日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S03. 地殻変動・GNSS・重力

[S03] AM-2

2023年10月31日(火) 11:00 〜 12:15 C会場 (F202)

座長:富田 史章(東北大学)、大塚 英人(東北大学)

11:45 〜 12:00

[S03-07] 2011年東北沖地震以前の海底水圧データの再解析

*平田 京輔1、日野 亮太1、大塚 英人1、太田 雄策1、碓氷 典久2 (1. 東北大学大学院理学研究科、2. 気象研究所)

2011年東北沖地震以前の海底水圧計(OBP)データの解析では、地震発生前に様々なスロースリップ現象が確認されている。3月9日の最大前震後には、明らかな余効すべりがOhta et al. (2012)によって確認されている。Ito et al. (2016) は3月9日の前震の破壊域のアップディップ側で2月中旬からSSEが発生していることを報告している。一方、Hino et al. (2014) は本震の震源域付近でも明瞭な本震発生直前の非地震性すべりの加速に対応する地殻上下変動は確認できなかったと結論づけている。OBPデータから地殻変動シグナルを抽出するには非潮汐海洋変動成分を取り除くことが重要である。海洋変動ノイズを低減するために、海洋モデルを用いて海底圧力変動を推定する手法がとられており(たとえば、Hino et al., 2014; He et al., 2023)、こうした海洋モデルによる実際の海底水圧変動の再現性能の評価は、海底測地学の分野においても重要な課題である。Otsuka et al. (2023) は気象研究所が開発したMRI.COM-JPNモデル (Sakamoto et al., 2019) の性能評価を、DONETのOBPを用いて南海トラフ沿いの海域を対象に実施した。MRIモデルは、これまでのOBPデータ解析でしばしば用いられてきた稲津モデル(Inazu et al., 2012)が海水層を単層として扱っているのに対して、海水を多層構造として扱っていて水平方向の解像度も2倍以上である。彼らは、10年以上にわたるDONETのOBP記録との比較から、MRIモデルは広い周波数帯域で観測データに類似した海底水圧変動を予測することができることを示した。この新しい海洋モデルを用いた非潮汐海洋変動ノイズの除去を東北沖地震前のOBP観測データに対して適用することで、地震発生に先行した海底上下変動に関して、従来の研究よりも詳細な特徴抽出ができることが期待される。本研究では、東北沖地震の震源域におけるOBPデータのうち、先行研究で顕著な地殻変動現象が観測されるようになった2011年2月以前の記録に注目して、MRIモデルと稲津モデルの2種類のモデルによる非潮汐成分除去性能を比較した。観測データからモデル出力を差し引いて得られる残差時系列のRMS振幅の低減率を求めたところ、稲津モデルが全観測点の平均で26%であったのに対して、MRIモデルでは17%であった。Otsuka et al. (2023)がDONETのデータで同様の評価をした結果では、RMS振幅の低減率は対象とする水圧変動の周波数帯域に依存しており、100日程度より短い周期では稲津モデルを使った残差時系列の方がRMS振幅が小さくなることが示されており、今回の評価結果は日本海溝においても同様の傾向がみられることを示す。一方で、長周期帯域ではMRIモデルの方の再現性が高くなる向上があり、特に大きな長周期変動が観測されている最も海溝軸に近い観測点TJT1では、稲津モデルよりもMRIモデルの出力を差し引くことでこうした長周期変動をより低減することができることが確認された。海溝軸に近いOBPの方が長周期の非潮汐海洋変動成分が卓越していることを、MRIモデルがよく再現できていることを示している。測地学への応用では、長周期帯での再現性が重要である上に、東北沖地震に先行した一連の活動では海溝軸近傍での非地震性すべりが主要な役割を果たしたと考えられることから、新しいMRIモデルを用いた再解析により、東北沖地震に先行した海底地殻変動の特徴について新たな知見を提供できることが期待できる。