日本地震学会2023年度秋季大会

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一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] AM-2

2023年10月31日(火) 11:00 〜 12:15 A会場 (F205+206)

座長:中田 令子(東京大学大学院理学系研究科)、佐藤 大祐(海洋研究開発機構)

12:00 〜 12:15

[S08-10] 南海沈み込み帯における、摩擦運動の相補性に基づいた固着域と高滑り欠損域の分離

*佐藤 大祐1、堀 高峰1、深畑 幸俊2 (1. 海洋研究開発機構、2. 京都大学防災研究所)

地震時・地震間の断層滑りの推定法は、表現定理に基づく滑りインバージョンとして確立されている(Ide, 2007)。一方で、対応する断層摩擦特性の推定は、特定の物理モデルを採用することに由来するモデルエラーがあり、種々の結果は容易には比較できない。本研究では、特定の摩擦則を仮定せずに得られる断層摩擦の情報とは何かを追求する。結果として、物理モデリングでいうアスペリティにあたる、摩擦則本来の意味での固着域を地震間の測地データから直接に推定できることがわかった。この手法を実データに適用し、南海沈み込み帯の固着域と高滑り欠損域を分離する。

解析は、相補性(Smaï & Aochi, 2017)として知られる、摩擦運動の普遍的性質を原理にする。ここで相補性とは、摩擦境界では滑り量か剪断応力のどちらかがほぼ時間一定であることを指す。ゼロ滑り速度と定応力の二相は、いわゆるスティック・スリップにあたり、応力を蓄積する固着時のアスペリティと定常的にクリープする領域の物理的相である。こうして、固着したアスペリティの推定は、特定の摩擦則に依拠することなく、従来研究されてきたスティックスリップモデル(e.g., Bürgmann et al., 2005)のインバージョン解析に帰着する。スティックスリップインバージョンの観測方程式は、所与のスティックスリップのバイナリ変数に対する混合境界値問題(クラック問題)を設定し、これを滑り分布について解き、その滑り分布を表現定理で地表変位に変換するという一連の手続きで計算される(Johnson & Fukuda, 2010; Herman et al., 2020)。同推定は素朴には非線形でかつ不安定であるため、我々はアスペリティ形状を円形パッチの重ね合わせで表し、円の中心・半径・また個数を最適化することでこの逆問題を解いた。そのように解くことで、従来のスティックスリップインバージョンで見られた、粗い離散格子を用いた場合の推定値のグリッド依存性や稠密離散化で生じる解の不安定性(Herman et al., 2020)や、非線形問題における事前情報使用時の客観的超パラメター決定の課題(Johnson & Fukuda, 2010)を回避している。

実データ適用では、GEONETの陸上GNSSデータとYokota et al. (2016)が取得した海域GNSS-Acousticデータを解析した。まず、三次元弾性構造を考慮したHori et al. (2021)のグリーン関数と、グリーン関数の不確定性を確率変数として顕に考慮するYagi & Fukahata (2011)の方法を併用し、従来的な滑り欠損推定を行った。結果、3つの100-200kmの広がりを持つ高滑り欠損域が推定された。これらは、1944年東南海・1946年南海地震の震源域(Baba & Cummins, 2005)、および2018-2019年豊後水道長期スロースリップ域(Seshimo & Yoshioka, 2022)に概ね対応している。次に、上述のスティックスリップインバージョンを実施すると、それら3つの高滑り欠損域に対応する、50-100km幅の3つのアスペリティが検出された。これは、高滑り欠損域は必ずしも固着していないという最近の報告(Herman et al., 2020; Lindsey et al., 2021)と合致するのみならず、低速・高速破壊を生じるアスペリティは地震間においては区別なく固着域であることを示唆している。3つのアスペリティは空間的に明確に分離していることが確認されたが、一方で推定すべり欠損域については1946年南海地震と2018-2019年豊後水道長期スロースリップに対応する2つは重なっていた。南海沈み込み帯の巨大低速・高速地震の摩擦的アスペリティは、定常的クリープ領域によって隔てられてこそいるものの、周囲の滑り遅れを介する互いの弾性作用圏にある。