日本地震学会2023年度秋季大会

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一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] AM-1

2023年11月2日(木) 09:15 〜 10:30 A会場 (F205+206)

座長:熊澤 貴雄(統計数理研究所)、松浦 律子(地震予知総合研究振興会)

10:15 〜 10:30

[S09-13] ETASモデルとAICを用いた群発地震検出手法の開発の試み(序報)

*吉村 嶺1、西川 友章2、西村 卓也2 (1. 京大理、2. 京大防災研)

1. はじめに
明確な本震を伴わない地震発生レートの増加を群発地震と呼ぶ(e.g., Mogi, 1963)。群発地震は,火山活動が活発な地域や沈み込み帯,トランスフォーム断層など,陸海域問わず様々な場所で発生する。群発地震は,地殻流体の移動やスロースリップイベント(SSE)等の過渡的な非地震性現象によって引き起こされるとされ(e.g., Nishikawa & Nishimura, 2023),群発地震の検出は,非地震性現象と地震活動の関係を明らかにする上で重要である。

群発地震の検出手法には,目視による手法や(Holtkamp & Brudzinski, 2011),観測された地震発生レートとEpidemic-type aftershock-sequence (ETAS)モデル(Ogata, 1988)から予測される地震発生レートの大きさの比較に基づく手法などがある(Nishikawa & Ide, 2017; Guo & Zhuang, 2023)。しかし,これらの検出手法には,検出基準の設定が恣意的であるという問題がある。

そこで,本研究は,Okutani & Ide(2011)によって改良された ETASモデル(Ogata, 1988)と赤池情報量規準(AIC; Akaike, 1974)に基づく,新たな群発地震検出手法の開発を試みた。本発表では,その暫定的結果を報告する。

2. 手法・データ
ETASモデルは,ある時刻tの地震発生レート(λ(t))を,定常的な背景地震発生レート(μ)と,大森・宇津の余震則(e.g., Utsu, 1957)に従う余震発生レート(Σti<tKexp(α(Mi-Mc))/(t-ti+c)p)の和で表す。ここで,tiMiは,i番目の地震の発生時刻とマグニチュードである。また,αは余震発生レートのマグニチュード依存性,cは地震発生直後の地震発生レートに関係する時定数,Kは余震発生レートの大きさを決める係数,pは余震発生レートの減衰のべき指数,Mcは最小マグニチュードである。モデルパラメータは,μ, α, c, K, pの5つである。

一方,Okutani & Ide (2011)は,ETASモデルを改良し,群発地震活動を考慮したモデルを作成した。彼らのモデルでは,5つのETASパラメータに,群発地震発生期間中の背景地震発生レートμ1と群発地震の継続時間を表すパラメータ(Tsw)を加えた,7つのパラメータが存在する。背景地震発生レートは,群発地震の発生していない期間ではµ,発生している期間ではμ1としている。また,群発地震活動開始日時Tcp1は,測地観測データに基づきを事前に決定した。

本研究では,Okutani & Ide (2011)による群発地震活動を考慮したモデルにおける群発地震開始日時Tcp1を1日ごとにグリッドサーチを行い,新たなモデルパラメータとした。そして,群発地震を考慮したモデルと,オリジナルのETASモデルのAICの差(ΔAIC)が-2以下になる日付を抽出し,その日付を群発地震発生日とみなした。パラメータの推定には最尤法を用いた。

次に本研究は,SSEに伴う群発地震活動の発生が知られている,相模トラフ房総半島沖を中心とした深さ0〜50kmの領域(北緯34.8°から35.6°,東経139.9°から140.9°)において,試験的な群発地震検出を実施した。解析期間は2000年1月1日〜2010年12月31日の11年間とした。この期間は,2002年10月と2007年8月のSSEに伴う群発地震活動を含む。震源データには気象庁一元化震源カタログを用い,マグニチュード2.0以上の地震を解析に使用した。

3. 結果
解析の結果,ΔAICが-2以下かつ極小値となる日付が19日抽出され,そのうちΔAICが特に大きく減少した日付(-10以下)が4日あった。その4日のうち2日は,2002年と2007年のSSEに伴う群発地震活動に対応した。残り2日は,東京湾と房総半島南東部における狭い範囲で発生した群発地震であった。また,ΔAICが-8程度で,房総半島沖での群発地震に類似した活動も確認された。これら5つの群発地震活動は,いずれもフィリピン海プレート上面のプレート境界面付近で発生した。

本手法は,既知の群発地震活動に対応するΔAICの顕著な減少を検出することができた。これは,本手法の有用性を支持する。また,本手法は,先行研究では報告されていない未知の群発地震活動に対応するΔAICの減少も検出した。これらは,より小規模なSSE(Nishimura, 2021)に伴って発生した地震活動である可能性もある。GNSS等の測地観測データを用いた,さらなる検証が必要である。

謝辞
本研究では気象庁一元化震源を使用しました。記して感謝申し上げます。