実施した:2019年7月(新青丸:KS-19-12),2020年10月(KS-20-16),2021年4月(KS-21-05),2022年5月(傭船).また,G22観測点では,2021年4月と2022年5月の観測時に,船舶とウェーブグライダーを併用して観測データを取得した.
海中音速の水平成層構造を仮定した海底局アレイ変位の推定では,どの観測点もオホーツクプレート固定で北西向きの~6–9 cm/yrの変位速度が得られ(G21:~6.4 cm/yr・N264°,G22:~8.1 cm/yr・N222°,G23:~9.1 cm/yr・N290°),海溝軸に近い観測点でもプレート間固着と考えられる変動が生じていることが示された.これらの結果は,観測回数が4回と少ないことに加えて,海中音速の水平不均質性を考慮していないため,今後のさらなる観測・解析を踏まえた上で,プレート間固着状態を解釈していく必要がある.一方,上下変動についてはどの観測点でも~4–10 cm程度の沈降傾向が得られているが,テクトニックな変動としてはあまりにも大きい.上下変動成分には,用いた船舶の差異や初期音速構造などによる系統誤差が乗りやすいため,それらの影響を今後評価していく必要がある.
本発表までに海中音速の不均質性を考慮した解析(Tomita & Kido, under review)を実施する見込みである.本発表では,その結果に基づく推定変位を紹介し,その上で千島海溝沿いプレート境界浅部でのプレート間固着状態について議論したい.

参考文献
Ioki & Tanioka (2016), Earth and Planetary Science Letters, 433, 133-138, doi: 10.1016/j.epsl.2015.10.009.
Tomita et al. (2019), Earth, Planets and Space, 71:102, doi: 10.1186/s40623-019-1082-y