The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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学校現場の<チーム援助>をどのように促進するのか

学校現場にどのように関われば良いのか

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 504 (5階)

[JA06] 学校現場の<チーム援助>をどのように促進するのか

学校現場にどのように関われば良いのか

水野治久1, 本田真大2, 朝日真奈3, 荊木まき子4, 梅川康治5, 河村茂雄6 (1.大阪教育大学, 2.北海道教育大学, 3.北大通こころのクリニック, 4.兵庫教育大学連合大学院, 5.堺市立神石小学校, 6.早稲田大学)

Keywords:チーム援助, 学校心理学, 教育実践

【企画趣旨】
子どもの援助ニーズに応えるためには「チーム援助」を導入し,心理面や社会面だけでなく子どもの学習面や進路面,健康面を視野に入れた援助を複合的に提供することが望ましい(石隈,1999)。加えて,保護者を援助のパートナーとして捉えることが大事だ(田村・石隈,2007)。良い援助を提供するためには学級担任,養護教諭,特別支援教育コーディネーター,スクールカウンセラーなどと援助をすりあわせていく必要がある(家近・石隈,2003)。更に管理職やミドルリーダーとの調整・連絡も必要不可欠である(山口,2012)。
チーム援助には,学校雰囲気(西山・淵上・迫田,2009)や昨今の教育行政の在り方,教師自身の被援助志向性(田村・石隈,2001)が影響する可能性がある。教師がチームで子どもを援助するためには様々な研究や実践の知見を積み上げていく必要がある。
そこでこのシンポジウムでは学校現場に関わる機会の多い会員に登壇頂き,学校現場でチーム援助を定着させるためにはどうしたらよいかについて,研究,実践の両面から検討したい。

【話題提供】
1.チーム援助研究の理論的枠組みの提案
本田真大(北海道教育大学)
チーム援助研究はチームの形態(コア援助チーム)(田村・石隈,2003),システムのレベル(コーディネーション委員会)(家近・石隈,2003)の他にも,チーム援助に参加する教師のチーム援助志向性(水野,2014),学校組織の風土(西山・渕上・迫田,2009)などの促進要因の研究が行われている。本発表ではチーム援助研究を展望し,チーム援助と関連する変数を整理するための理論的枠組みの提案を試みる。具体的には,個別の援助チームの形成・終結過程という時間軸,及び学校のシステムレベルの軸を基に,チーム援助の機能や形態,促進要因を位置づけ,チーム援助研究の全体像を俯瞰する。

2. 常勤型スクールカウンセラーが実践するチーム援助への工夫
朝日真奈(北大通こころのクリニック・北海道SC)
私学常勤型スクールカウンセラー(以下SC)の立場から,SCがチーム援助にどのように関わってきたのかについて実践報告を行いたい。
昨今の学校現場では,いじめ問題や困難事例などの対応を求められることが日常的にある。教師一人の力では問題解決に至らないことも多いのではないだろうか。学校でのチーム援助は,教師にとっても生徒や保護者にとっても有用であることが多いということが現場の実感としてある。特にいじめの対応に関しては,教師が一人で対応することは難しく,チームで組織的に対応・支援することが有効であるということが先行研究からも明らかである(栗原,2007;藤川,2013;曽我部,2013)。
このような教育現場の課題に柔軟で敏速に対応していくためには,チーム支援システムの確立が必要である(田村・石隈,2003)。教師やSCに異動があったとしても,教師集団として,及び教師とSCなどの外部専門家がチームとして課題解決に対応していくシステムを確立しておけば,学級担任などが援助を求めることに抵抗感を抱き,一人で抱え込みがちになることを防止できることも考えられる(田村・石隈,2001,2002)。
SCが教育相談部の教師らと共に援助システムを機能させ、養護教諭とのバランスを取りながらSC自身がコーディネートをした事例などに関してご紹介をしたいと考えている。
3.教職員間の協働から見た職場雰囲気の向上 荊木まき子(兵庫教育大学連合大学院)
<チーム援助>において,これまで学校内の雰囲気や管理職のリーダーシップの影響が述べられてきた(西山・淵上・迫田,2009)。しかし,児童・生徒の支援と職場の雰囲気の相互関係は,明らかにするまでになっていない。その理由の一つとして,学校の雰囲気に影響する教員間の協働と<チーム援助>等に代表されるスクールカウンセラー(以下SC)や,児童・生徒の支援に関わる協働が学校経営学や学校心理学等の各領域で検討されてきたことがあげられるだろう(淵上,2000)。
荊木らは学校内の協働についてSC,管理職,ミドルリーダーの観点による調査・事例研究から,教員間協働の機能や相互関係の検討を行ってきた。その結果,SC観点(荊木・森田,投稿中)から,教職員間は,①情報共有,②役割分担,③支援のための疎通性,④学校の組織開発(管理職)により協働の違いがあること。校長や教頭の管理職は,不登校の改善のための校内体制整備や新規事業設立等,学校全体のビジョンを示していた(荊木・淵上・古市,2014;荊木,投稿中)。主幹(主席)教諭や主任層のミドルリーダーは,ビジョンの具体化として,実際の人員調整や各校務分掌間での連携等,一般教職員が活動可能な行動計画を作成していた(荊木・杉本・淵上・安藤,投稿中)。
このように職場内の雰囲気向上には,各立場で現状を理解した上での全体の方向性を示すことや,チーム行動を促進する組織開発,教員間の情報共有,役割分担,疎通性が必要となるだろう。

4.チーム援助の担う教員対象の研修の取り組み梅川康治(堺市神石小学校)
従来のチーム援助会議は,原因や背景の中に解決の材料を探し出すことが多かった。しかし,チームで話し合っても,解決の材料が見つからず,事態が改善しないと「原因探し」は「犯人探し」になりがちになり,「この子に何回指導しても変らない」「結局,私だけが頑張るしかないのか」と,担任が無力感や孤立感で一杯になるという会議になりがちになっていた。これではチーム援助会議をしても子どもに対する援助は充実しない。
そこで,堺市教育委員会教育センターの教育相談グループのスタッフで,担任が元気になり,援助が確実に子どもに届く,チーム援助会議を検討した。試行錯誤を重ね,解決につながる材料の発見に必要なセンスとスキルをチームで出来る限り簡単に身に付けるトレーニング方法を考え,いろいろな文献やワークを参考に「チーム援助トレーニング研修」を開発した。
堺市では,10年前から毎年参加希望者に,6時間の研修を実施している。研修は,①チーム援助会議の基本スタンス,②チーム援助の基準の明確化,③援助の目標設定の方法,④担任を支える方法である。例えば①の「チーム援助会議の基本スタンス」では,事例をチームで検討し,捉え直しのワークをして再検討している。
受講者からは,「立場や価値観やとらえ方が違うメンバーが集まるチーム援助会議は,リソースモード(解決志向モード)で出発することが重要だ」という意見が寄せられた。教育委員会は,研修を受講した教員が,担任や子どもや保護者を援助し,チーム援助会議を円滑に進める中心的な人材なることを期待している。

主要引用文献
家近早苗・石隈利紀 (2003). 中学校における援助サービスのコーディネーション委員会に関する研究:A中学校の実践をとおして 教育心理学研究,51,230-238.
石隈利紀 (1999). 学校心理学―教師・スクールカウンセラー・保護者のチームによる心理教育的援助サービス 誠信書房
水野治久 (2014). 子どもと教師のためのチーム援助の進め方 金子書房
西山久子・渕上克義・迫田裕子 (2009). 学校における教育相談活動の定着に影響緒及ぼす諸要因の相互関連性に関する実証的研究 教育心理学研究,57, 99-110.
田村節子・石隈利紀 (2003). 教師・保護者・スクールカウンセラーによるコア援助チームの形成と展開:援助者としての保護者に焦点をあてて 教育心理学研究,51,328-338.
田村修一・石隈利紀 (2001). 指導・援助サービス上の悩みにおける中学校教師の被援助志向性に関する研究―バーンアウトとの関連に焦点を当てて― 教育心理学研究,49,438-448.
山口豊一(2012).中学校のマネジメント委員会に関する学校心理学的研究 風間書房