日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S10. 活断層・歴史地震

[S10] AM-1

2023年11月2日(木) 09:15 〜 10:30 C会場 (F202)

座長:服部 健太郎(関西大学)、小松原 琢(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

10:00 〜 10:15

[S10-04] 奈良盆地東縁・帯解断層近傍の浅層ボーリングと断層帯の平均変位速度

*小松原 琢1 (1. 産業技術総合研究所 地質情報研究部門平野地質研究グループ)

1. はじめに
 奈良盆地東縁部には、天理断層と帯解断層の2つの活断層が並走する。この断層の変位速度について、堤・他(2021)は帯解断層のみで0.3~0.4mm/年、小松原(2022)は天理断層と帯解断層の全体で、0.2mm/年としており、同時期に行われた調査でありながら見解が異なっていた。その理由は、地質調査所が1996年に実施した奈良盆地東縁断層系調査の一環として行った井戸野基準ボーリングの浅層部について2系統の異なった放射性炭素同位体比年代測定値が報告され[奈良盆地東縁断層系第二次トレンチ調査報告書と地質調査所研究資料288]、上記の2調査がそれぞれ別系統の年代値を採用したことによる。断層の平均変位速度を明らかにすることを目的として、井戸野基準ボーリングNo.2近傍で改めて深度15mのオールコアボーリングを実施し、年代測定・テフラ分析・花粉分析を行った。
2. ボーリング結果
 ボーリングは、帯解断層西側の大和郡山市井戸野(北緯34°38′6.24、東経135°49′0.82、孔口標高TP. 56.72m)で行った。4層準で放射性炭素同位体比年代測定、1層準でテフラ分析、2層準で花粉分析を行い、深度1.50mより11,790±40yBP、同3.30mより23,560±80yBP、同5.73mより28,430±130yBP、同6.55mより30,040±120yBPの放射性炭素同位体比年代測定値を、深度3.68mより屈折率n=1.500-1.502の火山ガラスからなる純層のテフラを、深度7.60mよりコウヤマキ属が優勢次いでコナラ属コナラ亜属を高率に含みコナラ属アカガシ亜属を含む花粉群集を、同14.35mよりマツ属とコナラ属コナラ亜属が優勢でエノキ属/ムクノキ属やコナラ属アカガシ亜属を含む花粉組成を得た。深度9.8~14.2mには風化礫を多く含む玉石まじり礫層が分布する。火山ガラスは屈折率やガラスの形態から姶良Tnテフラに同定できる。また、深度7.60mの花粉組成は最終間氷期後期亜間氷期に対比できる。以上の結果は、地質調査所研究資料288の年代値とは整合しないが、奈良盆地東縁断層系第二次トレンチ調査報告書と合致する。
3. 深度9.8~14.2mの礫層の対比
 本調査の深度9.8~14.2mの礫層は、直上で最終間氷期後期の花粉組成が得られていること、風化礫を多く含むこと、数mの厚さを持つことなどの特徴から、奈良盆地東縁断層帯周辺に広く分布する最終間氷期前期の堆積段丘構成層[文科省・京都大学 (2022)の中位1面構成層]と対比できる。さらに文科省・京都大学(2022)の奈良市今市町群列ボーリングのNo.3およびNo.4の深度5m付近の礫層や、JR奈良駅近傍のNB-1ボーリングの深度5.7~10.4mの礫層に対比される可能性が高い。
4. 奈良盆地東縁断層帯の平均変位速度
 再検討の結果、地質調査所研究資料288の年代値をもとに前述の礫層上面を2.5~3万年と編年して変位速度を算定した堤・他 (2021) の平均変位速度値は過大と解釈される。小松原(2022)の値は、前述の礫層の年代を10~12.5万年として算定しており、奈良盆地東縁断層帯の変位速度値としては、こちらがより妥当と言える。
引用文献
小松原琢、2022、奈良盆地東縁断層帯北部の平均変位速度と最新活動年代。日本地震学会講演予稿集秋季大会、
文科省・京都大学、2022、奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測 令和元~3年度成果報告書。
堤浩之・杉戸信彦・木村治夫・川嶋渉三・森島虎之助・谷口薫・小俣雅志、2021、奈良盆地東縁断層帯の帯解断層と天理断層の活動履歴と変位速度。日本地球惑星科学連合2021年大会講演要旨、SSS10-07。