The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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保育に生かす巡回相談Ⅲ

保護者支援につなげる巡回相談

Fri. Nov 7, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 503 (5階)

[JB08] 保育に生かす巡回相談Ⅲ

保護者支援につなげる巡回相談

藤井和枝1, 金谷京子2, 宮崎豊3, 福島豊4 (1.浦和大学, 2.聖学院大学, 3.玉川大学, 4.植竹幼稚園)

Keywords:保育巡回相談, 保護者支援, 気になる子ども

【企画主旨】
保育巡回相談は,保育者支援が主な目的である。保育者は気になる子どもの保護者への対応に苦慮し,心理的負担を抱えることが多いため,巡回相談者が保護者と直接面談をしたり,保護者対応に当たる保育者支援を通して間接的に保護者支援をしている。直接的・間接的な保護者支援のあり方を考え,今後の巡回相談の一助としたい。

【保護者との懇談例を通して】 金谷京子
 保育巡回相談では,本来保育者支援をしながら子どもの発達支援を共に考えていることが仕事と
なる。しかしながら,外部専門家の力を借りて,保護者と直接話し合いをしてほしいと保育者が要請してくることもある。筆者が経験した保護者との懇談ケースの依頼内容には,(1)保護者に障害受容をしてほしいときに,保護者に障害についての説明や今後の見通し,専門機関の紹介,地域資源の活用などを説明してほしいとの要請,(2)小学校への見通しについて保護者に伝えたいときに,就学の進路選択の方法,小学校での生活,教師との連携などを説明してほしいとの要請が多い。対象となる保護者には,積極的に保護者のほうから巡回相談員に相談してみたいというケースもあれば保育者の思いが保護者に伝え切れず,コミュニケーションが取りにくくなっているケースもある。ことに後者の場合は,保護者も緊張して懇談に臨んでくる。(1)の障害理解に関して,保護者と保育者の認識のズレがあるときには,こうした例が多い。このようなケースの場合は,まずは園での子どもの様子を十分観察して実態を把握し,保護者には,単に保育者の代弁者ではないとの姿勢を示しつつ,保護者の話を丁寧に聞いて,保護者が困難を感じていることを共に考えていくようにしている。さらに,子どもの良いところ,強みを伸ばす方略を共に考えていくことをポイントとして,保護者のエンパワメントを図るように努めている。こうした話し合いには,特殊なケースを除いては,園長に同席してもらい,その後の担任とのコミュニケーションが取りやすくなるようなきっかけづくりをするように努めている。また,担任とは,次の回の巡回相談の際に,カンファレンスで保護者とのその後のやり取りについての協議をするようにして,当該の保護者とのアプローチ,さらには子どもとのアプローチのポイントを共に考えるようにしている。(2)の小学校への移行支援に関しては,相談員が地域情報を把握しておき,就学相談の機関も紹介できるようにしている。また,保育者に小学校での学習や生活について知らせ,年長クラスで少しずつ園児が入学に向けて心づもりをしていけるような保育ができるように助言している。

【子どもの園生活を豊かにするための保護者への保育指導を支える巡回保育相談】 宮崎 豊 
 巡回(保育)相談における保護者支援を考えると,(1)行政や保育者の依頼を受けて相談員が保護者に直接会い支援をする,(2)保護者への保育指導をする保育者を支える,という2つの方法がある。筆者は,かかわっている行政の考えも重ねたうえで,後者(2)の方法で保護者支援に取り組み,そのことで子どもの園での豊かな生活(暮らし)と遊びが展開され,さらに子どもの育ちが保証されることを願っている。
前者(1)の方法では,外部の専門家が第三者として,保育の中で見えてきた子どもの姿を語り,保護者と情報を共有することに始まる。そのことで,保護者が子どもの育ちを見る眼を新たにしたり,子どもへのかかわりを考えたり,専門機関へのつながりや就学のことを考えたりするという役割を果たすと考える。また,第三者が話すことで日常で利害関係を最小限にし,保護者が事実に向き合い易く,保育者が保護者の気持ちを受け止める仲介役を担い,双方の関係性が深まる等のメリットもあると考える。
こうしたメリットも勘案しても,筆者は(2)のスタンスに立ち,巡回保育相談の保育カンファレンスの中での支援をしている。それは,「保護者の保育指導をすること」は保育者の専門性を生かした役割であると保育所保育指針でも掲げられていることにもある。その原理に基づき,保育者の専門性を自覚化する過程に寄り添うこと,つまり,保育者のエンパワメントを支えることを大切にしている。カンファレンスで保護者の支援が必要な事例があった場合には,A)保護者と保育者の子どもを見つめるまなざしの違いを肯定的にとらえること,B)保護者の『わが子の障害受容』や『障がいのある子どもの保護者になる』ことの複雑な心情の過程を知らせる,C)保護者の24時間,365日,また,終点の見えないさまざまな不安があること,D)家族・親類,周囲の環境調整をするため思いを巡らすことを知らせる,E)双方の感情の「ズレ」が少なくなるように保育者の「揺らぎ」に寄り添うことを大切に対話をするように心掛けている。もちろん,この過程を共有する基盤には,巡回相談とは相談の答えをもらう場ではなく,保育者の専門性をもった保育者自身の思考や行為の自己決定を支える営みであるという共通の認識があることが前提であることは言うまでもない。

【保育者との連携による保護者支援】 藤井和枝
 保育巡回相談において,気になる子どもの保護者支援に苦慮し,心理的負担を抱える保育者への支援(間接的保護者支援)について取り上げたい。
保育者が気になる子どもは,既に専門機関に繋がり診断を受けた子どもと未だ専門機関に繋がっていない子どもに大別される。後者の場合,保育者が保護者に子どもの気になる行動を伝え,保護者の理解を得て,専門機関に繋げていくことが保育者には大きな課題となっている。
後者の保護者の中には,子どもの育てにくさを抱え,心身ともに疲れている人もいれば,特に子どもに問題を感じていない人もいる。わが子に育てにくさを感じている場合でも,保育者から幼稚園や保育所での,特に保育者が気になっているわが子の様子について伝えられることは,保護者にとって気分の良いことではなく,それを境に両者間の信頼関係が崩れることもある。そのため,保育者は伝え方について熟慮し悩み,保護者対応・保護者支援が大きな負担となっていることが少なくない。
保育者は,「保護者にできるだけ早く子どものことを理解してほしい,専門機関に繋げたい,子どもの特性に応じた対応を家庭でも行ってほしい,子どもの困り感が軽減し生活しやすくなってほしい,就学までに○や△ができるようになってほしい」などを願うことが多く,保護者面談で力が入り過ぎ,保護者を追い込んでしまうことがある。保育者と保護者の信頼関係を構築し保つことが,保護者支援に必要不可欠であるため,保育者の立場から話しを進めたり,保護者側の事情を軽視すると保護者が心を閉ざし,支援が難しくなる。
そこで,保護者面談では,できるだけ保護者の立場に立ち,焦らず時間をかけて話しを進めること,日々の子育ての労をねぎらい,園での子どもの良い面や園で示す子どもの特性と上手くいった対応を具体的に伝え,家庭での様子や保護者の苦労を伺い,保護者に共感することを奨めている。
保護者が家庭では特に問題を感じていない場合,保護者の都合に合わせて保育参観を促し,子どもの特性が表れやすい場面をみてもらい,上記同様,徐々に話を進めていくよう奨めている。
また,巡回相談者が,保育者の日々の保育や保護者対応についてしっかり話を伺い,保育者に共感し,その苦労や努力を認め,工夫や対応についての良い点を褒めるなど,保育者の言動を肯定することが,保護者への間接的支援に繋がっていくと考えられる。