日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS02] Seismological advances in the ocean

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.13

コンビーナ:悪原 岳(東京大学地震研究所)、利根川 貴志(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:30

[SSS02-P03] 地震波干渉法によるレイリー波の楕円率を用いた海底堆積層の鉛直異方性を含む速度構造の推定

*福島 駿1、蓬田 清1 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻地球惑星ダイナミクス分野地震学研究室)


キーワード:レイリー波:楕円率、地震波干渉法

近年,DONETやS-netなどの海底地震計技術の発達により,地震波干渉法による海域での地殻浅部の地震波速度構造の高解像度推定が可能となりつつある。沈み込み帯におけるプレートの折り曲がりにより生じるクラックや間隙水の移動に伴い,速度構造や鉛直異方性 (Transverse isotropic medium, VTI ) が大きく変動すると考えられ,これらのデータから時空間変化の検出の可能性もある.表面波の波形記録から地球表層の速度構造を推定する場合,伝搬する2点間の位相速度や群速度の分散が通常用いられるが,レイリー波の鉛直・水平振幅の比(V/H)からも観測点直下付近の地震波速度構造を推定できることが知られている(e.g., Lin et al., 2014).本研究では,海域における鉛直異方性も考慮した浅部速度構造推定を行うために, 以下のような研究を行った:
従来の楕円率を用いた速度構造推定では等方性媒質を仮定した楕円率の感度カーネル (Tsuboi & Saito, 1983 ; Tanimoto & Tsuboi, 2009)が用いられてきた.本研究では,変分原理と相反定理を用いて,VTIを考慮した楕円率の感度カーネルの定式化を行った.さらに,海を除いたPREM (Dziewonski & Anderson, 1981) について,このカーネルを具体的に求めた.その結果,等方性媒質で小さい,P波速度の感度カーネルが,鉛直異方性媒質ではPH波速度とPV波速度の感度カーネルに分離される.等方性媒質のP波速度の感度カーネルは、鉛直異方性媒質におけるPV波速度とPH波速度の感度カーネルの足し合わせになる.PV波速度とPH波速度は逆符号の感度を持つため、打ち消して小さくなる等方性媒質でのP波速度の感度カーネルがVTIでは大きいことがわかった。浅部速度構造を推定するために,2017年1月から1年間のS-netサブアレイS3で観測されたデータに対して,地震波干渉法による表面波の抽出を行い,その楕円率の測定を行った.S-netの観測点はケーブルに固定されているため,観測される3成分波形は上下・東西・南北成分(E, N, U)とは必ずしも一致しない.そこで,Takagi et al., (2019) の手法により,元の3成分波形からE, N, U成分波形へと補正した.次に,Takagi et al., (2020)の手法に基づきS-net観測機器ノイズを取り除いた.さらに,100Hzから4Hzにダウンサンプリングを行い,2秒から40秒のバンドパスフィルターを適用し,最後に1bit化処理を行なった(e.g., Bensen et al., 2007).その結果,群速度 0.2-0.3 km/sで伝搬する表面波の抽出に成功した (Fig.1).この非常に遅い波は,堆積層中のS-波速度が海水中のP波速度(1.5km/s)よりも遅い場合に,堆積層と海水の境界を伝搬するScholte wavesと呼ばれる波に対応する.Scholte waves の楕円率を測定するために,経験的に設定した群速度時間窓を適用し,全ての観測点においてvertical方向とradial方向の振幅スペクトルの比をV/H値として求めた.最後に,V/Hデータの平均値に対して,Simulated Annealing (SA) algorithm (e.g., Goffe, 1994) を用いて非線形インバージョンを行い,浅部速度構造を求めた.だだし,PH波速度は感度カーネルがPVとSV波速度よりも小さいため,本研究では,PV波速度とSV波速度のみ推定した(FIg.2).推定した浅部堆積層のSV波速度は,Scholte wavesが伝搬する条件(<1.5 km/s)であることが確認された.
異なる観測期間で同様な計算を行えば,堆積層中の地震波速度の時空間変動が将来求められると考える.