[JA04] 折り紙(origami)研究の可能性(3)
「立体イメージ形成」モデル構築の試み
キーワード:折り紙, 立体イメージ, 空間認知能力
■本自主シンポジウムの趣旨
本シンポジウムでは、「折り紙」を題材とした2次元から3次元への変換イメージ形成についてのモデルを提案し、検討することを主たる目的とする。
これまでに、「折り紙」を折ることに関する認知的要因について、実証研究や理論的検討を行ってきた。一連の研究・検討において、「折り紙」を折ることを、2次元である1枚の折り紙を立体に変形させる、つまり3次元に変形させるプロセスとしてとらえている。このプロセスにおいて、2次元から3次元への変形イメージが生じると考えている。
また、2次元から3次元立体イメージの形成について検討する際に、「折り紙」を題材とした理由は、幼児から大人までになじみのある日本の伝統的遊びでありなじみのあるものであることと、比較的独立した課題である、つまり他の領域の課題などの影響を受けにくいものであると考えたからである。
これまでに、成人を主要な対象として「折り紙」をどのように追っているのか、折りパフォーマンスにはどのような要因が関連しているのか検討してきた。その結果、空間認知能力や折り紙に関する知識(経験)の量や質が主要な関連要員であることが示された。
さらに、発達的要因に関する検討も行い、幼児においては、折り紙を折る動作の獲得に困難を持つこと、児童期中期においては「折り図」をみて折る際に、変形させるための動作イメージを生成できないことなどが示された。
これらの結果から、「折り紙」を折ること、つまり2次元から3次元への変換イメージを形成することは、変形イメージを形成するプロセスであるといえるだろう。そして、2次元から3次元への変換イメージ、つまり「立体イメージ」の形成には、空間認知能力、変形イメージ(動作イメージ)が主要な要因として関係していると考えられる。
本シンポジウムでは、これまで実施した研究から得た知見を基盤とし、「立体イメージ形成」モデルの構築を試みる。
話題提供1では、「折り紙」をどのように折っているのかについての事例を示し、モデルを提案する。次に、2つの観点からモデルの妥当性について理論的な検証を行う。話題提供2では、「動作イメージ」からのモデルに関する理論的検討を行う。話題提供3では、「空間認知」の観点からモデルの検証を行う。指定討論1(杉村)では、本研究主題に関して認知発達的観点からの意義を、指定討論2(梶田)では、学習や教育心理学における本研究主題の意義について議論する。
●話題提供1
「立体イメージ形成」モデルの提案
丸山真名美
幼児、児童、成人(経験量に違いがある)「折り」パフォーマンスを紹介する。
幼児では折り紙を折る動作の獲得に、動作の難しさによる差があること、児童については「折り図」から動作イメージを形成することに困難があることが示された。成人については、折り紙の経験が多いことと、空間認知能力が「折り図」を見て折ることに関連していること、経験が少ないものでも一度動作イメージを獲得するとそれを応用することができるようになることが明らかになった。このことから、折り紙を折ること、すなわち「立体イメージを形成」することには、「折り紙の経験=動作イメージのバリエーションの多さ」と「空間認知能力」の2つの要因が関係していることがわかる。また、幼児、児童を対象とした発達的検討から、動作イメージが発達的に高度なものになることから、動作イメージの形成には空間認知能力が影響をしていると考えることができる。
以上から、「立体イメージの形成」モデルについて次のように提案する。スタートは平面であり、到達点は立体である。まず、立体にするには平面をどのように変形させたらよいのか思考実験を行う。このとき、動作イメージが生成される。動作イメージの生成には空間認知能力が基礎的な能力となる。思考実験を繰り返し、立体を完成させる。
さらに、動作イメージは、空間認知能力に強く規定されるものではなく、経験によって動作イメージは獲得されるものだと考えられる。このことから、動作イメージの学習量や、獲得された動作イメージの程度も関連要因として考えられる。動作イメージは階層的構造を持つと想定される。
●話題提供2
折り紙と視覚?動作イメージ
菱谷晋介
身体と対象の相互作用である行為は,大略,下図のようにモデル化でき,その過程では知覚的?運動的イメージが,結果の予測や計画に有用である場合が多い(菱谷, 2013)。折り紙は,紙と手の相互作用の中で造形されるものであり,このモデルが適用可能な典型例の一つである。モデルに従えば,折り紙に関わるイメージは,紙の形に関する視覚的イメージと,手の動きに関する動作・操作のイメージが主だと考えられる。ただ,認知課題へのイメージの関与の仕方は,課題の特性や遂行条件によって変化する。したがって,折り紙とイメージの関係について考察する際にも,これらのことを十分に考慮する必要がある。
伝統的な折り紙の多くでは,紙の形は正方形と決まっており,どこを,どのように折るかということも,その順番もほぼ定まっている。つまり,折り紙では初期状態が固定されており,アルゴリズムも確定しているので,折るという動作によって形は自動的に決定される。したがって,手順が十分に学習された後では,折る位置と,どのように折るかという動作はセットになっており,視覚に依存した形の確認がなくても,折り紙は可能になる。一方,手順が学習される前には,折りの各ステップ間の形の変化の確認や予想にとって,視覚的イメージが重要な役割を果たすかもしれない。あるいは,学習が折り図に基づくものなのか,それとも示範によるのかによっても,イメージの関わり方は変化するかもしれない。
そこで本報告では,次のような,いくつかの条件下での観察,調査,実験結果に基づき,折り紙とイメージの関係について若干の考察を行う:1)折り方の学習完了後にa) 開眼, b) 閉眼で折り紙を遂行しているときのイメージ体験, c) イメージで折り紙を行っているときの,視覚コンポーネントと運動コンポーネントのパフォーマンスへの寄与,2)手の動きだけ(折り紙パントマイム)を観察して学習する際の,パフォーマンスに及ぼす視覚,運動イメージ能力や,性,経験等の効果。
●話題提供3
「空間認知」の観点から
竹内謙彰
ここでの課題は,「立体イメージ形成」モデルに空間認知能力がどのように関与しているかを検討することである。モデルの各要因間の関連を図示すると図2のようになるだろうか。
この図がモデルを正確に表現しているとすれば,モデルの検証は,各要因(コンポーネント)を適切な指標を用いて測定し,共分散構造分析を用いて要因間の関連を明らかにし,モデルの適合度を見ることによって行うことができるだろう。
ところで,この図では,空間認知能力はイメージ形成の基礎的能力として位置づけられている。しかし,イメージが形成されることで,逆に空間認知能力が向上するという逆方向の関係も想定することができる。実際,空間能力を測定する典型的な課題である3次元心的回転課題でも練習効果は認められており,また,イメージを喚起する教示によって,心的回転課題のパフォーマンスが向上することも知られている。このように考えると,図1で示した要因間の関連は,単純化しすぎたモデル化と言えるかもしれない。とはいえ,能力の個人差要因をある程度固定されたものとみなすことでこうしたモデルは成り立つものではあろう。
なお,要因間の関連の程度が明らかになると,空間認知能力以外の要因が折り紙のパフォーマンスにどれくらい影響するかを推測することもできる。むしろ,能力以外の要因,特に経験量の要因の関与が大きいことがわかれば,たとえ空間的問題解決がそれほど得意でなくとも,経験を重ねれば折り紙は折れるようになるのだということができるだろう。
本研究は、科学研究費基盤C(H24~H26)研究代表者:丸山真名美、課題番号24530840の助成を受けて行われた。
本シンポジウムでは、「折り紙」を題材とした2次元から3次元への変換イメージ形成についてのモデルを提案し、検討することを主たる目的とする。
これまでに、「折り紙」を折ることに関する認知的要因について、実証研究や理論的検討を行ってきた。一連の研究・検討において、「折り紙」を折ることを、2次元である1枚の折り紙を立体に変形させる、つまり3次元に変形させるプロセスとしてとらえている。このプロセスにおいて、2次元から3次元への変形イメージが生じると考えている。
また、2次元から3次元立体イメージの形成について検討する際に、「折り紙」を題材とした理由は、幼児から大人までになじみのある日本の伝統的遊びでありなじみのあるものであることと、比較的独立した課題である、つまり他の領域の課題などの影響を受けにくいものであると考えたからである。
これまでに、成人を主要な対象として「折り紙」をどのように追っているのか、折りパフォーマンスにはどのような要因が関連しているのか検討してきた。その結果、空間認知能力や折り紙に関する知識(経験)の量や質が主要な関連要員であることが示された。
さらに、発達的要因に関する検討も行い、幼児においては、折り紙を折る動作の獲得に困難を持つこと、児童期中期においては「折り図」をみて折る際に、変形させるための動作イメージを生成できないことなどが示された。
これらの結果から、「折り紙」を折ること、つまり2次元から3次元への変換イメージを形成することは、変形イメージを形成するプロセスであるといえるだろう。そして、2次元から3次元への変換イメージ、つまり「立体イメージ」の形成には、空間認知能力、変形イメージ(動作イメージ)が主要な要因として関係していると考えられる。
本シンポジウムでは、これまで実施した研究から得た知見を基盤とし、「立体イメージ形成」モデルの構築を試みる。
話題提供1では、「折り紙」をどのように折っているのかについての事例を示し、モデルを提案する。次に、2つの観点からモデルの妥当性について理論的な検証を行う。話題提供2では、「動作イメージ」からのモデルに関する理論的検討を行う。話題提供3では、「空間認知」の観点からモデルの検証を行う。指定討論1(杉村)では、本研究主題に関して認知発達的観点からの意義を、指定討論2(梶田)では、学習や教育心理学における本研究主題の意義について議論する。
●話題提供1
「立体イメージ形成」モデルの提案
丸山真名美
幼児、児童、成人(経験量に違いがある)「折り」パフォーマンスを紹介する。
幼児では折り紙を折る動作の獲得に、動作の難しさによる差があること、児童については「折り図」から動作イメージを形成することに困難があることが示された。成人については、折り紙の経験が多いことと、空間認知能力が「折り図」を見て折ることに関連していること、経験が少ないものでも一度動作イメージを獲得するとそれを応用することができるようになることが明らかになった。このことから、折り紙を折ること、すなわち「立体イメージを形成」することには、「折り紙の経験=動作イメージのバリエーションの多さ」と「空間認知能力」の2つの要因が関係していることがわかる。また、幼児、児童を対象とした発達的検討から、動作イメージが発達的に高度なものになることから、動作イメージの形成には空間認知能力が影響をしていると考えることができる。
以上から、「立体イメージの形成」モデルについて次のように提案する。スタートは平面であり、到達点は立体である。まず、立体にするには平面をどのように変形させたらよいのか思考実験を行う。このとき、動作イメージが生成される。動作イメージの生成には空間認知能力が基礎的な能力となる。思考実験を繰り返し、立体を完成させる。
さらに、動作イメージは、空間認知能力に強く規定されるものではなく、経験によって動作イメージは獲得されるものだと考えられる。このことから、動作イメージの学習量や、獲得された動作イメージの程度も関連要因として考えられる。動作イメージは階層的構造を持つと想定される。
●話題提供2
折り紙と視覚?動作イメージ
菱谷晋介
身体と対象の相互作用である行為は,大略,下図のようにモデル化でき,その過程では知覚的?運動的イメージが,結果の予測や計画に有用である場合が多い(菱谷, 2013)。折り紙は,紙と手の相互作用の中で造形されるものであり,このモデルが適用可能な典型例の一つである。モデルに従えば,折り紙に関わるイメージは,紙の形に関する視覚的イメージと,手の動きに関する動作・操作のイメージが主だと考えられる。ただ,認知課題へのイメージの関与の仕方は,課題の特性や遂行条件によって変化する。したがって,折り紙とイメージの関係について考察する際にも,これらのことを十分に考慮する必要がある。
伝統的な折り紙の多くでは,紙の形は正方形と決まっており,どこを,どのように折るかということも,その順番もほぼ定まっている。つまり,折り紙では初期状態が固定されており,アルゴリズムも確定しているので,折るという動作によって形は自動的に決定される。したがって,手順が十分に学習された後では,折る位置と,どのように折るかという動作はセットになっており,視覚に依存した形の確認がなくても,折り紙は可能になる。一方,手順が学習される前には,折りの各ステップ間の形の変化の確認や予想にとって,視覚的イメージが重要な役割を果たすかもしれない。あるいは,学習が折り図に基づくものなのか,それとも示範によるのかによっても,イメージの関わり方は変化するかもしれない。
そこで本報告では,次のような,いくつかの条件下での観察,調査,実験結果に基づき,折り紙とイメージの関係について若干の考察を行う:1)折り方の学習完了後にa) 開眼, b) 閉眼で折り紙を遂行しているときのイメージ体験, c) イメージで折り紙を行っているときの,視覚コンポーネントと運動コンポーネントのパフォーマンスへの寄与,2)手の動きだけ(折り紙パントマイム)を観察して学習する際の,パフォーマンスに及ぼす視覚,運動イメージ能力や,性,経験等の効果。
●話題提供3
「空間認知」の観点から
竹内謙彰
ここでの課題は,「立体イメージ形成」モデルに空間認知能力がどのように関与しているかを検討することである。モデルの各要因間の関連を図示すると図2のようになるだろうか。
この図がモデルを正確に表現しているとすれば,モデルの検証は,各要因(コンポーネント)を適切な指標を用いて測定し,共分散構造分析を用いて要因間の関連を明らかにし,モデルの適合度を見ることによって行うことができるだろう。
ところで,この図では,空間認知能力はイメージ形成の基礎的能力として位置づけられている。しかし,イメージが形成されることで,逆に空間認知能力が向上するという逆方向の関係も想定することができる。実際,空間能力を測定する典型的な課題である3次元心的回転課題でも練習効果は認められており,また,イメージを喚起する教示によって,心的回転課題のパフォーマンスが向上することも知られている。このように考えると,図1で示した要因間の関連は,単純化しすぎたモデル化と言えるかもしれない。とはいえ,能力の個人差要因をある程度固定されたものとみなすことでこうしたモデルは成り立つものではあろう。
なお,要因間の関連の程度が明らかになると,空間認知能力以外の要因が折り紙のパフォーマンスにどれくらい影響するかを推測することもできる。むしろ,能力以外の要因,特に経験量の要因の関与が大きいことがわかれば,たとえ空間的問題解決がそれほど得意でなくとも,経験を重ねれば折り紙は折れるようになるのだということができるだろう。
本研究は、科学研究費基盤C(H24~H26)研究代表者:丸山真名美、課題番号24530840の助成を受けて行われた。