[S02P-01] 低品質かつ大量の反射法地震探査データを効率的に処理する試み - 会津坂下町の例 -
近年,地震探査システムの高性能化や記録メディアの高容量化等にともなって,取得されるデータ量が増大している.反射法地震探査のデータ処理は対話的に実施されるため,データ量に比例して処理に時間がかかるのが一般的である.通常は,処理能力を考慮して探査を計画するものであるが,様々な事情により処理能力を超えるデータ量を取得するような調査を実施せざるを得ないケースもある.結果として,優先度の低いデータが十分に処理されず放置されることになる.主として社会的要請の低いデータや品質に問題のあるデータの優先度が低くなる.
一方,反射法データ処理は,近年の計算機処理能力の向上やAIの普及等により,各過程での自動化が進められている.一部の商用処理システムの処理例を見ると,オペレーターが対話的に処理した結果と比較して遜色のない,非常に良好な結果を得られているようである.このような自動処理システムを用いて未処理データの処理を進めることが期待される.しかしながら,上述したように未処理となっているデータは品質に問題のあることが多く,必ずしも良好に自動処理が実施できるとは限らない.我々は2017年10月に福島県会津坂下町で実施した反射法地震探査のデータ(伊藤ほか,2018a)について,自動処理の適用を試みた(Fig. 1.).
会津坂下町での探査では,測線長約4.8kmに対し,発震・受振点間隔は2mとし,総発震・受振点数は2400点にも及ぶ.このため,各点での発震は3回にとどめざるを得なかった.また,事前に情報を得ていたコメの収穫時期が実際と異なっていたため,大型農業機械の発するノイズの影響を受けた.さらに,探査の時間を節約するために衝撃型震源を用いたため,ノイズの影響を低減させることができなかった.一応の処理は実施したものの,期待した結果を得ることはできなかった(伊藤ほか,2018b).
我々の使用している処理システムには,AIを利用した初動ピックの評価・再検測ソフトウェアおよび自動速度解析ソフトウェアが実装されている.これらのソフトウェアを利用して処理を実施した.
再検測ソフトウェアは,2種類のアルゴリズムで再検測を行う.ひとつは,良好なピックを教師データとして学習し,それ以外のデータに適用するものである.もうひとつは,良好なピックからすべての発震・受振点の組み合わせの残差を最小にするもので,オペレーターが発震点ギャザーと受振点ギャザーを確認しながら齟齬がないように検測することを計算機に任せることに相当する.これらの再検測を繰り返し実施することにより,ピックを収束させる.これらの再検測を有効に作用させるためには,ある程度良好な初期ピックを用意すること,可能な限りノイズ低減処理を実施しておくことが重要であった.これには一定程度の手間がかかるものの,すべてを手動で検測することと比較すると大幅に手数を省略することができた.
速度解析ソフトウェアはほぼブラックボックスである.オペレーターが対話的に実施する速度解析では多くのパネルを用い,先験的な情報も考慮しながら速度モデルを構築する.しかしながら,ソフトウェアは先験的な情報を利用することはなく与えられたデータのみから速度モデルを構築するため,不自然と思われるようなモデルであっても棄却しない.その結果,空間的に相の連続性は著しく向上するが,現実ではあり得ないような複雑なモデルを構築することもある(Fig. 1.).このようなことは,速度モデルの格子点の設定を調整することで回避することができるかもしれない.あるいはソフトウェアが構築したモデルを対話的に調整することも可能であろう.そのような手間を加えたとしてもソフトウェアの利用には大きな優位性があると考えられる.
文献
伊藤忍・木下佐和子・山口和雄・内田洋平・石原武志(2018 a) 福島県会津坂下町における反射法地震探査,日本地球惑星科学連合2018年大会 講演予稿集 SSS11-P03
伊藤忍・木下佐和子・山口和夫・内田洋平・石原武志・竜沢篤ノ助(2018 b) 反射法地震探査による会津盆地の地下構造,日本地震学会2018年度秋季大会 講演予稿集 S06-P02
一方,反射法データ処理は,近年の計算機処理能力の向上やAIの普及等により,各過程での自動化が進められている.一部の商用処理システムの処理例を見ると,オペレーターが対話的に処理した結果と比較して遜色のない,非常に良好な結果を得られているようである.このような自動処理システムを用いて未処理データの処理を進めることが期待される.しかしながら,上述したように未処理となっているデータは品質に問題のあることが多く,必ずしも良好に自動処理が実施できるとは限らない.我々は2017年10月に福島県会津坂下町で実施した反射法地震探査のデータ(伊藤ほか,2018a)について,自動処理の適用を試みた(Fig. 1.).
会津坂下町での探査では,測線長約4.8kmに対し,発震・受振点間隔は2mとし,総発震・受振点数は2400点にも及ぶ.このため,各点での発震は3回にとどめざるを得なかった.また,事前に情報を得ていたコメの収穫時期が実際と異なっていたため,大型農業機械の発するノイズの影響を受けた.さらに,探査の時間を節約するために衝撃型震源を用いたため,ノイズの影響を低減させることができなかった.一応の処理は実施したものの,期待した結果を得ることはできなかった(伊藤ほか,2018b).
我々の使用している処理システムには,AIを利用した初動ピックの評価・再検測ソフトウェアおよび自動速度解析ソフトウェアが実装されている.これらのソフトウェアを利用して処理を実施した.
再検測ソフトウェアは,2種類のアルゴリズムで再検測を行う.ひとつは,良好なピックを教師データとして学習し,それ以外のデータに適用するものである.もうひとつは,良好なピックからすべての発震・受振点の組み合わせの残差を最小にするもので,オペレーターが発震点ギャザーと受振点ギャザーを確認しながら齟齬がないように検測することを計算機に任せることに相当する.これらの再検測を繰り返し実施することにより,ピックを収束させる.これらの再検測を有効に作用させるためには,ある程度良好な初期ピックを用意すること,可能な限りノイズ低減処理を実施しておくことが重要であった.これには一定程度の手間がかかるものの,すべてを手動で検測することと比較すると大幅に手数を省略することができた.
速度解析ソフトウェアはほぼブラックボックスである.オペレーターが対話的に実施する速度解析では多くのパネルを用い,先験的な情報も考慮しながら速度モデルを構築する.しかしながら,ソフトウェアは先験的な情報を利用することはなく与えられたデータのみから速度モデルを構築するため,不自然と思われるようなモデルであっても棄却しない.その結果,空間的に相の連続性は著しく向上するが,現実ではあり得ないような複雑なモデルを構築することもある(Fig. 1.).このようなことは,速度モデルの格子点の設定を調整することで回避することができるかもしれない.あるいはソフトウェアが構築したモデルを対話的に調整することも可能であろう.そのような手間を加えたとしてもソフトウェアの利用には大きな優位性があると考えられる.
文献
伊藤忍・木下佐和子・山口和雄・内田洋平・石原武志(2018 a) 福島県会津坂下町における反射法地震探査,日本地球惑星科学連合2018年大会 講演予稿集 SSS11-P03
伊藤忍・木下佐和子・山口和夫・内田洋平・石原武志・竜沢篤ノ助(2018 b) 反射法地震探査による会津盆地の地下構造,日本地震学会2018年度秋季大会 講演予稿集 S06-P02