[S22P-09] 石川県珠洲市トンネル内でのTW-COTDR光ファイバセンシング技術による歪観測(初報)
研究の背景
石川県珠洲市の群発地震活動とそれに伴う地殻変動の観測を目指し、珠洲市内の鉄道トンネル内に基線長90m の光ファイバー歪計と3成分地震計を設置し2022年11月1日より連続的に観測を行ってきた。この光ファイバー歪計では、2023年5月5日に発生したM6.5地震において、320μという、大きな地震時歪変動を観測した。これは90mの基線長に対して2.9cmという大きな変化であり、地震に伴う地殻変動として期待されるものと比べてもかなり大きい。周辺では家屋の倒壊などもみられることから、トンネルの一部構造が地震によってずれたために、このような大きな変動が観測されている可能性が考えられる。そこで、より妥当な地震時地殻変動量の計測を目指し、トンネルの歪を、90mという長い基線長全体で計測するのではなく、TW-COTDRという分布型光ファイバー計測技術を用いてより稠密にトンネルの各所で光ファイバーの歪計測を行い、局部的な構造変化を除いたトンネル全体の地殻変動量を計測することをねらった。
光ファイバーの敷設と計測
分布型光ファイバー計測技術を用いて計測する鉄道トンネル内の光ファイバーケーブルは、光ドロップケーブルと呼ばれる、陸上での光インターネット加入者引き込みに用いられているものと同じ光ファイバーケーブルを用いた。既設の光ファイバー歪計のトンネル南側壁面に展開されている部分では、約1cmの間隔をあけて並行に敷設し、区間での光ファイバー歪計記録と比較が行えるようにした。光ファイバーケーブルは総延長700m程度あったため、光ファイバーケーブルは、光ファイバー歪計が敷設されたトンネル南壁面だけでなく、北壁面バラスト境界部床に全体にバラスト礫およびセメントモルタルを用いて固定するとともに、南壁面バラスト境界部には特に固定せず敷設を行い、設置条件の違いによる観測記録の違いを調べることをねらった。 TW-COTDR光ファイバーセンシング計測はNeubrex社NBX-7033を用い、敷設した領域は、計測装置から30m~267mの範囲であったが、敷設した光ファイバー全体を10cmの空間分解能、約2分30秒に1回のレートで2023/7/26より計測を行い、計測データは計測機器に接続した処理装置で逐次処理した。
計測の結果と初期検討結果
敷設した光ファイバーケーブルの計測データには、各所で外気温の変化・風向の変化や、トンネル内への日射などに伴う光ファイバーの温度変化に伴うと考えられる大きな変化がみられた。トンネル壁面に敷設した光ファイバーケーブルは、敷設したトンネル壁面の温度変化を反映して変動しているものと考えられるが、床面にバラストを被せて固定した光ファイバーと比べて2~3倍程度大きな日変動を示しており、壁面の温度変化が思いのほか大きいことがわかった。一方、床面にバラストを被せず敷設した光ファイバーはより大きな変動を示しており、トンネル壁面は地温と気温の複合的な温度変化の影響下にあるものと考えられる。この温度変化の影響は、各点での気温とのカップリング度合いに応じて様々に変化するため、その影響をこれまでの光ファイバー歪計で試みたように少数の温度計測によって推測することはかなり困難と考えられる。長期的な地殻変動を計測するためには、温度変化の影響を観測データから十分に除去することが必要であるが、そのためには、歪変化に応答せず、温度変動のみに応答する観測データが必要であると考えられる。そのため、10月より、既設の光ファイバー歪計の観測2成分のうち1成分を温度変動のみに応答するものに取り換え、壁面温度の影響を補正した観測を行うことを計画している。同時に、TW-COTDRによる光ファイバーセンシングによる計測においても、今後、同じ方法によって壁面温度と歪の影響を分離した観測を行うことを計画している。本TW-COTDR計測の主目的である、地震に伴う地殻歪変動の観測については、これまでのところ、5/5に発生したような大きな地震は発生していないが、7/30には深さ約10kmでM3.2、最大震度3を記録した地震の前後のTW-COTDR歪計測記録が得られており、今後、詳細な解析を行う。
謝辞
本研究では、観測の実施にあたり中川潤(京大防災研)、松尾凌、船曵祐輝(京大理)諸氏のご協力をいただきました。また、
本研究は、科学研究補助金23K17482, 21H05204および「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の助成を受けました。
石川県珠洲市の群発地震活動とそれに伴う地殻変動の観測を目指し、珠洲市内の鉄道トンネル内に基線長90m の光ファイバー歪計と3成分地震計を設置し2022年11月1日より連続的に観測を行ってきた。この光ファイバー歪計では、2023年5月5日に発生したM6.5地震において、320μという、大きな地震時歪変動を観測した。これは90mの基線長に対して2.9cmという大きな変化であり、地震に伴う地殻変動として期待されるものと比べてもかなり大きい。周辺では家屋の倒壊などもみられることから、トンネルの一部構造が地震によってずれたために、このような大きな変動が観測されている可能性が考えられる。そこで、より妥当な地震時地殻変動量の計測を目指し、トンネルの歪を、90mという長い基線長全体で計測するのではなく、TW-COTDRという分布型光ファイバー計測技術を用いてより稠密にトンネルの各所で光ファイバーの歪計測を行い、局部的な構造変化を除いたトンネル全体の地殻変動量を計測することをねらった。
光ファイバーの敷設と計測
分布型光ファイバー計測技術を用いて計測する鉄道トンネル内の光ファイバーケーブルは、光ドロップケーブルと呼ばれる、陸上での光インターネット加入者引き込みに用いられているものと同じ光ファイバーケーブルを用いた。既設の光ファイバー歪計のトンネル南側壁面に展開されている部分では、約1cmの間隔をあけて並行に敷設し、区間での光ファイバー歪計記録と比較が行えるようにした。光ファイバーケーブルは総延長700m程度あったため、光ファイバーケーブルは、光ファイバー歪計が敷設されたトンネル南壁面だけでなく、北壁面バラスト境界部床に全体にバラスト礫およびセメントモルタルを用いて固定するとともに、南壁面バラスト境界部には特に固定せず敷設を行い、設置条件の違いによる観測記録の違いを調べることをねらった。 TW-COTDR光ファイバーセンシング計測はNeubrex社NBX-7033を用い、敷設した領域は、計測装置から30m~267mの範囲であったが、敷設した光ファイバー全体を10cmの空間分解能、約2分30秒に1回のレートで2023/7/26より計測を行い、計測データは計測機器に接続した処理装置で逐次処理した。
計測の結果と初期検討結果
敷設した光ファイバーケーブルの計測データには、各所で外気温の変化・風向の変化や、トンネル内への日射などに伴う光ファイバーの温度変化に伴うと考えられる大きな変化がみられた。トンネル壁面に敷設した光ファイバーケーブルは、敷設したトンネル壁面の温度変化を反映して変動しているものと考えられるが、床面にバラストを被せて固定した光ファイバーと比べて2~3倍程度大きな日変動を示しており、壁面の温度変化が思いのほか大きいことがわかった。一方、床面にバラストを被せず敷設した光ファイバーはより大きな変動を示しており、トンネル壁面は地温と気温の複合的な温度変化の影響下にあるものと考えられる。この温度変化の影響は、各点での気温とのカップリング度合いに応じて様々に変化するため、その影響をこれまでの光ファイバー歪計で試みたように少数の温度計測によって推測することはかなり困難と考えられる。長期的な地殻変動を計測するためには、温度変化の影響を観測データから十分に除去することが必要であるが、そのためには、歪変化に応答せず、温度変動のみに応答する観測データが必要であると考えられる。そのため、10月より、既設の光ファイバー歪計の観測2成分のうち1成分を温度変動のみに応答するものに取り換え、壁面温度の影響を補正した観測を行うことを計画している。同時に、TW-COTDRによる光ファイバーセンシングによる計測においても、今後、同じ方法によって壁面温度と歪の影響を分離した観測を行うことを計画している。本TW-COTDR計測の主目的である、地震に伴う地殻歪変動の観測については、これまでのところ、5/5に発生したような大きな地震は発生していないが、7/30には深さ約10kmでM3.2、最大震度3を記録した地震の前後のTW-COTDR歪計測記録が得られており、今後、詳細な解析を行う。
謝辞
本研究では、観測の実施にあたり中川潤(京大防災研)、松尾凌、船曵祐輝(京大理)諸氏のご協力をいただきました。また、
本研究は、科学研究補助金23K17482, 21H05204および「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の助成を受けました。