日本教育心理学会第61回総会

講演情報

自主企画シンポジウム

[JA01] JA01
学校規模のポジティブ行動支援(SW-PBS/PBIS)の普及と継続性に必要なこと

誰のための,何を目的とした実践か

2019年9月14日(土) 10:00 〜 12:00 3号館 2階 (3203)

企画・司会:大対香奈子(近畿大学)
話題提供:野田航(大阪教育大学)
話題提供:大久保賢一#(畿央大学)
話題提供:庭山和貴(大阪教育大学)
話題提供:田中善大(大阪樟蔭女子大学)
指定討論:藤枝静暁(埼玉学園大学)

[JA01] 学校規模のポジティブ行動支援(SW-PBS/PBIS)の普及と継続性に必要なこと

誰のための,何を目的とした実践か

大対香奈子1, 野田航2, 大久保賢一#3, 庭山和貴4, 田中善大5, 藤枝静暁6 (1.近畿大学, 2.大阪教育大学, 3.畿央大学, 4.大阪教育大学, 5.大阪樟蔭女子大学, 6.埼玉学園大学)

キーワード:学校規模のポジティブ行動支援、実践の普及、実践の継続性

企画趣旨
大対香奈子
 学校現場で見られる問題行動に対しては,注意や叱責,あるいは重大な案件の場合には懲罰・懲戒といった対応が取られることが多いが,このような罰的対応には教育的効果は小さく,むしろ攻撃行動を引き出したり,望ましい行動までを抑制してしまうなどの副次効果があることが分かっている(吉野, 2015)。このような嫌悪的な対応に代わって,最近注目されているのがポジティブ行動支援(Positive Behavior Support; PBS)である。PBSは個人の生活の質を向上し問題行動を最小化することを目的として,教育的方法により行動レパートリーを拡大し,生活環境を再構築するシステム改善を行う支援モデルである(Carr et al., 2002)。また,予防的観点から学校規模で全児童生徒を対象にPBSを適用する学校規模のポジティブ行動支援(School-Wide Positive Behavior Support/ Positive Behavioral Interventions and Supports; SW-PBS/PBIS)がアメリカでは急速に広がっており,現在26,316校で実施されている。
 一方日本においては,2010年に石黒によって中学校に適用した事例が報告されて以降,いくつか実践が行われているもののまだその数は少ないのが現状である。しかし,SWPBSに対する注目度は高く急速に広がりつつあり,今後その加速度は増していくと考えられる。本シンポジウムでは,そんな今だからこそ今後のSWPBSの普及の在り方について考えたい。各話題提供者からは,それぞれが関係しているSWPBSの実践がどのような普及の形態をとっているか,またそれぞれの普及モデルにおける課題や実践の継続性のために必要なことは何かを呈示していただく。指定討論では学校現場でSSTの実践と普及に取り組んでおられる藤枝静暁先生より,SWPBSとはまた異なる視点からのご示唆をいただきたい。

話題提供1
SWPBSの継続を含めた普及を考える
野田 航
 日本においてSWPBSに対する注目が集まり,実践活動の報告も増加してきているが,SWPBSを導入して数年間継続して取り組んでいる実践事例の報告は非常に少ない。積極的に普及を進めていったとしても,その取り組みに継続性がなければ単なるブームとして終わってしまうだろう。どのようにすれば実践が継続できるのかを抜きにした普及モデルは“教育改革の生と死のサイクル(Lathan, 1988)”に表されるように,数年で関心のレベルが低下してしまい幅広く普及するまでには至らない。最初から継続性を含めた普及モデルについて検討していくことが重要である。
 本話題提供では最初に,米国の研究から,実践の継続性に影響する要因について整理する。例えば,McIntosh et al.(2013)では,学校レベルの要因としてデータをチームで活用すること,地域レベルの要因としては能力形成(capacity building)が有意な予測因子とされている。Mathews et al.(2014)では3年後の実践継続には教室レベルでの実行の忠実性が有意な予測因子となることが明らかとなっている。その後,3年間SWPBSを継続してきた日本の小学校の事例を報告し,事例から見えてくる実践継続の可能性と課題について検討する。当該小学校では,主にSWPBSの第一層支援をデータを測定しながら継続して実施してきている。教育委員会や外部専門家(大学教員)との協働,データの活用,ニーズアセスメント,校内チームなどの要因から3年間実践を継続できた要因について検討し,継続を含めた普及モデルについて考えたい。

話題提供2
徳島県におけるSWPBSの実践と展開
大久保賢一
 徳島県においては2015年度から,著者を含む研究者チームが,教育行政や学校と連携して実践と研究に取り組んできた。2015年度は,ある1つの小学校において個別的な行動支援のニーズが高く,教師から支援要請のあったいくつかの事例に対して行動コンサルテーションを実施し,行動記録に基づく具体的な成果が確認された。この成果が校内研修や校内事例検討会などを通して,学校全体に共有され,同様の取り組みを校内の全ての教職員によって,全ての児童を対象として実施しようとする気運が高まり,SWPBSを実施する土台となった。
 2016年度と2017年度はその小学校において,全校児童を対象としたSWPBSを実施した。児童の変容を直接観察と評価尺度(School Liking and Avoidance Questionnaire :SLAQ,The Strengths and Difficulties Questionnaire:SDQ)によって評価した結果,授業準備,課題従事,社会的スキル,学校適応感などにおいて改善が認められた。さらに2018年度は,この成果に基づき,自治体全体(4小学校)でSWPBSに取り組むことになり,2016年度と2017年度とほぼ同様の成果が得られた。今回の話題提供ではその具体的な進め方や手続き,そして成果について報告する。
 また,徳島県では「徳島県教育振興計画(第3期)」において,2022年度までに県内の全ての幼稚園,小学校,中学校でPBSを実施するという計画が明記されている。複数の自治体にまたがり,合計300を超える学校に対して一定のfidelity(介入の忠実性)を担保しつつPBSを普及させていくことは明らかに困難な課題ではあるが,一方で検討を重ねるべき重要な課題でもある。今回の話題提供においては,学校においてSWPBSが効果的であるための条件について検討を行うとともに,ポジティブ行動支援を幅広く拡大・普及させていく際に必要な条件についても整理していきたいと考えている。

話題提供3
SWPBSの普及と継続を支える研修・データシステムについて考える
庭山和貴
 SWPBS (PBIS) が広く普及してきている米国では,多くの州で,学校外部からSWPBSの導入・定着を支える外部コーチと,学校内でSWPBSを推進する内部コーチ(推進リーダー)を戦略的に養成している。SWPBSの普及を進めるには,各教員が効果的な行動支援を実践できるよう促し,さらにその実践の継続を支えるための専門性を持った,このような人材の育成が必要である。日本においても,今後さらにSWPBSを一定以上のfidelity (介入の忠実性) を保った状態で普及させ,教員や児童生徒にとって価値ある成果を生み出していくためには,教育委員会と連携した研修システムの確立が必要だと考えられる。
 さらに研修システムに加えて必要とされるのが,学校内における児童生徒の行動データ収集システムである。データをチームで共有して活用することが,SWPBSの継続性の予測因子であること (McIntosh et al., 2013),また児童生徒や教員にとって本当に価値ある成果を生み出すような実践であるのかどうか検証し続ける意味でも,一人ひとりの児童生徒の行動面のプログレスモニタリングを可能とするデータ取集システムが必要である。
 本話題提供では,このような研修システムおよびデータシステムの例として,大学と教育委員会が連携して実施したA市研修事業について報告する。A市研修事業では,SWPBSを始めとしたエビデンスに基づく学校規模の教育実践を教育現場に導入し,さらにその成果に関するデータ収集システムを活用するための教員研修プログラムを開発・実施した。その結果,研修受講者の教員が中心となって,SWPBSに取り組み始めた学校が複数校あり,生徒指導上の問題発生数の減少や,Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ) の改善などが見られている。本話題提供では,既存の資源をどのように活用すれば,このような研修事業やデータシステムの普及をさらに拡大していけるのか論じるとともに,日本におけるSWPBSの成果指標として何が妥当かについても検討したい。

話題提供4
特別支援学校におけるSWPBSの展開―データに基づく意思決定システムの開発―
田中善大
 学校規模のポジティブ行動支援(SWPBS)を効果的に実施するためには,児童生徒のデータをもとに支援に関する意思決定を行う必要がある(McIntosh et al., 2010)。本話題提供では,特別支援学校の学部規模でのポジティブ行動支援のためのデータに基づく意思決定システムの開発について発表する。発表では,2校の特別支援学校(A校,B校)で実施したデータに基づく意思決定のための枠組み(事例検討)とその効果について検討する。
 A校では,小学部の全児童(第1層)を対象としてデータ収集を行い,データに基づく事例検討を実施した。全児童を対象に収集したデータは,朝の活動(登校時の準備など)に関するものであった(田中, 2018)。A支援学校の小学部では,朝の活動は小学部全体で共通しており,活動の際に多くの児童が絵カードなどによるスケジュールを使用していた。朝の活動は,取り組む行動と一部の支援方法(スケジュールの使用)が学部でおおむね共有されており,小学部全体のポジティブ行動支援の実践を行うための素地があった。そのため,朝の活動について,課題分析(複雑な行動を要素となっている下位行動にわける)に基づく記録を全児童対象に実施し,そこから各児童について課題となる標的行動(下位行動)を決定した。全教員が,各標的行動に関して同様の形式でデータ収集を行い,定期的にデータに基づく事例検討を実施した。事例検討の枠組みは,データを活用し,短時間で効率的に進める方法をA校の教員が中心となって開発した。
 B校では,中学部の全児童(第1層)を対象とした事例検討と登校支援の対象児(第3層)を対象とした事例検討を実施した。どちらも生徒に関するデータの収集を行ったが,特に登校支援については,日々の登校時間のデータを収集し,事例検討では,このデータを活用して情報共有や支援方法に関する話し合いを行った。ここでも,事例検討の枠組みは,データを活用し,短時間で効率的に進める方法をB校の教員が中心となって開発した。
 2つの特別支援学校でのデータに基づく意思決定のための枠組みとその効果について検討し,特別支援学校において,全児童生徒に対して全教員が効率的で効果的に支援を実施するためのデータに基づく意思決定システムについて考察する。