11:45 〜 12:00
[S08-24] 2021年サウスサンドウィッチ諸島地震における複雑な震源過程
2021年8月12日,英国領サウスサンドウィッチ諸島沖合,サウスサンドウィッチ沈み込み帯の浅い領域で,2021年サウスサンドウッチ諸島(SSI)地震 (MW 8.5) が発生した.サウスサンドウィッチ沈み込み帯では,南米プレートがサンドウィッチプレートへ東南東方向に70–78 mm/yr の速度で沈み込んでいる.この沈み込み帯は構造侵食型に分類されるが,一部には付加体も存在し,海溝軸は東に凸に湾曲している.米国地質調査所(USGS)によると2021年SSI地震発生後4分間にMw 7.5, Mw 8.1, mb 6.7の3つの低角逆断層型の地震が同定されているが,Global CMTプロジェクトの2021年SSI地震の解析結果では300秒の継続時間を持つMW 8.3の一つの低角逆断層型地震のみが同定されている.これらの事実は,2021年SSI地震は複数のサブイベントから構成されており,その破壊継続時間はスケーリング則から予測される値より有意に長いことを示唆する.なお,この地震では東に約7000 km離れたモーリシャス島の観測点で約0.4 m の潮位変化が観測されるなど広い範囲で津波に伴う潮位変化が観測されている.
一般に,継続時間が長い地震を解析する場合,グリーン関数の不確実性が時間と共に増加するため,安定的に震源過程像を得ることは難しい.また,沈み込み帯で発生する複雑な震源過程を理解するためには,スプレー断層や破砕帯などのプレート境界以外の場所で断層すべりが起きている可能性を考慮して解析を行うことが重要である.近年になって,グリーン関数の不確実性の影響をデータに取り入れることで継続時間が長い地震を安定に解析することを実現し,かつ,断層面の形状に関する事前の仮定を排することで,湾曲した断層面や複数の異なった断層面における破壊の推定を可能にするPotency Density Tensor Inversion (PDTI) が提案された.そこで本研究はPDTIを用いて2021年SSI地震の複雑な震源過程を明らかにする.
解析には,IRIS Data Management Centerよりダウンロードした47観測点における遠地実体波P波の上下動成分を使用した.これらの波形は,地震計特性を取り除いた後に1.5秒間隔でリサンプルした.震源域の速度構造はCRUST 1.0のデータを用いて設定し,グリーン関数を計算した.余震分布を参考にして非矩形のモデル面を設定し,各要素震源の深さはSlab2.0によるスラブ表面の深度データを用いた.
ポテンシー密度テンソル分布を時空間で積分することによって得られたモーメントテンソル解は25.2 %の非ダブルカップル成分を含む低角逆断層型を示し,地震モーメントは6.5×1021 Nm (MW 8.5) である.各要素震源のすべり速度を時間方向に積分して得られたポテンシー密度分布は主に震源付近から南に約300 kmの範囲に分布しており,震源から南南東に約140 km地点の,海溝が最も東に張り出している領域周辺にピークを持つ.各要素震源のメカニズム解について,スラブ表面の形状に近い節面のスリップベクトルを求めると,震源から南に向かうにつれて時計回りに回転する傾向が見られる.破壊継続時間は約280秒であり,モーメント速度関数は10個以上のスパイクを有している.震源過程モデルから合成した理論波形は,解析に使用していないデータポイントを含めた観測波形の特徴を再現している.震源付近で開始した破壊は,震源の南に約35 kmの付近で約15秒間,震源の南南東に約150 kmの付近で約75秒間の停滞を伴いながら,南方向へ伝播している.東側の浅い領域において,低角逆断層に対応する節面のスリップベクトルは,海溝軸の湾曲に対応して,海溝軸に直交する方向に時間変化する傾向が見られる.また,傾斜角は海溝軸付近の浅い領域ほど高くなる傾向が見られ,スラブ形状から推定される傾斜角と乖離している.
本発表では,PDTIによって得られた震源過程モデルに基づき,2021年SSI地震における不規則な破壊伝播と海底地形の関係や、スプレー断層の破壊の可能性について議論する.
一般に,継続時間が長い地震を解析する場合,グリーン関数の不確実性が時間と共に増加するため,安定的に震源過程像を得ることは難しい.また,沈み込み帯で発生する複雑な震源過程を理解するためには,スプレー断層や破砕帯などのプレート境界以外の場所で断層すべりが起きている可能性を考慮して解析を行うことが重要である.近年になって,グリーン関数の不確実性の影響をデータに取り入れることで継続時間が長い地震を安定に解析することを実現し,かつ,断層面の形状に関する事前の仮定を排することで,湾曲した断層面や複数の異なった断層面における破壊の推定を可能にするPotency Density Tensor Inversion (PDTI) が提案された.そこで本研究はPDTIを用いて2021年SSI地震の複雑な震源過程を明らかにする.
解析には,IRIS Data Management Centerよりダウンロードした47観測点における遠地実体波P波の上下動成分を使用した.これらの波形は,地震計特性を取り除いた後に1.5秒間隔でリサンプルした.震源域の速度構造はCRUST 1.0のデータを用いて設定し,グリーン関数を計算した.余震分布を参考にして非矩形のモデル面を設定し,各要素震源の深さはSlab2.0によるスラブ表面の深度データを用いた.
ポテンシー密度テンソル分布を時空間で積分することによって得られたモーメントテンソル解は25.2 %の非ダブルカップル成分を含む低角逆断層型を示し,地震モーメントは6.5×1021 Nm (MW 8.5) である.各要素震源のすべり速度を時間方向に積分して得られたポテンシー密度分布は主に震源付近から南に約300 kmの範囲に分布しており,震源から南南東に約140 km地点の,海溝が最も東に張り出している領域周辺にピークを持つ.各要素震源のメカニズム解について,スラブ表面の形状に近い節面のスリップベクトルを求めると,震源から南に向かうにつれて時計回りに回転する傾向が見られる.破壊継続時間は約280秒であり,モーメント速度関数は10個以上のスパイクを有している.震源過程モデルから合成した理論波形は,解析に使用していないデータポイントを含めた観測波形の特徴を再現している.震源付近で開始した破壊は,震源の南に約35 kmの付近で約15秒間,震源の南南東に約150 kmの付近で約75秒間の停滞を伴いながら,南方向へ伝播している.東側の浅い領域において,低角逆断層に対応する節面のスリップベクトルは,海溝軸の湾曲に対応して,海溝軸に直交する方向に時間変化する傾向が見られる.また,傾斜角は海溝軸付近の浅い領域ほど高くなる傾向が見られ,スラブ形状から推定される傾斜角と乖離している.
本発表では,PDTIによって得られた震源過程モデルに基づき,2021年SSI地震における不規則な破壊伝播と海底地形の関係や、スプレー断層の破壊の可能性について議論する.