第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅4

2014年5月31日(土) 13:00 〜 13:50 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:養老栄樹(社会福祉法人小平市社会福祉協議会あおぞら福祉センター機能訓練「歩」)

生活環境支援 ポスター

[0955] 短時間デイケア利用者の生活機能・生活の質に関連する因子について

石毛里美, 村上貴史, 田辺江理佳, 山口由花 (汐田総合病院リハビリテーション科)

キーワード:デイケア, 高齢者, QOL

【はじめに,目的】
近年,一般高齢者の健康状態は,生物学的因子のみでなく心理・社会経済的因子などの視点が重要であるといわれている。中でも主観的健康観と,自己効力感やストレス対処能力,抑うつ,社会的サポート,経済状況などとの関連性が横断研究にて示されている。
一方,デイケアに通う要介護・要支援高齢者に対しても,生活機能や生活の質(QOL)と,運動機能や自己効力感,住環境,社会的役割などの関連性が多く報告されている。しかし,これらはひとつの側面のみを検討したものがほとんどであり,運動機能,心理的因子,社会経済的因子の3つの側面を考慮した研究はこれまでにされていない。
そこで本研究では,要介護・要支援高齢者の生活機能やQOLに関連する因子について運動機能,心理的因子,社会経済的因子から検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院短時間デイケア利用者(屋内歩行自立レベル)のうち,著明な認知機能低下・高次脳機能障害がない者で,同意が得られた44名とした。年齢は65.4±9.8歳,介護度は要支援1が3名,要支援2が8名,要介護1が11名,要介護2が16名,要介護3が6名であった。主要疾患は脳血管障害が35名,整形疾患が5名,神経難病が4名であった。対象者にはアンケート調査及び運動機能測定を実施した。調査・測定項目は,老研式活動能力指標,PCGモラールスケール,運動機能(Timed up&Go Test(TUG)),心理的因子(ストレス対処能力(SOC),転倒予防自己効力感(FESI)),及び社会経済的因子(社会的サポート(情緒的サポート(受領/提供),手段的サポート(受領/提供)),主観的経済的余裕)とした。上記項目間の関係はSpearmanの相関係数にて検討した。解析にはSPSS ver.17.0を用い,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,研究内容と方法についてヘルシンキ宣言に基づき口頭及び書面にて十分に説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
各項目の平均値は,老研式活動能力指標は9.4±2.7点,PCGモラールスケールは9.2±3.9点,TUGは15.5±6.7秒,SOCは60.6±10.7点,FESIは44.5±10.0点であった。情緒的サポートは受領:有33名・無11名/提供:有30名・無14名,手段的サポートは受領:有38名・無6名/提供:有34名・無10名,主観的経済的余裕は「十分にある」4名,「多少ならある」25名,「あまりない」13名,「全くない」2名であった。
老研式活動能力指標は,手段的サポート(提供)(r=0.44),情緒的サポート(受領)(r=0.43),TUG(r=-0.43),FESI(r=-0.41)と有意な相関関係であった(p<0.05)が,手段的サポート(受領),情緒的サポート(提供)とは有意差がなかった。PCGモラールスケールは,主観的経済的余裕(r=0.58),SOC(r=0.40)と有意な相関関係であった(p<0.05)。
【考察】
生活機能は,IADLを示す「手段的自立」,状況判断や自ら関心をもつことを示す「知的能動性」,家庭や社会での役割があることを示す「社会的役割」の3つの因子から構成される。周りに心配事や愚痴を聞いてくれる人がいる,看病や世話をしてあげようと思う人がいるなど社会的サポートがある者は,家庭や社会とのつながりが強く社会的役割を果たしやすいと考えられた。また運動機能や転倒予防自己効力感の高い者は,活動性が高く,IADLが高くなるため生活機能が向上すると考えられた。
次に,経済状況は生活の最低限度の衣食住,趣味活動や生きがい作りの土台となるものである。金銭的余裕があると,これらの選択の幅が拡がりやすくQOLが向上すると考えられた。逆に金銭的余裕がないと感じると,将来の心配をしやすく,不安がストレッサーとなって抑うつ傾向になるなどQOLを損ないやすいと考えられた。また対象者は,障害受容などの心理ストレス,生活上の身体ストレスが多いと思われる。その中でもストレスに対し前向きに対処する能力の高い者は,肯定的な思考や自らの意志による運動行動を選択しやすいと考えられ,QOLが高くなると思われた。
これまで,一般高齢者において身体的・精神的健康と社会的サポートとの関連や,経済的不安と主観的健康観・抑うつとの関連が報告されており(近藤,2005),本研究でも同様の傾向がみられた。
以上より,デイケアにおいて,運動機能のみでなく心理・社会経済的因子を高めるような介入が重要であると示唆された。今後は,各項目の因果関係や縦断的変化を検証していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
片麻痺を主体とするデイケア利用者において心理・社会経済的因子に目を向け介入していくことは,生活機能・QOL向上の観点から一般高齢者の場合と同様に重要であると示唆され,今後の介入方法の構築に意義があると考える。