日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S07. 地球及び惑星の内部構造と物性

[S07] PM-2

2023年11月2日(木) 15:00 〜 16:15 D会場 (F204)

座長:大滝 壽樹(産業技術総合研究所)、大林 政行(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

15:15 〜 15:30

[S07-08] 有限周波数トモグラフィによる南米中南部の深部速度構造推定

*近藤 優子1、大林 政行2,1、杉岡 裕子1、塩原 肇3、伊藤 亜妃2、篠原 雅尚3、岩森 光3、木下 正高3、Miller Matthew4、Tassara Carlos5、Ojeda Javier6 (1. 神戸大学、2. 海洋研究開発機構 、3. 東京大学地震研究所、4. Departamento de Geofísica, Universidad de Concepcion、5. Facultad de Ciencias, Universidad de Arturo Prat, Iquique, Chile、6. Departamento de Geofísica, Universidad de Chile, Chile )

南米西縁は、ナスカプレートが南米プレートに東向きに沈み込むプレート収束帯である。ここでは、地球物理学的観測により、スラブが海溝から数百kmに渡り水平に横たわるflat沈み込みや、活発に拡大するチリ海嶺の沈み込みによるスラブウィンドウの発達といった、比較的若く温かい沈み込みに特有のテクトニクスが観察されてきた。近年、南米における地震観測点増加に伴い、大陸スケールの実体波トモグラフィ研究が行われ (Portner et al., 2020; Mohammadzaheri et al.2021)、ナスカスラブとその周囲のマントルの3次元速度異常構造が示された。また、南米最南部では臨時地震観測アレイのデータを用いてチリ三重会合点近傍における強い低速度異常が観察されている(e.g. Russo et al., 2010; Miller et al. 2023)。しかし、これまでに示された異常の範囲は限定的であり、その全体像は未だ明らかでない。そこで本研究では、ナスカスラブの沈み込み史およびスラブウィンドウの全容を議論するために、有限周波数P波走時トモグラフィによって南米中南部の地震波速度構造を推定した。 トモグラフィの入力データにはチリ三重会合点周辺の海底地震計アレイ(Ito et al., 2023)を含む南米周辺の約100点の観測点における広帯域波形データから測定した走時データセットと、International Seismology Centreによる全球走時データセットを使用した。インバージョンにはObayashi et al., 2013による波線理論カーネル(Inoue et al., 1990)と有限周波数カーネル(Hung et al., 2000; Nolet et al., 2000)を組み合わせる手法を用いた。 得られた新しいトモグラフィモデルでは、(1)南緯26–35°のナスカスラブ下側の高速度異常(図1, F1)、(2)チリ三重会合点の東側の上部マントルにおける顕著な低速度異常の存在(図1, S1)が観察された。(1)のナスカスラブ下の高速異常は南北方向約1000kmにわたり、200-900kmの深さ範囲に位置している。数値モデリング計算により一定の角度の沈み込みからflat沈み込みへの移行時にスラブが break-off する可能性(e.g. Liu and Currie, 2016; 2019)が示されており、~1%の強い異常振幅と、現在および過去のflatスラブ区間との空間的な一致から、これは12–13Ma以前に現在のナスカスラブに先行して沈み込んでいたスラブの遺物と解釈された。(2)のチリ三重会合点東側の顕著な低速度異常(図1, S1)は、深さ約150kmにおいて、プレート運動史モデル(Breitsprecher and Thorkelson, 2009)と実体波トモグラフィ(Russo et al., 2010)から推定されたパタゴニアのスラブウィンドウの範囲とよく一致している。火山活動分布と比較すると、スラブの部分溶融に由来するとされるアダカイト火山は低速度異常の南端に並んでおり、3.3Ma以降に形成された台地玄武岩は低速度異常の範囲内に分布している。これらから、低速度異常は拡大するスラブウィンドウを通る局所的なマントル流に起因する可能性が考えられる。さらに、低速度異常の深さ範囲と垂直方向の解像度を考慮すると、上昇流の根は250km付近にあることが示唆される。