日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

B会場

特別セッション » S21. 情報科学との融合による地震研究の加速

[S21] AM-2

2023年11月2日(木) 10:45 〜 12:00 B会場 (F201)

座長:矢野 恵佑(統計数理研究所)、田中 優介(東北大学)

11:30 〜 11:45

[S21-07] 日本の活断層や火山の微小変動検出を目的としたInSARデータへの深層学習適用の困難性

*福島 洋1 (1. 東北大学災害科学国際研究所)

Sentinel-1衛星などの高頻度SAR観測データを用いたInSAR時系列解析の隆盛を背景とし、世界では、InSARへの深層学習の適用研究が活発に行われている。適用事例としては、火山変動検出、地すべり・地盤沈下検出、断層すべり検出、大気ノイズ補正などがある。しかし、深層学習の有効性は、データの質や量、および、対象とする現象のシグナルの特性等に依存する。今回、主に活断層や火山周辺における微小な変形を捉えることを想定し、日本においてInSAR解析に深層学習を活用することの困難な条件について整理した。

まず、植生の深い日本では、現在高頻度観測が行われているCバンドやXバンド衛星のデータは都市部でしか使えないという制約がある。このため、現状、1)観測頻度が少ないALOS-2衛星(Lバンド)のみに依存せざるを得ない場合が多い。2)Lバンドデータの利用については、電離圏ノイズが大きいという不利な点もある。3)日本の国土は気候の季節変化や複雑な地形により対流圏ノイズの補正が難しいことが多く、また、4)積雪地域では冬季のデータが使えないのでその分利用可能データが減る。5)活断層周辺の変動を検出しようとする場合、サンアンドレアス断層や北アナトリア断層などに比べて一桁小さい年間数mmの変動速度を目標にしなければならず、しかも、地下深部の動きに対しては地表面上で空間的に滑らかな変形パターンが出現するので、対流圏ノイズと分離がしにくい。最後に、6)主要な変動域が海域にあったり海で挟まれていたりすると(瀬戸内海等)、変動検出が阻害される。

今後、ALOS-4衛星やNISAR衛星の打ち上げにより、不利な条件はある程度緩和されることが期待されるが、条件的に劇的な改善が望めるかは不透明である。深層学習には、従来の手法に比べてInSAR解析結果から地下の変動プロセスをより詳細に抽出できるポテンシャルはあるが、不利な条件のなかでも、いかに解析方法を工夫してそれを実現するかを検討することが必要である。