日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

B会場

特別セッション » S21. 情報科学との融合による地震研究の加速

[S21] AM-2

2023年11月2日(木) 10:45 〜 12:00 B会場 (F201)

座長:矢野 恵佑(統計数理研究所)、田中 優介(東北大学)

11:15 〜 11:30

[S21-06] 機械学習による西南日本のGNSS変位時系列中の短期SSE自動検出の試み

*田中 優介1、加納 将行1 (1. 東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻)

地震学と情報科学の融合による重要な成果の一つが,地震動の高精度かつ自動化された検出である.機械学習を用いて地震波形データから地震動のシグナルを自動検出する手法はこれまでに多数考案され,日々蓄積される膨大な波形データの解析の著しい効率化に貢献している (e.g., Münchmeyer et al., 2022).一方でGNSS時系列等の測地データも近年その量が急速に増加しており,スロースリップイベント (SSE) 等の非定常なシグナルの検出手法の開発が重ねられている (e.g., Okada et al., 2022).しかしながら機械学習を活用した解析は途上であり,多くの手法は多数の処理手順と試行錯誤的な最適化に依存している状況である.また機械学習の活用を試みた一部の研究事例 (e.g., Xue and Freymueller, 2023) も多くは模擬データに依存しており,実データによる学習を介した手法開発はほとんど行われていない.こうした背景に基づき,本研究では西南日本の短期SSEを対象として,地震動検出の一手法であるGPD (Generalized Phase Detection, Ross et al., 2018) をGNSS時系列に応用することを試みた.西南日本はOkada et al. (2022) 等の先行研究でおよそ300近い短期SSEの検出がなされており,最も豊富な検出カタログが確立している地域である.そこで同研究の検出カタログに基づき,短期SSEのシグナルを含むGNSS日座標時系列を抽出して実データによる学習データを作成した.時系列の長さは120エポックで東西・南北成分の2チャンネル,また時間窓の中でのシグナルの位置を変化させることで見かけ上のデータ数を増加させ,約6000個のシグナルありのデータを確保した.同様にイベントを含まない場所・時期の座標時系列を抽出し,ノイズのみのデータを約22000個生成した.季節変動やトレンドの除去といった前処理は一切行わず,シグナルと様々な周期のノイズが混在した状態で,目視では判別が困難なデータとした.これらの単点の座標時系列を入力とし,時系列にSSEのシグナルを含む確率,全てノイズである確率の2個のラベルを出力とした学習を試みた.学習時の正解値は,Okada et al. (2022) でイベントの可能性が高いクラス1と判定されたものについては両者をそれぞれ1.0と0.0,可能性に劣るクラス2については0.5と0.5,ノイズのデータは0.0と1.0とした.元のGPDでは400エポックの波形時系列を入力とし,4層の畳み込みと2層の全結合層で特徴抽出と判定を行う.これに対して本研究での入力は120エポックと短いため,GPDの構造に準拠しつつ2層の畳み込みと2層の全結合層によるモデル構造を採用した.上記の設定で実際に数十エポック程度の学習を試みた.損失関数として交差エントロピーを用い,最適化アルゴリズムにはAdamを使用した.その結果,シグナルとノイズの判定精度は学習用データ・検証用データいずれでも7~8割程度にとどまった.また学習用データと検証用データの分割の仕方によらず判定精度はほぼ一定であるものの,損失関数の値は顕著な低下が見られず,現時点では有効な学習が行えていないと考えられる.本研究で扱うGNSS時系列は傾きを有し,また地震動の立ち上がりのような急な振幅の変化ではなく緩やかなステップ変動を捉えなければならない点など,地震波形と異なる困難性がいくつか考えられる.発表ではデータ量の増加やモデル構造の最適化といったさらなる改良を踏まえ,時系列の特徴抽出の状況やシグナルの判定基準の可視化について詳細を紹介する.その上で,GNSS時系列への機械学習の適用における困難性と課題を議論する.