09:30 〜 09:45
[S02-01] 浅海用係留ブイ方式海底観測システムの開発と実データの評価
日本海東縁沿岸海域では大地震が度々発生している。近年では、2019年6月18日に山形県酒田市沖の深さ約14 km を震源とする気象庁マグニチュード(Mj) 6.7の地震が発生した。また、2023年5月5日には能登半島沿岸沖の深さ約12 kmにおいて、Mj6.5の地震が発生した。この2つの地震の発震機構は、いずれも逆断層型であり、いわゆる内陸型地震と考えられている。日本海東縁部には、ひずみ集中帯と呼ばれる活構造が存在しており、これらの地震はこの構造の一部が関係していることが推定されている。このような沿岸海域を震央とした浅い地震とその地震発生場の特徴を正確に把握するためには、陸域の高密度地震観測網の近くであるが、震源域直上における海底臨時地震観測が必要である。しかしながら、震源域直上の海底は水深100 m程度と浅く、水産活動等が活発な海域である。そのため、通常海底観測に用いられる自由落下自己浮上式海底地震計による海底観測は難しい。また、海底からの高さがある自己浮上式海底地震計では、雑微動が大きい。そこで、沿岸域は水深が浅いことを利用し、簡便な係留ブイ方式によるS/N比のよい海底地震観測システムを新たに開発した。開発した係留ブイ方式海底地震計は、2019年6月の山形県沖の地震および2023年5月の能登半島沖の地震の余震観測に利用した。ここでは、新たに開発した係留ブイ方式海底観測システムの概要と、得られたデータの評価について、述べる。 浅海用係留ブイ方式海底地震計システムに採用した海底地震観測装置は、米国Geospace社のOcean Bottom Recorder (OBX-750)である。この観測装置は、固有周波数15Hz 3成分速度型地震計(GS-ONE OMNI)とハイドロフォンを搭載して、750mまでの水深で自立した観測が可能である。搭載している地震計は置かれている姿勢に関係なく計測可能であるために、レベリング装置を搭載していない。地震計の姿勢を知るために、2軸の傾斜計と方位計が付加されている。ハイドロフォンは10Hz以上の周波数について、平坦な特性となっている。地震計およびハイドロフォンからの信号は24bit-A/Dされ、メモリーに連続収録される。内蔵電池により約30日間の連続観測が可能である。大きさは、52 x 21 x 11cmであり、重量は空中約11kg、水中約4kgの小型な装置である。特徴としては、全体として板の形状をしているため、海底における海水流の影響を受けにくく、S/N比がよい記録が可能である。刻時については、OVCXO(恒温電圧制御水晶発振子)を用いており、設置直前および回収直後に内部時計とGNSSによる標準時計との差を計測する。観測中の時刻差は、これらのデータの直線補間により決定する。設置方法については係留ブイ式を採用した。ブイが海上にあることにより、海底に設置物があることを周知する。係留システムは、まず、ロープ先端に安定のための錘(数kg程度)をつけ、約1.5 m離して、OBXを取り付ける。その先に、船止め用のアンカー(重さ8kg程度)を2 m離して2個、または重量20kgの大型アンカーを1つ取り付け、海底部とする。船止め用アンカーを用いることにより、風や波浪による位置の移動を防止する。船止め用アンカーは、底質などの環境を考慮して選択する。全長約200mのロープ末端にブイとアンカーを繋いだ。2019年6月の山形県沖の地震の余震観測では、この浅海用係留ブイ方式海底地震計3台を、5kmおよび8.5km程度の間隔で震源域直上に設置した。水深は70mから80mである。余震観測であること、設置水深が100m以下と浅いことを考慮し、OBXのアナログ部の増幅度は下げ、500Hzのサンプリング周波数にて収録を行った。7月5日に設置を実施し、回収は7月13日に行った。このうち2台から良好なデータが回収された(Shinohara et al., 2022)。2023年5月の能登半島沖の観測では、4台を約5 km間隔で半島北方沖に、1台を東方沖に設置した。水深は75 mから100mである。収録パラメータは、2019年7月の観測と同一とした。2023年6月26日から観測を開始し、7月5日に全台回収し、良好なデータが得られた。 2019年の観測では、傾斜計と方位計のデータから観測中の姿勢はほぼ安定していることがわかった。沿岸の気象データとの比較では、強風時には姿勢がやや変化していた。傾斜計と方位計のデータを用いて、3成分記録を上下動、東西動、南北動に変換し、雑微動のスペクトルを計算した。その結果、沿岸の臨時地震観測点とほぼ同じ雑微動レベルであり、時間変化が小さいことがわかった。