13:45 〜 14:00
[S06-02] 岩手県三陸沖におけるDASデータを用いた海域浅部P波速度およびVp/Vs構造推定
近年,光ファイバをセンサとして,歪みを数m間隔で数十km以上の連続長距離観測が行えるDistributed Acoustic Sensing(以下 DAS)が地球科学分野に応用されつつある(e.g., Zhan 2019).地震学的な手法を稠密なDASデータに適用することにより,これまでとは格段に空間分解能が高い地震波速度構造を推定できると考えられる.特に高空間分解能構造決定がこれまで難しかった領域,例えば海域における最上部地殻(深さ10km以浅)のVp/Vsの詳細な2次元構造(ケーブル直下の鉛直+水平2次元構造)などに効果的と思われる.そこで,本研究では,岩手県三陸沖に敷設された光ケーブル式海底地震・津波観測システムを利用したDAS観測記録を用いて,ケーブル下の最上部地殻の詳細な地震波構造を推定した.
まず,2020年に行われた制御地震探査DAS・海底地震計(OBS)データを用いてP波速度構造を推定した.制御震源にはエアガン4基を使用し,発震間隔は約100m,DASの観測点間距離は約5mである.最浅部のP波速度構造はTau-sum inversion法 (e.g. Shinohara et al. 1994) により推定した.DAS記録とOBSに対して共通受信点記録を作成し,それぞれ距離-時間領域からτ(intercept time)-p(ray parameter)領域への変換を行った.DAS記録については,超稠密であることを利用して,隣接する51受信点のDAS記録を重合してτ-p領域変換を行い,1次元P波速度構造を求めた.また,DASデータは長い区間に渡って,連続的に収録されていることから,約250m間隔に1次元P波速度構造を推定し,それらを配置することで,測線下の二次元P波速度構造を作成した(図A).受震点にOBSを用いた場合は,OBS直下の一次元構造に限定されるが,DASは長距離に渡って,観測点密度が飛躍的に高いため,空間的に連続した1次元速度構造を推定することにより,2次元構造を求めることができる.続けて,深部のP波速度構造をOBSとDASによる初動走時を用いて,破線追跡法 (Zelt and Smith 1992) により推定した.DAS記録を破線追跡法に用いることで,波線が大幅に増え,構造推定の空間分解能が向上する.推定されたP波速度構造は,4層からなっており,第1 – 3層目のP波速度の平均値は, それぞれ, 1.73 2.30, 4.40 km/sであり,各層の境界の深さは,それぞれ, 2 km以浅,2 – 4 km,そして2 – 7 kmである(図A).各層のP波速度の水平方向不均質を0.05, 0.8,0.21km/sの精度が把握することができた.また,層厚についても,例えば,第2層は,0.5 km程度から1kmに水平距離50 –55 kmで急増することが把握された.このように,DASデータに対して制御地震探査を適用することで,水平分解能が向上し,堆積層内における水平方向の不均質を明らかにすることができた.
S波速度構造についてはDAS記録に対してSpatial auto-correlation法(SPAC法,Aki 1957, Nakahara et al. 2021)を適用して得られた表面波の位相速度から推定した(Fukushima et al. 2022).S波速度構造にはブートストラップ法により推定した誤差も含めて有意な3つの速度不連続面があり,制御地震探査により推定したP波速度構造と各層厚は整合的である.第 1 – 3層目のS波速度は, 0.44, 0.80, 1.40 km/sである.第4層目のS波速度は2 km/sより大きい.
稠密なDASデータに対して地震学的な手法を適用することによって,従来の海底地震計を用いた構造探査では求めることが難しかった海底下浅部のP波およびS波速度構造を空間分解の数kmで求めることができた.これらの結果から,さらにVp/Vsの詳細な空間分布を推定可能である.そこで,各層ごとのVp/Vs比の空間分布を,S波速度構造の分解能で求めた.第1– 3層目のVp/Vs値は,それぞれ4.27, 2.88, 3.15であった.第1– 3層のVp/Vs値の空間的な標準偏差は,それぞれ,1.28, 0.33,0.40と第2層が最もばらつきが小さい結果になった.第4層については,S波速度は確定していないため,議論しない.第1層は,海岸からの距離55 km以遠において海底からの深さ1.5 km以内はVp/Vs値が6以上であるように,空間的な不均質は強く,Vp/Vs値のばらつきも最も大きい.第1層と第2・3層を比較すると,第2・3層の方がVp/Vsの平均値は低い.また,空間的なVp/Vs値のばらつきも第一層と比較して小さい.第2層と第3層の速度境界は,P波およびS波速度は認識できる一方,ばらつきを考慮するとこれらの層の間ではVp/Vs値に有意な変化はない. 第1–3 層はS波とP波速度,Vp/Vsの値から堆積層であり,第4層は火成岩層から構成されると解釈される.これらの解釈は,これまでの研究と調和的である(e.g., Takahashi et al. 2004, JAMSTEC 2004, Regalla et al 2013).
まず,2020年に行われた制御地震探査DAS・海底地震計(OBS)データを用いてP波速度構造を推定した.制御震源にはエアガン4基を使用し,発震間隔は約100m,DASの観測点間距離は約5mである.最浅部のP波速度構造はTau-sum inversion法 (e.g. Shinohara et al. 1994) により推定した.DAS記録とOBSに対して共通受信点記録を作成し,それぞれ距離-時間領域からτ(intercept time)-p(ray parameter)領域への変換を行った.DAS記録については,超稠密であることを利用して,隣接する51受信点のDAS記録を重合してτ-p領域変換を行い,1次元P波速度構造を求めた.また,DASデータは長い区間に渡って,連続的に収録されていることから,約250m間隔に1次元P波速度構造を推定し,それらを配置することで,測線下の二次元P波速度構造を作成した(図A).受震点にOBSを用いた場合は,OBS直下の一次元構造に限定されるが,DASは長距離に渡って,観測点密度が飛躍的に高いため,空間的に連続した1次元速度構造を推定することにより,2次元構造を求めることができる.続けて,深部のP波速度構造をOBSとDASによる初動走時を用いて,破線追跡法 (Zelt and Smith 1992) により推定した.DAS記録を破線追跡法に用いることで,波線が大幅に増え,構造推定の空間分解能が向上する.推定されたP波速度構造は,4層からなっており,第1 – 3層目のP波速度の平均値は, それぞれ, 1.73 2.30, 4.40 km/sであり,各層の境界の深さは,それぞれ, 2 km以浅,2 – 4 km,そして2 – 7 kmである(図A).各層のP波速度の水平方向不均質を0.05, 0.8,0.21km/sの精度が把握することができた.また,層厚についても,例えば,第2層は,0.5 km程度から1kmに水平距離50 –55 kmで急増することが把握された.このように,DASデータに対して制御地震探査を適用することで,水平分解能が向上し,堆積層内における水平方向の不均質を明らかにすることができた.
S波速度構造についてはDAS記録に対してSpatial auto-correlation法(SPAC法,Aki 1957, Nakahara et al. 2021)を適用して得られた表面波の位相速度から推定した(Fukushima et al. 2022).S波速度構造にはブートストラップ法により推定した誤差も含めて有意な3つの速度不連続面があり,制御地震探査により推定したP波速度構造と各層厚は整合的である.第 1 – 3層目のS波速度は, 0.44, 0.80, 1.40 km/sである.第4層目のS波速度は2 km/sより大きい.
稠密なDASデータに対して地震学的な手法を適用することによって,従来の海底地震計を用いた構造探査では求めることが難しかった海底下浅部のP波およびS波速度構造を空間分解の数kmで求めることができた.これらの結果から,さらにVp/Vsの詳細な空間分布を推定可能である.そこで,各層ごとのVp/Vs比の空間分布を,S波速度構造の分解能で求めた.第1– 3層目のVp/Vs値は,それぞれ4.27, 2.88, 3.15であった.第1– 3層のVp/Vs値の空間的な標準偏差は,それぞれ,1.28, 0.33,0.40と第2層が最もばらつきが小さい結果になった.第4層については,S波速度は確定していないため,議論しない.第1層は,海岸からの距離55 km以遠において海底からの深さ1.5 km以内はVp/Vs値が6以上であるように,空間的な不均質は強く,Vp/Vs値のばらつきも最も大きい.第1層と第2・3層を比較すると,第2・3層の方がVp/Vsの平均値は低い.また,空間的なVp/Vs値のばらつきも第一層と比較して小さい.第2層と第3層の速度境界は,P波およびS波速度は認識できる一方,ばらつきを考慮するとこれらの層の間ではVp/Vs値に有意な変化はない. 第1–3 層はS波とP波速度,Vp/Vsの値から堆積層であり,第4層は火成岩層から構成されると解釈される.これらの解釈は,これまでの研究と調和的である(e.g., Takahashi et al. 2004, JAMSTEC 2004, Regalla et al 2013).