日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15] PM-2

2023年11月1日(水) 15:15 〜 16:00 D会場 (F204)

座長:平井 敬(兵庫県立大学)

15:15 〜 15:30

[S15-17] 振動実験に基づく展示状態にある刀剣類の地震時挙動の検討

*平井 敬1、手塚 朋子2、高野 美希3、飛田 潤3 (1. 兵庫県立大学、2. 東建コーポレーション、3. 名古屋大学)

地震災害への対策を考えるうえでもっとも優先されるのは人命の保護であるが、人類が長い時間をかけて創造し守り伝えてきた文化財についても、損傷を極力防止しなければならない。これを破損することなく次代へ伝えることが、復興後の地域や国家ひいては人類全体の文化水準の維持と向上に資することになる。
 著者らは、文化財の中でも特に日本刀をはじめとする刀剣類について、その展示状態における地震時の挙動と損傷防止のための方策について検討してきた。多くの場合、刀剣類は刀掛けの上に寝かせる形で展示される。地震時に跳躍、落下、あるいは他の展示物と衝突することにより刃こぼれが、また刀掛けの上で滑動することによりひけ疵(ひっかき傷)が生じるおそれがある。刀剣類は一般的な文化財と異なり、刃物であるためテグス等による固定が不可能であることに加え、個人所有のものが多いため建物の免震化や展示用免震台の調達が費用面で難しいことが多い。それゆえ、安価に実施できる工夫や、刀掛けへの免震機構の組み込みなどが望まれる。これまでに、模造刀を用いた振動実験により、刀掛けの種類や白布の有無による挙動の違い、水平方向の正弦波加振による刀身の滑動の様子、刀掛けと刀身との摩擦係数等を明らかにしてきた [1] [2]。
 本研究では、これまでの検討を踏まえて、3次元の非定常的な地震動に対する刀身の挙動を把握することを目的として、詳細な振動実験を行った。
 図1に実験の様子を示す。試験体となる模造刀の設置条件として、3種類を設定した。写真の左手前側より、(1) 刀掛けの上に白布を介して刀身を載せたもの、(2) 刀掛けの受け部分に簡単なクランプを設置して刀身を固定したもの、および (3) 受け部分にウレタン素材を用いて摩擦係数とクッション性を向上させた展示ケースに刀身を設置したものである。いずれも刀掛けと展示ケースは振動台に固定した。各模造刀の両端に3軸加速度計を設置し、振動台に設置した加速度計との比較から、刀掛けに対する刀身の相対的な動きを測定した。加振内容としては、1995年兵庫県南部地震の神戸海洋気象台での強震記録、2004年新潟県中越地震のK-NET小千谷での強震記録、2016年熊本地震本震のKiK-net益城での地表強震記録、および想定南海トラフ地震による愛知県での地震動を入力した。
 実験の結果、試験体2と3については刀掛けと刀身との相対的な動きはほとんど生じなかった。ただし、試験体3においては、刀身が受けの上で前後方向にわずかに揺れる挙動が見られた。試験体1については、刀身が刀掛けの上で長さ方向に大きく滑動し、ほとんどの加振ケースで最終的に刀身が落下した。一方、刀身の刀掛け上での跳躍や、前後方向に振動して落下する現象は見られなかった。これは、入力した地震動の下向きの加速度が1 Gを超えなかったことと、白布やウレタン素材によるクッション性が作用した結果と考えられる。建物内での展示の場合には上下動よりも水平動が卓越するため、損傷要因となりうる現象としてもっとも発生しやすいのは長さ方向の滑動であることが分かる。
 今後、刀身の動きを力学モデルによって表現し、シミュレーションを援用して地震時の損傷を効果的に防止する方策について検討する。また、本実験での試験体2と3についてはおおむね刀身は無事であったが、これは地動入力に対しての結果であり、建物応答に対しての安全性は不明である。この点も、今後の課題である。

謝辞
本研究の実施にあたり、名城大学の武藤厚教授の御厚意により振動台設備を使用させていただいた。また、刀箱師の中村圭佑氏より展示ケースの試験体を制作、提供いただいた。それぞれ、謝意を表する。

参考文献
[1] 平井敬, 手塚朋子, 高野美希:展示状態の文化財の地震時損傷防止に関する検討 ―日本刀の振動実験―, 日本地震学会2022年秋季大会, C000212 (2022)
[2] 手塚朋子, 平井敬, 高野美希, 山田銀河:日本刀を事例とした文化財の地震時損傷防止対策, 日本ミュージアム・マネージメント学会研究紀要, 27, pp.49-57 (2023)