10:00 AM - 10:15 AM
[S18-04] Developing effective earthquake evacuation drills at an elementary school as an action research
【研究の背景】1995年の阪神・淡路大震災を機に唱えられるようになった防災教育の必要性は,2011年の東日本大震災を経てようやく日本全域の学校現場の関心事となった.特に東日本大震災は数少ない学校管理下での発災であり,岩手県・宮城県・福島県の3県において,幼稚園・小学校・中学校・高校・特別支援学校に在籍していた子供のうち,544名が亡くなり,67名が行方不明となっている(数見,2011).学校現場の判断やその日に至るまでの防災教育のあり方が,あらためて学校に問われるようになった.これを受けて2012年度から文部科学省において策定されている「学校安全の推進に関する計画」は,2022年には第3次計画として一新され,災害時を具体的に想定した実践的な避難訓練の実施をすべての学校に求めるに至っている.
【慣例的な避難訓練】学校における避難訓練は2つの法令において義務付けられている.消防法第8条1項および学校保健安全法第29条2項である.文部科学省が2018年度に全国の学校を対象に行った調査では,当該年度中に防災訓練等を実施した学校は99.8%と,我が国のほとんどすべての学校が行っていることがわかる.ではその中身はどうか.同上の調査報告には,「地域特有の防災課題に応じた避難訓練」を実施している学校は24%に留まっていることが記されている.上述の第三次学校安全推進計画には,科学的には必ず伴うはずの余震が一度も発生しないことや,高確率で起きる停電は想定していないこと,雨天なら順延すること,耐震性のある学校施設が崩壊する前提に立っていること,等について非現実的であるとし,実効的な訓練を実施するよう促している(文部科学省,2022).過去の事例を調べてみると,実際の学校管理下の時間帯での震災では,児童・生徒や教職員に,「腰が抜ける」「転倒して骨折」「過呼吸・嘔吐」「失神」「頭を縫うような大怪我」など,軽微なものから人命に関わる事象まで発生していることがわかった.つまり,学校管理下の時間帯に大地震が起きれば,多くの傷病者が発生することが予測されるにもかかわらず,現行の避難訓練は校庭への集合が目的化し,それに不都合な事実はすべて排除しているような状況である.本来であれば,教職員は,余震や停電の中で,速やかに傷病者を発見し,情報共有を行いながら対応を行っていく必要があるだろう.
【実動訓練の実施とその結果】以上の課題を踏まえ,首都直下地震が学校管理下において発生した場合の課題を洗い出し,その解決策を学校現場と共に作り上げていくことを,アクション・リサーチにおいて試みた.具体的には,1)対象校となる埼玉県内のA小学校の校舎全体を使って,特定日時の発災現場を再現し,教職員に対処してもらう実動訓練を実施し,2)教職員の動きや発話,事後のアンケートやヒアリングを分析して課題を洗い出し,3)現場にフィードバックして今後の防災計画や防災教育を検討していく,という手順である.1)の実動訓練においては,校舎内の棚や本などを発災直後のように乱すことはしないが,児童の実態として想定しうる怪我やパニック症状などは筆者らが所属する研究室の学生が演じることで再現する.また,余震の頻繁な発生は緊急地震速報を不定期に流すことで再現した.2)の分析の結果,どのくらいの重症度のけが人がどこにいるかを,停電を想定した状況下で本部へと情報集約することに困難が見られることがわかった.また,児童の安否確認や応急処置に人員が取られ,保護者役が現れても対応できないことも明らかとなった.本発表では,これらの分析結果を詳報し,より実効的な避難訓練のあり方を提案する.
参考文献
1. 文部科学省(2022).第3次学校安全の推進に関する計画.
2. 数見隆生(2011).子どもの命は守られたのかー東日本大震災と学校防災の教訓ー.かもがわ出版.
【慣例的な避難訓練】学校における避難訓練は2つの法令において義務付けられている.消防法第8条1項および学校保健安全法第29条2項である.文部科学省が2018年度に全国の学校を対象に行った調査では,当該年度中に防災訓練等を実施した学校は99.8%と,我が国のほとんどすべての学校が行っていることがわかる.ではその中身はどうか.同上の調査報告には,「地域特有の防災課題に応じた避難訓練」を実施している学校は24%に留まっていることが記されている.上述の第三次学校安全推進計画には,科学的には必ず伴うはずの余震が一度も発生しないことや,高確率で起きる停電は想定していないこと,雨天なら順延すること,耐震性のある学校施設が崩壊する前提に立っていること,等について非現実的であるとし,実効的な訓練を実施するよう促している(文部科学省,2022).過去の事例を調べてみると,実際の学校管理下の時間帯での震災では,児童・生徒や教職員に,「腰が抜ける」「転倒して骨折」「過呼吸・嘔吐」「失神」「頭を縫うような大怪我」など,軽微なものから人命に関わる事象まで発生していることがわかった.つまり,学校管理下の時間帯に大地震が起きれば,多くの傷病者が発生することが予測されるにもかかわらず,現行の避難訓練は校庭への集合が目的化し,それに不都合な事実はすべて排除しているような状況である.本来であれば,教職員は,余震や停電の中で,速やかに傷病者を発見し,情報共有を行いながら対応を行っていく必要があるだろう.
【実動訓練の実施とその結果】以上の課題を踏まえ,首都直下地震が学校管理下において発生した場合の課題を洗い出し,その解決策を学校現場と共に作り上げていくことを,アクション・リサーチにおいて試みた.具体的には,1)対象校となる埼玉県内のA小学校の校舎全体を使って,特定日時の発災現場を再現し,教職員に対処してもらう実動訓練を実施し,2)教職員の動きや発話,事後のアンケートやヒアリングを分析して課題を洗い出し,3)現場にフィードバックして今後の防災計画や防災教育を検討していく,という手順である.1)の実動訓練においては,校舎内の棚や本などを発災直後のように乱すことはしないが,児童の実態として想定しうる怪我やパニック症状などは筆者らが所属する研究室の学生が演じることで再現する.また,余震の頻繁な発生は緊急地震速報を不定期に流すことで再現した.2)の分析の結果,どのくらいの重症度のけが人がどこにいるかを,停電を想定した状況下で本部へと情報集約することに困難が見られることがわかった.また,児童の安否確認や応急処置に人員が取られ,保護者役が現れても対応できないことも明らかとなった.本発表では,これらの分析結果を詳報し,より実効的な避難訓練のあり方を提案する.
参考文献
1. 文部科学省(2022).第3次学校安全の推進に関する計画.
2. 数見隆生(2011).子どもの命は守られたのかー東日本大震災と学校防災の教訓ー.かもがわ出版.