第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防6

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:室井宏育(総合南東北病院リハビリテーション科)

生活環境支援 ポスター

[0261] 椎体骨折の既往を有する高齢者に対する転倒予測指標としてのTen Step Testの応用可能性の検討

加藤丈博1, 竹本利絵子1, 山田友里江1, 尾山勝正1, 小林孝彰1, 光本貴雅1, 大場俊宏1, 矢吹文香1, 斎藤圭介2 (1.医療法人誠和会倉敷紀念病院, 2.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科)

キーワード:椎体骨折, 転倒予測, Ten Step Test

【はじめに,目的】
椎体骨折は骨粗鬆症に起因する骨折で最も頻度が高く,日本人女性の70歳代の有病率は約30%とされている。椎体骨折の原因の殆どは転倒であり,椎体骨折を生じると再転倒しやすく再骨折も多く,転倒をいかに防ぐのかが重要である。一般的に,転倒予測に関する評価尺度としてはTimed Up and Go test(TUG)や片脚立位時間などが用いられ,予測精度や信頼性・妥当性が検証されている。しかし椎体骨折を有する高齢者を対象とした研究は殆どみられない。また椎体骨折既往者は,一般の高齢者と比較して起居移動時や階段昇降時に後方へ転倒することが多く,転倒を回避するための動的バランス,特にステップ動作の低下が要因の一つではないかと考えられている。本研究では,椎体骨折を有する高齢者の再転倒を予防するための基礎的検討として,特にステップ動作課題を用いたパフォーマンスメジャーとして宮本らのTen Step Test(TST),DiteらのFour Square Step Test(FSST)を取り上げ,転倒歴に対する感度と特異度の側面から転倒予測指標としての応用可能性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,岡山県内一カ所の医療法人における通所リハビリテーション利用者で,椎体骨折の既往を有する者のうち,脳卒中など重篤な身体障害を引き起こす疾患を有さず屋内歩行可能な者30名(年齢84.7±5.6歳,男性8名,女性22名)とした。調査項目は,基本属性・医学的属性,転倒歴,パフォーマンスメジャーで構成した。パフォーマンスメジャーに関してはTSTとFSSTに加え,転倒予測指標として普及している代表的指標としてTUGと片脚立位時間を取り上げた。測定は2回実施し良い方の値を採用した。統計処理に関しては,過去3ヶ月以内の転倒歴から「転倒あり群」「転倒なし群」の2群に分け状態変数とし,4つの指標を検定変数としてそれぞれのReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線から曲線下面積(ROC-AUC),感度,特異度を求めた。さらに診断指標としての有用性を表すために,陽性尤度比と陰性尤度比を算出した。カットオフ値はYouden Indexにより算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
病院の倫理審査を経ると共に,対象患者よりデータ使用の書面による同意を得て行った。
【結果】
過去3ヶ月以内の転倒歴を状態変数として得られたROC-AUCは,TUG0.50,左片脚立位0.57,右片脚立位0.56,TST0.61,FSST0.46と統計的に有意であった。感度・特異度は,TUG85.7%・25.0%,左片脚立位85.7%・45.0%,右片脚立位85.7%・45.0%,TST85.7%・55.0%,FSST85.7%・30.0%で,感度は各指標で同程度なのに対し,特異度はステップ動作課題であるTSTが最も高い値を示した。なお陽性尤度比はTUG1.14,左片脚立位1.56,右片脚立位1.56,TST1.90,FSST1.22,陰性尤度比はTUG0.57,左片脚立位0.32,右片脚立位0.32,TST0.26,FSST0.48であった。カットオフ値は,TUG11.7秒,左片脚立位4.6秒,右片脚立位5.0秒,TST14.7秒,FSST11.6秒であった。
【考察】
本研究において,感度は4つの指標とも85.7%であったが,特異度はTSTで55.0%と他指標よりも高い結果であった。陽性尤度比は高値である程検査が有用とされ,10以上で確定診断に用いられる。本研究で取り上げた指標は1.14から1.90でどの指標も低値を示したが,TSTは他の3指標よりも高値を示した。一方,陰性尤度比はより低値な程検査が有効とされ,TSTは0.26と最も低値を示した。TSTは10cmの台に足を交互に乗せるステップ課題であり,敏捷性の評価を狙いとしているが,その内容は前後方向への重心移動の要素も含んでいると考えられる。椎体骨折既往者には脊柱の変形を伴う場合も多く,後方への転倒リスクが高い。後方への重心移動の要素を含んだTSTは評価指標として椎体骨折の疾患特性を反映していると考えられる。一方,FSSTは十字に並べた棒を前・横・後と順番に跨いで移動するテストで,TSTと同じく後方への重心移動の要素をもつテストであるが,今回は低い結果となった。その理由として,FSSTは前・横・後3方向の重心移動の要素をもつため他のテストに比べて課題の難易度が高いことや,棒を跨ぎながら連続して移動するということで注意・認知面の要素も影響したのではないかと考える。
本研究において,椎体骨折の既往を有する高齢者に対する転倒予測指標としてTSTを普及させる程の知見は得られなかったものの,対象数の蓄積や前方視的検討を通じて有用な転倒予測指標となりうる可能性を示唆するものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
一般的な転倒予測指標としてTUGや片脚立位が普及しているが,再転倒が多い椎体骨折既往者において予測精度の高い指標を見いだせたことは,当該疾患の転倒予防方法の確立に大きく道を開く知見と考える。