日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

2019年9月16日(月) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH53] 高校生に向けたストレスマネジメント教育(SME)実践研究の現状

2000年以降に行われたSME実践研究から

日下虎太朗1, 橋本創一2, 三浦巧也3, 杉岡千宏4, 廣野政人5 (1.東京学芸大学大学院, 2.東京学芸大学, 3.東京農工大学, 4.東京学芸大学大学院, 5.東京学芸大学大学院)

キーワード:ストレスマネジメント教育、高校生、ストレス

問題と目的
 平成29年度の文部科学省の調査 (文部科学省, 2019) によると,高校生の問題行動・学校不適応は依然として深刻な状況にある。 これらの背後にはストレスや感情制御などの心理的な要因が潜んでいると考えられている (岡田, 2002)。 このような問題に対して, 開発的・予防的な効果を期待して行われる取り組みとして代表的なものに「ストレス・マネジメント教育 (Stress Management Education:以下SME)」がある。 SMEは生徒の心理的な問題に直結する「ストレス」を適切にコントロールする力を養うことを目的とした取り組みであるが。 岡安 (2008) は, 高校生に対するSMEや学校ストレスに関する実証研究が十分に進展していないことを指摘している。  この指摘から10年が経ち, 高校生を対象としたSME実践研究はある程度蓄積されてきたが, それらを包括的に評価し, 内容や効果, 実践上・研究上の課題等を検討している論文は見当たらない。 実用的なSMEプログラムを提供していくためには, これまで行われてきた実践で得られた知見を集約することは不可欠である。
 そこで本研究は「高校生を対象としたSME実践研究を集約することによって, SMEプログラム開発の視座を得ること」を目的とする。

方  法
調査対象:2000-2017年に学会誌, 大学紀要等に掲載された論文で, 高校生を対象にストレス耐性の向上あるいはストレス反応の低減を目的とした実践研究。
調査時期:2018年3月。
調査方法:論文データベース・サービスCiNii (Citation Information by NII; 国立情報学研究所) を用い, 調査対象論文を抽出した。 データベースでの検索語句を「高校生 ストレス」, 「高校生 ストレス・マネジメント」, あるいは「高校生 心理教育」と設定し, 出版年を2000-2017年として論文を検索した。 この中から, 学会誌, 大学紀要等の掲載論文で,本研究に合致するものを対象とした。 また, 検索結果に示されなかったが, 対象論文に引用されていた論文からも該当する論文を加えることとした。
分析の視点:抽出された実践を, 「実践内容と方法」, 「実践効果と課題」の視点から整理する。 また, 1編の論文中に複数の実践がある場合, それぞれについて整理する。

結  果
 最終的に18編21実践を分析対象とした。 鈴木 (2004) は, 介入の種類について「考え方への介入」, 「コーピングへの介入」, 「ストレス反応への介入」の3つに整理している。 21の実践のうち, 「考え方への介入」を扱ったものは11件 (52.4%), 「コーピングへの介入」を扱ったものは6件 (28.6%), 「ストレス反応への介入」を扱ったものは10件 (47.6%)であった。 SMEプログラムの実施者については, 「大学教員」:2件 (9.5%), 「大学院生」:7件 (33.3%), 「SC」:5件 (23.8%), 「養護教諭」:1件 (4.8%), 「教員」:5件 (23.8%), 「生徒」:2件 (9.5%), 「不明(論文中に特に記述がなかったもの)」:3件 (14.3%)であった。 実施回数は, 10回以上の実践は嶋田・五十川 (2012) の35回, 上原・山中 (2013) の16回の2件, 5回以上10回未満の実践は6件 (福田・松岡, 2005 ; 黒川ら, 2005;増田ら, 2007;中村・竹鼻, 2008;堤, 2013;小早川, 2016), 残りの10件は4回以下の実践であった。 21実践中, 効果測定が行われたのは17件 (81%) で, その全てで事前および事後に測定を行なっていた。 フォローアップ時期まで測定したものは8件 (38.1%) あった。 また, 統制群を設定したものは10件 (47.6%) であった。 主な結果としては, ストレス反応の低減をあげたのは10件 (吉川, 2004;福田・松岡, 2005;奥澤ら, 2011;小澤, 2011;山口・窪田, 2011;井上, 2012;堤, 2013;上原・山中, 2013;谷口, 2014;堤, 2015), コーピングの質的変化をあげたものは6件 (吉川, 2004;黒川ら, 2011;増田・内田, 2007;森ら, 2012;嶋田・五十川, 2005;谷口, 2014) あり, その他ストレスマネジメント自己効力感の増加 (中村・竹鼻, 2008), 情緒的安定 (奥澤ら, 2011) などがあげている。 実践上の課題として, 「中・長期的な効果検証の必要性」を挙げたのが7件 (33.3%), 「日常場面への般化等の定着の問題」を挙げたのが3件 (14.3%), 「統制群設定の必要性」を挙げたのが6件 (28.6%), 「内容の洗練」を挙げたのが9件 (42.9%), 「その他」10件 (47.6%)であった。

考  察
 介入の種類としては, コーピングの種類を増やしたりコーピングの使い方を検討したりするような「コーピングへの介入」を目指した実践は, 「ストレス反応の低減」や「考え方の変容」を目指した実践に比べて, 少なかった。 高校生は小・中学生と比べてそれまでの経験からある程度の自分なりのコーピングを獲得しているものと思われる。 したがって, それらをシェアすることを通してコーピングの種類を増やしたり, 獲得しているコーピングの質や使い方について再検討する機会を与えたりする「ピア・サポート」的なアプローチを取り入れたプログラムも有効ではないかと考えられるが, そのような実践はみられなかった。生徒の現在持っているコーピングレパートリーを拡充することを目的としたワークを取り入れていくことも有効ではないだろうか。実施者については, 実施のしやすさ・内容の正確な理解の観点から, 専門家と学級担任によるティームティーチング (TT) の形が望ましいだろう。 回数については, 3~4回のプログラムと, SHR等の短時間でできるワークを組み合わせた形が望ましいだろう。評価については, ストレッサーやストレス反応など, ストレスの程度を測るものと, ストレスマネジメント自己効力感を測るものに加えて, 自由記述により生徒の内面の変化を評価していく視点が必要であろう。 今後は, ここで得られた知見をもとにプログラムの素案をつくり, 実践対象となる生徒や担任のニーズも踏まえながら, 内容を洗練させ, 実践・効果検証をしていく必要がある。