The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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予防的心理教育プログラムの導入と展開

学校間や学校・関係機関間の連携での“壁“を乗り越えるには?

Fri. Nov 7, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 502 (5階)

[JB02] 予防的心理教育プログラムの導入と展開

学校間や学校・関係機関間の連携での“壁“を乗り越えるには?

小泉令三1, 高松勝也1, 山田洋平2, 三渕剛3, 松本亜紀4, 柴原通裕5, 窪田由紀6 (1.福岡教育大学, 2.梅光学院大学, 3.福岡教育大学大学院, 4.九州大学, 5.都城市立川東小学校, 6.名古屋大学)

Keywords:心理教育プログラム, 社会性, 学校・関係機関連携

企画趣旨 高松勝也
問題行動,いじめ,不登校などの学校不適応を予防し,学校環境を適切なものにするために,小中学校等における予防的心理教育プログラムの導入と展開が進んでいる。さらに,子どもの環境全体への働きかけをめざして,小学校と中学校,あるいは学校と関係機関との連携が図られているが,そこにはさまざまな“壁”が存在している。
本シンポジウムでは,その“壁”を乗り越える有効な手段を検討するために,まずそれぞれの実践の場において,どのような“壁”が存在するのかを共有することを目的としたい。

子どもを取巻く環境整備の観点 小泉令三
子どもの成長に関わる環境には,時間と空間の2つの軸が存在する。時間軸については保幼・小や小・中の連携等があり,空間軸には学校と学校外の生活の場の連携がある。どちらにも関わるのは家庭であるが,社会制度の面では,2つの軸に関係する教育機関や福祉機関の役割が大きい。ただし,これらの機関間の連携については,不十分であり,まず課題を明らかにする必要がある。

小学校と中学校の連携 三渕 剛
A町では,小規模の4小学校から1中学校への進学となるため,町としての取組が,そのまま中学校ブロックでの取組となる。A町では,平成26年度より,児童・生徒の社会的能力の育成のため,中学校ブロックに「社会性と情動の学習(SEL)」の中のSEL-8S(Social and Emotional Learning of 8 Abilities at the School)を導入し,実践を進めようとしている。
中学校ブロックへのSEL-8S導入に向けて,前年度の平成25年度は,1年間をかけて,報告者が,校長への事前説明やモデル授業の提示,職員研修会を各校でそれぞれ1回以上行い,準備を進めてきた。また,A町教育委員会指導主事と一緒に,平成26年度のA町SEL-8Sモデルカリキュラムを作成・提案した。教育課程への位置づけや組織づくりが完了し,体制は整いつつあると言える。
一方で,複数の学校が連携してSEL-8Sを実施・継続していくに当たって,次のような課題がある。①小・中間はもちろん,小・小間でも教育課程が異なること,②毎年必ず,校長を含め職員の異動や新規採用があること,③必ずしも各校にSEL-8Sを推進する教員や組織が存在するわけではないこと,④他校の実践や進捗状況の情報を学校間で交流する機会が少ないこと,である。これらのことが,複数の学校で足並みを揃えて実践を進めることを困難にしていると言える。
これらの課題解決の最も重要なカギとなるのが,「各校の推進教員が集まっての研修会(以下,コーディネーター的教員研修会)」を「定期的に行うこと」にあると考える。この研修会の目的は,推進教員の育成と,5校の足並みを揃え,各校でのSEL-8S実践を促進することにある。内容としては,各校の授業実践や校内研修に関する情報交換,各校の児童・生徒の学習状況の参観,次年度のSEL-8Sの教育課程への位置づけの改善等が考えられる。これを行うことで,各校の教育課程の中に,ある程度共通したSEL-8Sのユニットを,各校の実態に合わせた形で位置付けることが可能になる。また,人事異動や新規採用による新しいメンバー構成になっても,あるいは,推進教員が交代しても,他校の推進教員やコーディネーター的教員研修会の動きをモデルとして見ながら,SEL-8Sの実践を進めやすくなる。規模が大きい学校ならば,推進教員を複数体制にしておくと,メンバー構成の変化にも対応しやすくなるであろう。
そして,何より,小・中学校の推進教員が互いの実践状況を知る機会を得られることが大きい。小学校では,中学校でも通用する社会的能力を児童に身に付けさせていく。中学校では,小学校までの積み上げを生かし,高校以降でも通用する社会的能力を生徒に身に付けさせていく。コーディネーター的教員研修会での情報交流をもとに,各校の推進教員がこれらの使命を感じ,各校でのSEL-8S実践へとつないでいくことが,中学校ブロック5校連携しての児童・生徒の社会的能力育成に,よい効果を及ぼすはずである。

児童自立支援施設と学校の連携 松本亜紀
児童自立支援施設X県立B学園内には,小中学校の分校が併設され,児童自立支援施設の職員と分校の教員がそれぞれの立場で入所児童を指導・教育している。5年前からは入所児童が大半の時間を過ごす生活寮において,非行少年用SEL(以下,SEL-8D)の実践が開始された。実践開始から3年目に分校からも,SEL-8Dを実施したいとの要望があった。そこで3年目は,生活寮と分校においてSEL-8Dを階層的に実践することとなった。まず分校での実践では,子ども達は架空の事例を用いて,対人関係能力や情動調整能力の基礎を学び,また生活寮での実践では,分校での学習を踏まえ,寮生活において子ども達が経験したトラブル事例への対応を学ぶこととなった。この階層的実践にあたっては,B学園と分校の密な連携の上で行われることが期待された。しかしながら実際には,その連携は必ずしも進展しなかった。
連携を難しくしている要因として,まず挙げられるのは,児童自立支援施設と小中学校の分校では,指揮監督の系統や予算の出所が異なることである。B学園は,県立の機関であり,機関の長は「学園長」である。一方で,B学園内に併設された分校は町立の機関であり,機関の長は「分校長」である。このように両機関は所属長が異なるだけでなく,そもそも主管する行政組織そのものが異なる。またそれぞれの職員室も異なり両機関の職員が顔を合わせる機会はそれほど多くない。そのため,それぞれの機関におけるプログラム実施状況については,最低限の情報共有に留まっていたようである。
二つ目の要因としては,両機関の設置目的や所掌事務などの違いによる指導方針の相違が挙げられる。B学園は,児童の社会性や規範意識の育成に重点を置いているのに対し,分校は,児童の心情理解に重点を置いている。そのため入所児童は,施設職員の前では規律に従った行動をとる一方,分校教員の前ではそのように畏まることはなく,比較的自由に行動している。両機関の職員は,入所児童が態度を使い分けていることを承知しており,施設職員は分校に対して“授業が成立していない”,分校教員は施設に対して“形だけ規律に従わせても児童が心から納得しない限り身につかない”とお互いの指導方法に必ずしも納得していない声も聞かれる。このように指導方針が異なるため,一方の機関がプログラム実施方法について提案しても,その提案に沿って両機関で統一した方針で進めることが難しいこともあったようである。
児童自立支援施設も施設内の分校もともにこれまで以上に連携する必要性は感じており,お互いに歩み寄る試みがなされている。しかしながら,これまで述べたように,機関の制度(指揮監督・予算)や職種・職務の違い,またそれらに伴う認識の違いにより連携がうまく機能していないのが現状である。

学校と児童養護施設の連携 柴原通裕
今年3月まで勤務していたC小学校は,生徒指導上の問題が多く,学級担任だけでの対応では大変困難であり,組織的な対応が求められていた。
私が8年間勤務した中で,子どもの生徒指導上の問題の内容がずいぶん変わってきたが,その発生要因が何なのか(子ども自身,家庭環境,学校での生活の中等)を調査し,教職員の思いを実現できる積極的な生徒指導や予防的・治療的な生徒指導を行うことで,問題行動等を減少させ,良好な人間関係を保ちながら学校生活を過ごさせることができるのではないかと考えた。
こうした中,福岡教育大学でSEL-8Sの研修会が開催されることを知り,早速,参加させてもらい,職員に研修内容を報告し,校内研修の主題研修として「SEL-8S」に取り組むことにした。
C校は,校区の児童養護施設と母子生活支援施設(昨年10月閉所)から,約25名の子どもが登校していた。近年の傾向から,施設に入所している子どもには,虐待を受けたり,DVを目の当たりにしたりしてきた子ども,発達障がいのある子どもが増え,処遇上,集団不適応や対人関係の問題,性的問題等の様々な困難が生じている。
この実態を踏まえ,児童養護施設では,集団での「セカンドステップ」の実践を通して,子どもが集団の中で社会的スキルを身に付け,様々な場面で自分の感情を言葉で表現したり,対人関係や問題を解決する技術を向上させて,怒りや衝動をコントロールしたりできるような学習会を定期的に行うことになった。また,学習の展開は,資格を有する施設職員と私で,進めることにした。
母子生活支援施設でも,同様の悩みを抱えており,施設長から学校や児童養護施設で実践しているような取組を教えて欲しいとの要望があり,具体的な内容を定期的に伝えることにした。
子どもの課題改善のための取組を進めると,指導する側の共通認識,つまり,学校職員と施設職員の共通理解の必要性が新たな課題となった。
例えば,怒りのコントロールをするために,自分自身を落ち着かせる方法にも,学校と施設での指導や合い言葉には違いがあり,子どもの中で混乱を招く場合があることがわかった。そこで,学校の研究と児童養護施設の学習の内容を理解し,子どもにより効果的な学習となるようにコーディネートする職員が必要になってきた。
校内では,私が研究主任と連携しながら,全職員が研究実践できるような研修の在り方を検討し,各教員の実践のサポート役として活動した。また,児童養護施設等で実践している「セカンドステップ」の学習プログラムや実践内容について,校内の職員に紹介する一方で,児童養護施設の職員へは,校内の研修内容について説明することで,共通実践ができるような調整を行った。
【付記】(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター 研究開発成果実装支援プログラム「学校等における犯罪の加害・被害防止のための対人関係能力育成プログラム実装」(研究代表者:小泉令三)の助成を受けた。